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ミステリ感想-『月灯館殺人事件』北山猛邦

2022年07月28日 | ミステリ感想
~あらすじ~
本格ミステリの神と呼ばれる天神人が住まう月灯館。
そこは携帯もネットも通じず雪で脱出不能の館で、スランプに陥ったミステリ作家らが文字通りの缶詰にされるため越冬していた。
その7人のミステリ作家が「本格ミステリ七つの大罪」と名指しされ犯行予告をされる。彼らはなぜ殺されるのか?


~感想~
「令和の新本格ミステリカーニバル」という触れ込みに正面切って答えつつ「全ての本格ミステリを終わらせる本格ミステリ」を名乗るやべえ作品。シン・本格ミステリなの?
本格ミステリの神とか、1月に1冊書く今は本格から離れた作家とか、本格でデビューして一般文芸に移った女流とか、色んな顔が思い浮かんでしまうが実在の人物・団体とは一切関係ないのでそこは安心して欲しい。
いきなりメイントリックの話をすると、アンフェアじゃないけどそれは卑怯だろ! やりたい放題じゃねえか! なトリックではあるが、講談社ノベルスで出してた初期作品群を読んでると「あんなに粗かった北山猛邦がこんなに立派になって…」と感無量。あの頃にやりたかったし実際やってみたが力不足で十全には描けなかった作品が、完成品として出された風格である。
それに加えてダンガンロンパのスピンオフとトリックに絡んだおかげと思いたくなる、どうしようもない黒い悪意と説得力の付け方には笑ってしまう。
なんなら適当で良い密室トリックが「物理の北山」の名に恥じない程度にいちいちちゃんと良く出来てるのもいい。ディテールをしっかりした上ではっちゃけてるからメインの破壊力が増すのだ。
本格ミステリを心から愛し憎んだ人間にしか発想できない動機と、明らかにアレを意識したラスト一行も最高で、偏愛できる作品である。

もっとも10点付けたのは初期作品も読んでいたし、ダンガンロンパ1~3もクリア済のファンだからという側面が強く、ある意味でアンチミステリでもあるので、ミステリ初心者は手出し無用。相当ミステリを読み慣れた人のほうが楽しめるし、そっちはそっちで何かしらのダメージを負うだろう。
初心者の方は北山作品なら素直に「少年検閲官」~「オルゴーリェンヌ」を読んでいただきたい。あっちは普通に傑作なので。

まだまだ語り足りないので完全ネタバレ感想も書いた。興味があればどうぞ。 → 完全ネタバレ感想


22.7.26
評価:★★★★★ 10
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