幼い頃両親と一緒にアメリカに移民した中国系アメリカ人の女性。三十代に突入するも、自分の希望する仕事に就けず、自分探しのような毎日に過ごしている彼女。
中国に住む祖母は、彼女にとって懐かしく優しい中国の思い出に繋がる存在だ。拙い中国語で祖母と連絡を取り合う彼女の姿からもそれが伝わってくる。
そんな祖母が末期がんで余命三か月と判る。親族会議で祖母に伝えないことが決まり、海外に住む家族は同じように日本に移民した親族の結婚式を中国で行うという名目の元、祖母の元を訪れることになる。
両親世代の決めた「母には病気の事を教えない」という事が理解できず、両親からも中国への渡航を止められた彼女だが、優しい祖母に会いたいと一人遅れて中国に向かう。
*****
「人は自分に残された時間を知りたいはずだ。そしてその権利があるはず。それを家族であっても邪魔することはやってはいけない事」というアメリカで育った彼女の考え方。中国人の両親の元で育っても、彼女のアイデンティティは西洋だということだ。
それを改めて感じるとともに、自分の娘が「ショックを受けたらいけないから、病気の事は秘密にする」という東洋的な考え方が理解できないという事を改めて知る事になる両親の思いを考えてしまう。両親は移民後はアメリカの常識に自分達を合わせて生活してきたはず。苦労もあったはずだ。しかしそんな彼らの娘は、自分達の考え方を受け入れることが出来ない。見ている私も、文化の伝承はこんなにも簡単に途切れてしまうものなのだと、ちょっと驚いてしまう。
ただ、親族が祖母と過ごすために演出する結婚式とは知らず、結婚式を取り仕切るために張り切る祖母の姿を見、更には祖母に対する親族たちの思いを少しずつ感じ、愛情の示し方は一種類ではないことを少しずつ感じていく彼女。違うことを理解し、違いを受け入れた後の彼女の表情。
全部を理解することは不可能かもしれないけれど、理解しようと相手に思いをはせることは優しい事だということを感じさせてくれる。
****
英語タイトルはフェアウェル(別れ)だが、中国語タイトルは别告诉她(彼女に言わないで)。タイトルにもダイレクトに伝える文化と察する文化の違いがあるようだ。
****
皆は祖母の事をナイナイと呼ぶ。奶奶(ナイナイ)は父方の祖母を指す話し言葉だから、「おばあちゃん」というニュアンスのはずだ。
ナイナイという響きが印象的だから、字幕もおばあちゃんでなくナイナイにしていたのだろうと思う。
****
偽の結婚式の新婦役が中国語が分からない日本人女性というのも、中国から外に生活を求めたこの家族らしい設定だ。
日本人なら「秘密にしたい」という気持ちも良く分かるだろうが、日本人よりも更に血縁を重んじる中国人のパワーにもびっくりもしたはず。ちょっと戸惑ったような笑顔にそんな思いが入っていたはずだ。
泣ける…『フェアウェル』日本版予告編