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ミステリ感想-『さらば長き眠り』原尞

2023年06月16日 | ミステリ感想
~あらすじ~
400日ぶりに東京に戻った沢崎を待っていた浮浪者の男。彼は依頼人の伝言を預かっており、沢崎はその依頼人を探す過程で11年前の高校野球の八百長事件と、それを契機に起こった女の飛び降り自殺に行き当たる。
そしてまるで調査を妨害するように次々と事件が起こる。11年前の因縁はまだ終わっていないのか?

1995年このミス5位、文春3位

~感想~
追悼、最高のハードボイルド作家・原尞。
冒頭、沢崎は400日ぶりに事務所へ戻るが、本作はシリーズ長編3作目ながら400日どころか5年ぶりにリリースされた。
ちなみに第4作はさらに10年後、第5作はそのまた8年後で、第6作の前に作者は没してしまい未完となった。

紛い物のハードボイルドを読んだ後の沢崎シリーズは絶品で、一文字たりともおろそかにできない描写と筆の冴えはもう最高。描写はもちろんのことストーリーも展開も、これだけの完成度に高めるためにはそりゃ5年や10年掛かるのも当然である。
そして期待通りに生粋のハードボイルドが終盤、本格ミステリでおなじみのアレに豹変するのだからとんでもない。なぜ生粋のハードボイルド作家がこんなにも本格ミステリ魂を持っているのか。久々に読んでやはり現代で原尞のスピリットを受け継いだのは若竹七海の葉村晶シリーズだと思った。
そのうえシリーズ作品としてもある一つの結末が描かれ、第一期完結と銘打たれるのだからファン必見である。(第一期も何もあと2作しか無いのだが)
文庫版には(10年後の)第4作に直結する掌編も収録され、ファンサービスも万全。あとたった2冊、すぐに読んでしまうのはあまりにもったいなく、人生のどこで読もうか悩みどころである。


23.6.16
評価:★★★★ 8
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