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ミステリ感想-『五覚堂の殺人』周木律

2014年02月18日 | ミステリ感想
~あらすじ~
天才数学者・善知鳥神に五覚堂へ招かれた十和田只人。
そこでごく最近、旧知の宮司百合子が殺人事件に巻き込まれるビデオを見せられるが、現場に事件の痕跡は全く無かった。
狂気の建築家の手になる五覚堂の事件はどこへ消失したのか?


~感想~
80年代本格を書ける新鋭のシリーズ第三弾。出来は今までの中で最悪の部類。
↓前二作も含め派手にネタバレするので要注意↓

デビュー作では歌野晶午、前作では森博嗣をマジリスペクトし、三作目では誰をマジリスペクトするのか、それとも歌野・森をWリスペクトして「動く家の数学者」を書いてきたらどうしよう(アインシュタイン・ゲーム以来8年ぶり3回目)とワクワクしていたら、今回は僕の知る限り誰もマジリスペクトしてこなかった。
というかそれ以前に本格ミステリ作品として成立していないくらい伏線が酷い。仕掛けられるたびに片っ端から目に留まる間違い探しゲーム状態で、あまりに露骨過ぎて作者には伏線を隠す気がないのではと思えるほど。

悪い意味で驚かされるのは、読み始めて39ページであっさり気づき「これがメイントリックだったらどうしよう」と危ぶんだ叙述トリックがメインどころかサブトリックですらなく、単なる犯人特定の手掛かりとして消費されるだけという意味無しっぷり。変わった病気や障害を犯人ではないことの証左にだけ使ったのはこれで二度目だしな。
時系列や場所をずらしたトリックも映画「SAW」の何作目かと何作目かで見たような既視感バリバリのものだし、おなじみの館トリックもやはり使い方を盛大に間違っていて、隙間を広げて氷を溶かすだけの脱力っぷり。
たしかに「斜め屋敷の犯罪」の館もただそれだけのために建てられたけども、この五覚堂の仕掛けにいたってはそれこそ「氷を溶かす」ためだけの仕掛けで、本来なんのために動くのか理解不能である。
だいたい「スポンジと水という2つのキーワードだけで、それを容易に見抜けるだろうか」って水とスポンジからそれを想像できない本格ファンなんてこの世にいねえよ!!

トリックを離れた動機に目を転じても、作者はさりげなく大胆な伏線を張ったつもりなのかもしれないが、矛盾しすぎていて誰の目からも隠しきれてない血縁関係から導き出される単純なもので、ここでも伏線の下手さが足を引っ張る。
そもそも犯人を操る黒幕たちが「なぜ事件を起こしそれを十和田に解かせるのか」という根本的な動機が(シリーズが進むにつれ明かされるのかもしれないが現在のところ)完全に意味不明で、よくわからない黒幕ともっとよくわからない黒幕が暇を持て余した神々の遊びをしているようにしか見えないのもなんともはや。

80年代の雰囲気を除けば最大の売りとなるだろう数学ネタも最後にちょろっと解説されるだけで、全く活かしきれていないのもあいかわらず。
バーニングシップにしろマンデルブロ集合にしろ大変興味深いのにあまりにも説明不足で、加藤元浩の「Q.E.D.」のように、数学ネタを興味も知識もない読者に面白くわからせようとする姿勢をなぜ見せられないのか。


巻を重ねるごとに本格として物語として明らかに腕を落としているのは残念な限り。
どこかで見たようなトリックと誰かから借りてきたストーリーを、あからさますぎる伏線や難解なだけの数学トークでくるんだだけの作品などもういらない。
四作目には周木律だけが書ける作品を望みたい。


14.2.17
評価:★☆ 3
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