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ミステリ感想-『探偵AIのリアル・ディープラーニング』早坂吝

2018年07月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
人工知能の研究者だった父が、密室で焼死した。
高校生の息子・合尾輔は父の遺した探偵AI相以(あい)とともに事件の謎を追う。
相以と対をなす犯人AI以相(いあ)を使い、世界転覆を企むテロリスト集団「オクタコア」との戦いの行方は?


~感想~
抜群の安定感を誇る新進気鋭の作者が、初のラノベ媒体で描いた本格ミステリ連作短編集。

簡潔な伏線と無駄のない密室トリックが冴える「フレーム問題」を皮切りに、探偵と犯人のAI対決という設定を活かした「シンボルグラウンディング問題」。
本格ミステリという題材を逆手に取り、なおかつ何気ないミスディレクションで読者をうならせる「不気味の谷」。
全てが収まるべきところに収まって行く年間ベスト級の傑作「不気味の谷2」と各短編の質が高く、しかも各編をAI関連用語と巧みに絡め、とどめとばかりに余裕で数巻は書けそうなプロットを惜しげもなく第五話「中国語の部屋」で完結させてしまう贅沢ぶりで、作者の入門編としてもおすすめできる。

一冊内で物語をまとめ上げるために、終盤は尋常ではない駆け足で強引に収束させてバタバタしてしまい、オクタコアとの戦いの結末も非常にあっさりしているのだが、この程度の作品はいくらでも書けるし、無駄に引き延ばす必要はないという作者の自信と余裕が感じられる。
新潮文庫nexという媒体だけが若干不安だが、年末のランキングでもランクインは間違いないのでは?


18.7.18
評価:★★★☆ 7
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