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非ミステリ感想-『本覚坊遺文』井上靖

2015年06月18日 | ミステリ感想
~あらすじ~
東陽坊、板部岡江雪斎、古田織部、織田有楽斎……。
千利休最後の弟子・本覚坊は師の死後、ゆかりある人々と対話を重ねつつ、利休はなぜ粛々と切腹を受け入れたのか思索をめぐらせる。


~感想~
井上靖の作品に僕のようなミステリ馬鹿が何か言うのはおこがましいが、書評ではなく感想くらいなら書いてもいいだろう。
本作は映画化もされ、82年には日本文学大賞を受賞した、井上靖晩年の代表作の一つに挙げられる代物らしい。
「日本文学大賞」なる仰々しい名前に驚かされるが、調べてみれば宮部みゆきや伊坂幸太郎らでミステリファンにもおなじみ山本周五郎賞の前身だという。

語り手の本覚坊は実在の人物ながらほとんど業績は伝わらず、内容はほとんどが井上靖の創作である。
ドマイナーな人物を主人公に配した代わりにというわけではないが、本覚坊と対話し、また名の上がる人物はどれも戦国ファンにはなじみ深い有名人ばかりで、話も利休の死の真相に迫るだけのもので、非常に取っ付きやすい。
最後に本覚坊が至る結論は意外なものではなく、また茶の湯にまつわる数々の逸話も戦国ファンにとっては別段、珍しくもないが、200ページ超の短い文量になんとも言えない余韻の籠もった、歴史小説の佳作であろう。


15.5.26
評価:★★☆ 5
コメント (3)