ある酪農家に言われたことが忘れられない。小頭数で立派な経営をされている方でしたが、人を見ては毒ずくことがで、ほかの農家には好かれていなかった。
その父さんが、「農家は足し算と引き算をやっていればいい。頭に乗って掛け算や割り算やるからダメになる」というのである。
掛け算や割り算をやるというのは、機械や施設を利用して沢山牛を飼うということである
足し算をやっていればいいというのは、自分の手で丁寧に積み上げていくことである。農業は工業や商業と生産形態で明らかに異なるのは、基本的には太陽の恵みを商品にするからである。一気に大量に生産できるわけではない。天の恵みも、地の力も限られている。
農家が経営を大きくするのは、自らの意思でやることはほとんどなく、周辺産業に促されてやるだけである。
規模拡大すると、農家単位の生産量は増えて様に思われる。しかし、農業の基本である、農地当りの生産量が増えることはない。農薬などで一時増えたように見えても、不健全な食料生産であったり、農地が枯渇したり環境に負荷がかかることになる。
今年は国連が決めた、国際家族農業年である。家族農業は、
・世界の食料安全保障に結びつく。
・環境や生物多様性の保護に寄与する。
・地域に様々な雇用を創出する。
輸出されている食料は、足りているから国外に売っているのではない。大型農業・企業型農業が、それこそ掛け算が上手で安価に売り込んでいるのである。こうした形態こそが、多くの農家を干上がらせることになるのである。
先進国の農民を商工業に向けさせ、農業を衰退させる。国際価格を暴落させ、途上国の農民から農業を奪うことになり、国民の食料生産を鈍らせる。
70億人の人類のうち11億人が飢えている。その8割は農民か元農民である。国連は、それぞれの国が家族型農業推進を図ることで、飢餓をなくし食料安全保障に寄与すると指摘している。
家族型農業は、伝統的な農法であることがほとんどで、小規模となり地域の人も多くなる。地域を安定させ紛争の芽を摘むことになる。こうしたことを念頭に、国連は世界各国に家族型農業指針の政策をするよう促している。
翻って、日本農業政策は意味不明の”攻める”農業をするため、大規模化することだけをめざしている。日本の農政は世界と全く逆方向へと舵を切っている。人類に欠かせない食糧を生産するということを忘れ、目先の金の動きに翻弄された政策である。