人類が森から出て、もしくは森が消失したので、狩猟民族となりやがて農耕民族となって効率的に食料を自ら作るようになった。そして、それまで精々狩猟の技術の優れた者がやや豊かな暮らしができた程度の、平等社会であった。
それは農耕をするようになって定着してもあまり変わるものではなかった。
これを一変させたのが穀物である。穀物は蓄えることができて、必要以上に貯め込み穀物(富)の偏在が起きるようになり、交易や貨幣が格差をさらに大きくするようになった。権力者は法や税などを必要とするようになったが、それらは蓄えられる穀物の備蓄がきっかけと言われている。
それは現代になってもあまり変わるものではない。食料は必要量の80%を切ると飢餓が起き社会不安となるが、120%を超えて消費することができない。それでいて欠かすことができない。それが食料である。
食料は人の生命維持と健康のために、可能な限り質と量を国内で賄うのが原則である。食料は武力を上回る安全保障の最優先課題である。食料自給率が37%の日本の安全保障はいかにも脆い状況といえる。軍事力に特化した安全保障しか視点を持たない現政権は歪だと言えよう。
戦略物質の中核になるのは、旬を外して自由な時に販売が調整できる穀物であると言って過言でない。上の表は世界の穀物自給率のランキングである。日本は下から6番目で世界130位ほどであり、人口1億以上では最下位である。
日本で20年あまり変わらないが、穀物の国内消費がほぼ4000万トン、輸入穀物がほぼ3000万トンで、ほぼ75%を輸入していることになる。輸入穀物の3000万トンの内、ほぼ2000万トンが家畜用の飼料である。
この家畜用の2000万トンの穀物は、概ね20分の一にカロリーを落して、畜産製品に変貌させ流通することになる。これは見方を今風に変えれば食料廃棄ともいえる。人の食べられないものや廃棄されたものを、食べるものに変換してくれる、本来の畜産を忘れた姿が作ったものである。
日本の食料自給率を下げているのが、この家畜用の穀物である。戦後アメリカが日本に行った、「米を食べるとバカになる、脚気になる」とデマゴギーで洋風化へ、パン食、肉食、乳製品食への転換が成功したものといえる。
輸入穀物の3000万トンは、ほぼすべてアメリカからである。しかもほぼすべてが、遺伝子組み変えで肥培管理の不明な穀物である。アメリカは戦後日本の民主化に成功したというがこれは疑わしいが、食料戦略は確実の成功したといえる。
日本はアメリカの核の傘の元にあるといわれるが、食の傘に覆われているともいえるのである。ドゴールのいう、「食料を自給しない国家は、独立国家でない」はいまだに輝きを失っていない。