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ミステリ感想-『死びとの座』鮎川哲也

2022年07月27日 | ミステリ感想
~あらすじ~
照明のいたずらで座った人が死人のように青ざめて見えることから「死びとの座」と名付けられた公園のベンチ。
そのベンチに座ったまま撃たれたと思われる死体が発見され、鬼貫警部らが捜査に当たる。

1984年文春7位

~感想~
鬼貫警部シリーズだが、鬼貫は随所に鋭い推理を見せるものの端緒と解決に関わるだけで、主人公は本作限りの登場となるある人物であり、彼が足を使って捜査し、関係者の女と良い雰囲気になったりと大活躍するので、シリーズ物を期待していた読者は少し注意。
被害者は今で言うものまねタレントなのだが、1984年の出版当時は珍しい存在で、その説明だけで数ページがあてられたりと、昭和ミステリならではの楽しみがあちこちにある。
もちろんそれだけではなく流石は鮎川御大で、解決したかと思われた事件が些細な手掛かりから崩れ、きっちりと意外な真相を現し、意味ありげながら「ただの公園のベンチかよ」とずっこけたタイトルが再び脚光を浴びる、堅実かつ丁寧な仕事ぶりで、古さを感じさせない不変のものがある。シンプルかつわりと力ずくのトリックも笑った。
2冊続けて読んだ久々の鮎川哲也は文章自体も面白く、やはり出色の存在だと思った次第である。


22.7.23
評価:★★★ 6
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