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ミステリ感想-『なぎなた』倉知淳

2014年02月23日 | ミステリ感想
~あらすじ~
運命の銀輪
共作相手を殺した恋愛小説家の伊庭。犯行はシンプルさを心掛け証拠は何一つ残さなかったはずだった。
だが死神のような風貌の乙姫刑事は、些細な気付きから伊庭に迫る。

見られていたもの
飲み会からの帰り道、揉み合う二人の男を目撃した私。
片方がナイフで刺されたと通報するも、現場には痕跡がなかった。
そして深夜、家の前に不審な男が立ち始め――。

眠り猫、眠れ
飼い猫のモトノラが老衰で死の床に就くなか、幼い頃に離婚した父が殺害されたと知らされる。
父は瀕死の重傷を負いながら神社に向かい、注連縄を身体に巻き付け息絶えたという。

ナイフの三
誘拐した幼児の指を切り、家族に送り付ける凶悪犯。
手配写真にそっくりな男がコンビニに現れ、ナイフを買って行く。それもあろうことか三回も。

猫と死の街
行方不明の飼い猫ピラフを探す貼り紙を見た男は言う。
「その猫は私が殺した。探しても無駄だ」
激昂した飼い主の前で男は泣いて謝罪をするが――。

闇ニ笑フ
実験映画のラストで流される膨大な死の情景。
むごたらしい死体の山を見つめながら、彼女は映画館の闇の中で静かに微笑んでいた。

幻の銃弾
大統領選に沸く往来で発射された三発の銃弾。
倒れた男は全身を群集に踏まれていた。しかし死因は圧死。体や周囲から銃弾は発見されなかった。


~感想~
ミステリ界屈指の寡作で知られる作者が、何をどうしたのか二作同時刊行。
単に十何年にわたり未収録だったノンシリーズを集めただけだが、それでもファンを驚かせた。
なおタイトルは意味不明。以下、感想。

運命の銀輪
ドラマならまだしも本格として倒叙ミステリに必要な物がごっそり抜け落ちている。
ほぼ印象論だけの推理、偶然見つかった証拠、不発に終わった揺さぶりと物足りない。
偶然に支配された皮肉な結末を描くにしても、読者が知りようもない証拠をいくつも使うのはどうだろうか。

見られていたもの
冒頭の仰々しい注意書きを煙幕に、鋭い仕掛けと脱力の真相を組み合わせた。
あからさまな伏線にもかえって気づけなかった。
宣言した通り「本格ミステリの入門編で、マニアも感心させる」好編。

眠り猫、眠れ
中盤で出てきた仮説がそのまま真相に直結。後半部分が完全に無駄なような気が。
余韻を残すラストはいいのに、どうして構成がこんなことになった。

ナイフの三
猫丸先輩シリーズを勝手に現代の亜愛一郎シリーズと位置づけているが、泡坂短編を強く意識したようなトリック。
だが説得力に欠け、狂人の論理としてもあまりに強引すぎる。
探偵役がこれが真相だと断定するに足る根拠も無いと思うのだが。

猫と死の街
飼い猫に右往左往させられる短編が2つも収録されるのはどうなんだろうか。
魅力的な謎と狂人の論理が並びながら、やはり説得力には欠け、真相の前に提示される誤った推理がそのまま答えになったような。

闇ニ笑フ
年間ベスト級の傑作。作者のファンならば某長編を思い出すだろう。
しかし収録作の中でこれだけが既読だったのは残念。未読ならばこの一編のためだけにでも買う価値はある。

幻の銃弾
翻訳調の文体は達者ながら、そに力を入れすぎて文章は冗長かつ無駄が多く、やはり魅力的な謎も解決でやや腰砕けに。
一回こっきりにするにはもったいないキャラ付けなども良かったのだが。


新作を読むたびに私的ランキングから転げ落ちていく気がする倉知淳、今回も期待値が高すぎて評価がだだ下がり。
決して悪くないし読んで損はないが、図抜けて良い出来だった「闇ニ笑フ」が既読なのは痛かった。
ファンとはいえハードカバーで二冊も買うのは敬遠し文庫化を待ったのは正解だったか。
「こめぐら」はあまり期待せずに読むとしよう。


14.2.22
評価:★★☆ 5
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