~あらすじ~
天才建築家が山奥に建てた巨大な私邸「眼球堂」。そこに招待された、各界で才能を発揮する著名人たちと、放浪の数学者・十和田只人に彼を追い回すライター陸奥藍子を待っていたのは、奇妙な建物、不穏な夕食会、狂気に取りつかれた建築家……そして奇想天外な状況での変死体。
この世界のすべての定理が描かれた神の書『The Book』を探し求める十和田は、一連の事件の真実を証明できるのか?
第47回メフィスト賞。
~感想~
どうやら出版業界にはジャケ帯でどんな嘘をついてもいいという不文律があるようで「刮目せよ、これがメフィスト賞だ!」という煽りに全くそぐわない少しもメフィスト賞らしくないフツーの作品であった。
メフィスト賞といえば、尖っていなければメフィスト賞ではないと言わんばかりの、作品の質よりも尖り具合を売りにしている賞だと考えていたのは、こちらの思い込みだったのだろうか。
その「尖っていなさ」は間違いなくメフィスト賞史上ナンバーワン。僕が知らないだけで「本格ミステリテンプレ集」みたいなのが売っていて、そこから引き写したのだろうかと思うような「変人探偵」「恋人でも親友でもない女ワトソン」「奇妙な館」「集められる天才たち」「寝ている間に起きる殺人」「4ページにわたる悪夢」と序盤からもはや尖っていなさすぎて球体のような既視感バリバリの展開に次ぐ展開。
というか見取り図が出てきた瞬間に「これ絶対●●るよね?」と看破できる館トリックに、「これ絶対●●ったよね?」とわかる殺人事件からして驚異のノーガード戦法。
そして「動く家の殺人かと思ったら長い家の殺人でしかも安達ケ原の鬼密室でした」な歌野晶午マジリスペクトの結末まで一直線に突き進む様はいっそ清々しい。もしかしてテンプレ集の作者は歌野晶午なのか?
楽屋落ちめいたエピローグでちょっとしたどんでん返しと、ほとんど意味のない叙述トリックが明かされるものの、その手掛かりがやっぱり出ましたなア●●●●だったりするのもどこまでもテンプレ大活用である。
文章こそ昨今の流行に歯向かい至極まっとうで、探偵のキャラは「面白くない御手洗」程度の味付けながら、数学に特化した会話と、読み流しても容易に把握できる(既視感バリバリだからじっくり読む必要がないとも言うが)余計な装飾を省いた素材の味でなかなか達者だが、そのテンプレに始まりテンプレに終わる物語とあいまって、それこそ歌野晶午が島田荘司御大に原稿用紙の使い方を教わっていた80年代の生まれたての本格ミステリさながら。
と、ここまで散々にくさしてきたが、その矛先は作者ではなく出版社に向けているつもりだ。
これのどこが「これがメフィスト賞だ!」なのか。メフィスト賞、いや講談社という本格ミステリと切っても切れない出版社(特に講談社ノベルスというレーベル)そのものをこよなく愛する一人として「俺の知ってるメフィスト賞と違うわ」としか言いようがない。一昔前のメフィスト賞なら二次選考で落としていたのではないか?
売らんかなだけを考えた過大な表現は自分の首を絞めるだけだと、新装版ばかり出している暇があったら考えて欲しいものである。
……まあこれだけ普通に書ける力がある作者なら、次作はどうなるのか、テンプレ集を手放すのか興味深く、ぜひ読んでみたいと思っている僕自身が出版社の罠にはまっているのだが。
13.4.21
評価:★★★ 6
天才建築家が山奥に建てた巨大な私邸「眼球堂」。そこに招待された、各界で才能を発揮する著名人たちと、放浪の数学者・十和田只人に彼を追い回すライター陸奥藍子を待っていたのは、奇妙な建物、不穏な夕食会、狂気に取りつかれた建築家……そして奇想天外な状況での変死体。
この世界のすべての定理が描かれた神の書『The Book』を探し求める十和田は、一連の事件の真実を証明できるのか?
第47回メフィスト賞。
~感想~
どうやら出版業界にはジャケ帯でどんな嘘をついてもいいという不文律があるようで「刮目せよ、これがメフィスト賞だ!」という煽りに全くそぐわない少しもメフィスト賞らしくないフツーの作品であった。
メフィスト賞といえば、尖っていなければメフィスト賞ではないと言わんばかりの、作品の質よりも尖り具合を売りにしている賞だと考えていたのは、こちらの思い込みだったのだろうか。
その「尖っていなさ」は間違いなくメフィスト賞史上ナンバーワン。僕が知らないだけで「本格ミステリテンプレ集」みたいなのが売っていて、そこから引き写したのだろうかと思うような「変人探偵」「恋人でも親友でもない女ワトソン」「奇妙な館」「集められる天才たち」「寝ている間に起きる殺人」「4ページにわたる悪夢」と序盤からもはや尖っていなさすぎて球体のような既視感バリバリの展開に次ぐ展開。
というか見取り図が出てきた瞬間に「これ絶対●●るよね?」と看破できる館トリックに、「これ絶対●●ったよね?」とわかる殺人事件からして驚異のノーガード戦法。
そして「動く家の殺人かと思ったら長い家の殺人でしかも安達ケ原の鬼密室でした」な歌野晶午マジリスペクトの結末まで一直線に突き進む様はいっそ清々しい。もしかしてテンプレ集の作者は歌野晶午なのか?
楽屋落ちめいたエピローグでちょっとしたどんでん返しと、ほとんど意味のない叙述トリックが明かされるものの、その手掛かりがやっぱり出ましたなア●●●●だったりするのもどこまでもテンプレ大活用である。
文章こそ昨今の流行に歯向かい至極まっとうで、探偵のキャラは「面白くない御手洗」程度の味付けながら、数学に特化した会話と、読み流しても容易に把握できる(既視感バリバリだからじっくり読む必要がないとも言うが)余計な装飾を省いた素材の味でなかなか達者だが、そのテンプレに始まりテンプレに終わる物語とあいまって、それこそ歌野晶午が島田荘司御大に原稿用紙の使い方を教わっていた80年代の生まれたての本格ミステリさながら。
と、ここまで散々にくさしてきたが、その矛先は作者ではなく出版社に向けているつもりだ。
これのどこが「これがメフィスト賞だ!」なのか。メフィスト賞、いや講談社という本格ミステリと切っても切れない出版社(特に講談社ノベルスというレーベル)そのものをこよなく愛する一人として「俺の知ってるメフィスト賞と違うわ」としか言いようがない。一昔前のメフィスト賞なら二次選考で落としていたのではないか?
売らんかなだけを考えた過大な表現は自分の首を絞めるだけだと、新装版ばかり出している暇があったら考えて欲しいものである。
……まあこれだけ普通に書ける力がある作者なら、次作はどうなるのか、テンプレ集を手放すのか興味深く、ぜひ読んでみたいと思っている僕自身が出版社の罠にはまっているのだが。
13.4.21
評価:★★★ 6