~あらすじ~
数奇な運命を辿った天才バレリーナのフランチェスカ・クレスパンが公演の幕間に撲殺された。
現場は誰も立ち入れたはずのない密室で、しかも彼女はその後も演技を続けているのを千人以上の観客に目撃されていた。
奇跡・無痛症・自動人間と囁かれるも20年に渡り解き明かされなかった謎に、御手洗潔が挑む。
~感想~
提示された謎はまさに奇想そのもので魅力的。その後も童話、銀行強盗の顛末、謎の大騒動が挿入されるケレン味たっぷりの構成で、往年の御手洗ファンも期待に胸を膨らませるだろう。
だがそこで懸念されていた御大の趣味が足を引っ張る。
近年の御大といえばゴリゴリの陰謀論者であり(嫌な「といえば」だな)作品にも影響を与えやしないかと危ぶんでいたがこれが的中。日ユ同祖論あたりは「アルカトラズ幻想」で語られた「大型恐竜は幻である」のようなトンデモ面白理論の延長線上にあると受け止められるが、その後に続く古色蒼然たるユダヤ陰謀論にはドン引きである。
さらにコロナもウクライナもネオナチもと全てがユダヤの陰謀で括られていき、イルミナティも当たり前のように存在され読者が引いてるところに明かされた事件の真相は、この謎で真っ先に考え、そして真っ先に捨てられるだろうアレとアレだったのだからたまらない。
全盛期の御大なら浪漫と奇想と豪腕でこんなトリックでも無理やり納得させられていただろうが、ユダヤがコロナがウクライナがと嬉々として語られた末にこのていたらくでは頭を抱える他ない。
趣味が本業にむちゃくちゃ影響してるじゃねえか!!
好意的に見れば、この結末ならば御手洗ワールドではコロナもウクライナもあの事件も起こらないのだろう。御手洗潔の、名探偵のいない我々の世界のやるせない現状に、創作上で一矢報いたのだと捉えることもできるかもしれない。
しかし御手洗潔がいない代わりにユダヤの陰謀もイルミナティもただの与太話に過ぎない現実の世界を生きる我々は、御大が文句なしに面白かったのも10年前の「アルカトラズ幻想」が最後だもんな……と遠い目をせざるを得ないのである。
23.5.6
評価:★★☆ 5
数奇な運命を辿った天才バレリーナのフランチェスカ・クレスパンが公演の幕間に撲殺された。
現場は誰も立ち入れたはずのない密室で、しかも彼女はその後も演技を続けているのを千人以上の観客に目撃されていた。
奇跡・無痛症・自動人間と囁かれるも20年に渡り解き明かされなかった謎に、御手洗潔が挑む。
~感想~
提示された謎はまさに奇想そのもので魅力的。その後も童話、銀行強盗の顛末、謎の大騒動が挿入されるケレン味たっぷりの構成で、往年の御手洗ファンも期待に胸を膨らませるだろう。
だがそこで懸念されていた御大の趣味が足を引っ張る。
近年の御大といえばゴリゴリの陰謀論者であり(嫌な「といえば」だな)作品にも影響を与えやしないかと危ぶんでいたがこれが的中。日ユ同祖論あたりは「アルカトラズ幻想」で語られた「大型恐竜は幻である」のようなトンデモ面白理論の延長線上にあると受け止められるが、その後に続く古色蒼然たるユダヤ陰謀論にはドン引きである。
さらにコロナもウクライナもネオナチもと全てがユダヤの陰謀で括られていき、イルミナティも当たり前のように存在され読者が引いてるところに明かされた事件の真相は、この謎で真っ先に考え、そして真っ先に捨てられるだろうアレとアレだったのだからたまらない。
全盛期の御大なら浪漫と奇想と豪腕でこんなトリックでも無理やり納得させられていただろうが、ユダヤがコロナがウクライナがと嬉々として語られた末にこのていたらくでは頭を抱える他ない。
趣味が本業にむちゃくちゃ影響してるじゃねえか!!
好意的に見れば、この結末ならば御手洗ワールドではコロナもウクライナもあの事件も起こらないのだろう。御手洗潔の、名探偵のいない我々の世界のやるせない現状に、創作上で一矢報いたのだと捉えることもできるかもしれない。
しかし御手洗潔がいない代わりにユダヤの陰謀もイルミナティもただの与太話に過ぎない現実の世界を生きる我々は、御大が文句なしに面白かったのも10年前の「アルカトラズ幻想」が最後だもんな……と遠い目をせざるを得ないのである。
23.5.6
評価:★★☆ 5