緒方淑子「山下時計店」、青柳俊哉「裸木が 透明な光を」、池田清子「謎の世界」、徳永孝「メッセージ」(2021年11月15日、朝日カルチャーセンター福岡)
カルチャー講座受講生の作品。
山下時計店 緒方淑子
となりのとなりのとなり町まで クルマで
ふと降りて
歩いて
閉まりかけた店々店に 並んで
あ時計屋さん
私 直してほしい時計があるの
もうずっと持ってるの
誰も直してくれなくて
クルマに積んでた掛時計 見せたら
時間をもらえば直せます
家にもあるの 誰も直してくれないの
持って来てもいいですか
1コめ直って受け取って
2コめ直って受け取って
3コめ直して渡すとき
時計屋さん ニッと笑って
あ待って
その時計の裏側に なにかをペタンと
貼りました
それは金色のシール。
Yのイニシャルつきの。
「山下時計店 09 21」。
「ことばがやわらかくて気持ちがいい。となりの……、店のくりかえしがリズミカルで最後の1コ2コ3コも繰り返しが気持ちがいい」「誰も直してくれない、ということばから、わたしのこころも直してほしい、という気持ちを感じる。時間をもらえれば直せると重なり合う。最後のシールもいいなあ。時計屋との関係が切れるのではなく、関係が残る感じがある」「やさしいエッセイ、という感じ」「時計を直すということと、時間をなおす(わたしのこころを直す)というふたつの主題が、気持ちよく重なっている」
受講生が、すべてを語ってくれた。
時計を直す、わたしの時間をなおす。ふたつのことを結びつけているのが「ずっと」ということばだろう。「ずっと持っている」は「ずっと待っている」。
「その時計の裏側に なにかをペタンと/貼りました」の二行は「ました」をつかうことで、「文体」を変化させている。その変化があって、最終連への転調がスムーズになっていると思う。
なお「Y」は、原文は〇のなかにY。
*
裸木が 透明なかげを 青柳俊哉
裸木が 透明なかげを地に射す
寂しい田舎 モノクロームの窓に
かなしみがふっていた 枯れていく空
茫々と波うつ田 氷の野を
そめて 荘重なかなしみが
ふりしきっていた
雪は わたしたちの脊柱の空に結ぶ
地上に降りる神聖なものの 表象である
命を溯る 石の神経の無限のラセンのうえにも
それは結晶していた 繁茂する空の巨木の
線的な内面も おおいつくし消していく
地上を超えるものの 心象である
「かなしみがふっていた、ふりしきっていた、に胸がしめつけられる」「命を溯る、にはもう一度春がくる予感が感じられる」「景色だけではなく、人間を超えたもの、詩のなかのことばで言えば、神聖なものを書こうとしている。地上を超えるもの、にもそういうことを感じる」「無機質な石に対してさえ、生命的なものを感じる力がすごいなあ」「脊柱の空、がわからない」
たしかにわかりにくい。
一連目の「裸木」は視覚的なイメージ。「脊柱の空」は視覚を装っているが抽象的なイメージといえるだろうか。共通するのは垂直のイメージ。その垂直は「ふる/降りる」によって強調される。時間は、一般的に水平方向の直線でイメージ化されるが、この詩では垂直方向の存在としてイメージ化されているのではないだろうか。
雪が、かなしみとしてふってくる。地中に埋もれた石が、地中から垂直に立ち上がる。その力が裸木にのりうつる。天と地。その間にふる雪。何かが交錯する。意識が交錯する。
*
「図形だろうか、グラフだろうか。帰って来たここがどかかわからないが、また、ということばがいい。最初と最後に出てくる」「数学の先生なのだろうか。図形が詩になるのは美しい」「図形は、どこから始まってどこへ行くのか。帰ってくる、がいい感じ」
何を書いていいかわからないときがある。何を書いていいかわからない、と書いても、それは詩になる。
*
メッセージ 徳永孝
夕暮れの空に広がる
薄墨と朱の雲
空のお習字
空の言葉は
人の言葉と違うので
何て書いてあるのか
分からないけれど
素的な言葉が
そこに存りそう
「空の表情は変化が激しい。それをことばにするのは難しいが、それを書いているのがいい」「朱ということばから、習字の先生が朱色の墨で指導するのを思いだした。朱という色が、次の習字のイメージとしっかり結びついている」
この指摘は、とても鋭い。薄墨の「墨」とも呼応している。ふつう、夕暮れの雲は赤とか、茜とかいう。朱もその一種に入るが、朱によって「習字」が自然に登場する。さらに、その「習字」から「言葉」も必然のようにして生まれてくる。「字」が「言葉」を連想させるからだ。
連想の呼応が、とても自然だ。
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