採集生活

お菓子作り、ジャム作り、料理などについての記録

シャーナーメあらすじ:6.サームと霊鳥シムルグの話

2023-01-17 | +シャー・ナーメあらすじ(挿絵付き)

ようやく、物語らしくなってきました。ここから先しばらく、シャーナーメで一番有名かつ面白い部分のひとつではないかと思います。
次は、今回の主人公の恋物語も出てきますよ☆

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6.サームと霊鳥シムルグの話
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■登場人物
サーム:シスタン(ザブリスタン)の領主。ナリマンの息子。イラン前王ファリドゥンの信頼する盟友であり現王マヌチフルの後ろ盾を頼まれている。
アノン:サームの子の乳母
ザール:サームの息子。白髪(先天性色素欠乏症)。
霊鳥シムルグ:アルボルツ山に住むという1700年の命を持つとする聖なる鳥。300歳になると卵を産み、その卵は250年かかって孵るという。そして、雛が成長すると親鳥が火に飛び込んで死ぬとされている。Wiki
マヌチフル:イラン王
ノウザー:マヌチフルの息子。イラン王子。
シスタン(地名):イラン東部からとアフガニスタン南部にまたがる低地。ザブリスタンもほぼ同義。ヒンド’(インド)は西にあたる。
アルボルツ山脈(地名):カスピ海の南、テヘランの北に横たわる山脈。シスタンから見ると東に相当する。最高峰は(ザハクが閉じ込められた)ダマーヴァンド山(5610m)。Wiki
シムルグの棲む山とされる。シスタンと実際のアルボルツ山脈は1200kmくらい離れているので、現実的には、ちょっと子供を捨てに行くには遠すぎると思われます。あとサームの夢のお告げにヒンドからの使者的なものが出てくるのだけれど、これはアルボルツ山脈とは逆方向。各種神話が混ざって地理的に不整合なことになったのかなあ。
カレン:イランの戦士。マヌチフルの王位奪還に貢献した。

■概要
シスタンの領主サームの息子は生まれつき白髪でした。これを恥じた王サームは赤子をアルブルズ山に捨てさせますが、霊鳥シムルグが彼を拾い育て上げます(シムルグは、鳳凰/火の鳥/フェニックスを思わせます)。
サームは赤子を捨てたことを悔いて、立派に育った息子ザールを取り戻し、自分の跡継ぎにします。イラン王にもこのザールを認めてもらい、彼に領地を託して出陣していきます。
この部分は絵が6枚。巻頭からずっと、毎見開きの片側が絵というのが続いています。


■ものがたり

□□ザールの誕生 
シスタンにはサームという領主がいました。彼には子供がおらず悲しく思っていました。

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●シスタンの領主サーム61v

彼の妻のひとりに、頬はバラの花びらのよう、髪は麝香のよう、顔は太陽のように美しい女性がいました。彼女はサームに希望を与えました。彼の子を宿していたのです。
彼女が月満ちて生んだ赤ん坊は、美しい男の子でしたがその髪は真っ白でした。家中の女たちがその子のことで泣き、誰もこの美しい女が産んだ子が老人であることをサームに告げませんでした。

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●母親と白い髪の赤ん坊61v


一週間ほど経ったとき、勇気ある乳母アノンがサームの前に申し出ました。
「あなたの女たちの部屋で、あなたの愛する者から立派な男の子が生まれました。その身体は純銀のよう、その顔は楽園のようで、醜いところを見つけることはできません。たったひとつ、この子の欠点は、髪が白いことでございます。」
サームは玉座から下りて女部屋に入りました。彼は息子の白い髪を見てこの世に絶望し、異形の子供を恥じました。そしてこの子を、霊鳥シムルグの棲む遠く離れたアルボルツ山脈へ連れて行くように命じました。従者は赤子を連れて行って山肌に寝かせ、宮中に戻りました。

巣の中にいたシムルグは、雛の食べ物を探すため飛び立ったとき、地面に横たわって泣きじゃくる赤ん坊を見つけました。彼の揺りかごは茨、乳母は土です。裸の乳飲み子の唇を潤す乳はありません。
灼ける黒い大地が彼を取り囲み、彼の頭上には天の頂で照りつける太陽がありました。もしそばに誰かいたら、少なくとも彼を太陽から守ることができたでしょうに・・・。

シムルグは雲間から降り立ち、その爪で灼ける石から彼を持ち上げました。彼を巣に持ち帰り、雛たちに食べ物として与えるつもりでした。
しかし、神様は別の計画をお持ちでした。
シムルグとその雛たちが、激しく泣いて涙を流している小さな子供を見たとき、不思議なことが起こったのです。彼らは可哀想な赤子の愛らしい顔を優しく見つめ、赤子を育てることにしました。

シムルグは、赤ん坊のために獲物の中で最も柔らかな物を選び、乳の代わりにその血を与えました。このようにして幾年も過ぎ、その子は立派な青年に成長しました。

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●雛たちと赤ん坊に獲物を運ぶシムルグ62v



山々を行き交うキャラバンが通りかかり、彼を見つけました。

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●白い髪の不思議な若者を見て驚くキャラバン62v

すらりとした体は糸杉のよう、胸は銀の山、ほっそりした腰は葦のような美しい青年の噂は広まり、シスタンの領主サームにまで届きました。もし息子が生きていたらこの若者くらいかと考えたサームの心は乱れました。

□□ナリマンの息子サームの夢 

ある夜、サームは時の流れに打ちひしがれ、心乱れて眠っていました。そして、西方ヒンドから来た男がアラブ馬に乗って駆けつけ、息子についての良い知らせを持ってくる夢を見ました。彼は目を覚ますと、賢者たちを呼び、この夢と、また先日若者について聞いた噂を告げました。
「これにどう答えるか? 私の息子は加護により生きているのか、それともやはり寒さや暑さに斃れたのか。」
彼は尋ねました。
その場にいた皆がサームに言いました。
「石の巣にいるライオンやヒョウ、魚や海の怪物たちですらみな自分の子供を愛し、養い、神に感謝するものです。『息子は死んだ』とあきらめず、懺悔してその子を探しに行くのです。神が認める者は守られていることでしょう。」

翌日、サームは相談役と軍司令官たちを呼び寄せ、自分が拒絶したものを取り戻すために山へ向かって出発しました。
夜が訪れると野営地で安らかな眠りにつきました。
彼は夢で、ヒンドの山々の上に旗が掲げられ、美しい顔の青年が左右に賢者と神官を従え、強大な軍勢を率いているのを見ました。
片方の賢者がサームのところにやってきて、冷ややかな口調で言いました。
「傲慢で不道徳な男よ、汝は神の前で恥じるべきである。
鳥に自分の息子を養ってもらっておいて、汝のどこが英雄か?
髪が白いのが欠点だというなら、汝こそ身体は日ごとに色合いを変えて、髭と髪は柳の葉のように白黒が混じっているではないか。汝は神からの贈り物を軽んじたのだ。
汝は息子を見捨てたが、神は彼の保護者であり慈しみ育てて下さった。」

サームは罠にかかった獅子のように、寝ながら泣きました。
翌日、彼は漂流者を捜すために山へ向かって旅を続けました。やがて山頂がプレアデス星雲に届く山があり、その上に黒檀と白檀で編んだ大きな巣があるのを彼は見ました。

サームは雲の中にそびえ立つ宮殿のようなその恐ろしい巣を見つめましたが、それは人の手や粘土や水で作られたものではありませんでした。彼方の巣のそばには一人の若者が見えます。
彼は、野生動物の足跡からこの断崖の山に登る道を探そうとしましたが、見つかりません。彼は叫びました。
「全ての場所の上に、太陽と月と輝く虹よりも高いところにおられる方よ、この若者が本当に私の腰から出たもので、悪鬼の子でないなら、私がこの山に登るのを助けてください。」

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●断崖の麓で神に祈るサーム63v

巣にいるシムルグは、人々が若者を探しに来たと知り、サームの息子に言いました。
「今、お前の父、英雄の中の英雄である偉大なサームが息子を探しにこの山に来ています。私はお前を彼の元に返さねばなりません。」
若者の目は涙でいっぱいになりました。この若者は人と交わらず育ちましたが、シムルグの使う言葉を学び多くの知恵と古代の伝承を聞いて聡明に育ったのです。
「この巣は私にとって王座であり、あなたの羽は私にとって輝かしい王冠でした。私は神の次に貴女に感謝を捧げています。」
シムルグは答えました。
「広くすばらしい世界に行って、運命がどうなっているか見てきなさい。そして私のこの羽を持って行くのです。もし、あなたに何か困難が起きたら、私の羽を一枚火の中に投げ入れなさい。そうすればすぐに助けに行きましょう。どうかお前を愛しているこの乳母のことを忘れないでおくれ。」

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●サームの息子を諭すシムルグ63v

こう言って、別れを惜しんで最後にもう一度彼を抱き締め、雲に舞い上がるように彼を持ち上げて、急降下して父の前に降ろしました。
父はこの青年を見ると涙を流し、シムルグの前に頭を下げて敬意を表しました。父はこの若者の頭から足までじっと見て、この子は王冠と王座にふさわしいと思いました。
若者の胸と腕は獅子の如く、顔は太陽の如く、心は王者の如く、腕は剣士の如くでありました。白いまつげですが瞳は漆黒で、珊瑚の唇と血のように赤い頬をしていました。白い髪のほかは、何も欠点がなかったのです。

サームは歓びに満ちて息子に祝福を呼びかけました。そして息子の体に王者のマントをかけ、山を下りて行きました。平原に着くと、彼は息子に王衣を着せ、ザールの名を与えました。
全軍は歓喜の鬨の声をあげ、進軍をはじめました。
太鼓の象が先導し、濛々たる埃の中、太鼓と喇叭、金の銅鑼と鈴の音が鳴り響き、騎馬隊は高らかに声を上げ、こうして彼らは帰路につきました。

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●帰還するサームと息子と軍隊64v

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●養い子との別れを惜しむシムルグ64v

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●巣の雛たちもザールを見送る64v

□□マヌチフル王がサームの遠征について聞く 

イラン王マヌチフルは、サームが山から華々しく帰ってきたことを知りました。そして、息子ノウザーを急いでサムのもとに送り、祝いの言葉と、サームと息子への王の招待を伝えさせました。

ノウザーの伝言を聞いたサームは地面に口づけをすると、王の命令通りすぐに宮中へ向けて出発しました。
サームが到着すると、マヌチフルは王座の片方に戦士カレン、もう片方にサームを座らせました。

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●●王座のマヌチフルと戦士カレン、サーム65v

その時、侍従がサームの息子ザールを案内しました。ザールは立派な服を着て、頭に金の冠をかぶり、金のメース(棍棒)を携えていました。

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●王座の前に出るザール65v

王はザールの立派な体格、そして普通とは違う特別な美しさと生い立ちを大層気に入って、褒め称えました。そして王はサームに約束させました。
「私のために、彼を十分世話してくれ。彼の望みには逆らわないで、よくしてやりなさい。お前の幸福を彼だけに見いだして、この美しい若者に色々と教えてやりなさい。」

サームは王に約束し、そしてまた、自分の子供を捨てた経緯と、霊峰に棲むシムルグとその巣、子供がそこで育てられたこと、彼の後悔、そして息子を見つけるための遅すぎた探求とシムルグによる息子の返還について詳しく語りました。

□□ザールがザブリスタンに戻る

王は賢者、占星術師、神官たちにザールの星回りを調べさせ、星がザールに対して何を定めているかを調べるように命じました。占い師たちは「彼は誇り高く聡明で、優れた騎手、そして偉大な領主となることでしょう。」と言いました。

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●占星術師たち65v

王はこの言葉を聞いて喜び、サームの心も悲しみから解放されました。マヌチフルはサームに、栄誉の衣を与え、沢山の宝を与えました。黄金の鞍をつけたアラブの馬、宝石を散りばめた金襴の錦を着た西方の奴隷達、絹織物や絨毯、エメラルドの盆、トルコ石を嵌めた金銀のゴブレットー麝香や樟脳、サフランが詰められたー、黄金の鞘のインドの太刀や手甲、兜、槍、矢、弓、矛をはじめとした様々な武具などです。そして、カボル、ダンバル、マイ、インド、シナ海からセンド海、ザブリスタンからボストまでの領有権を与えるという、サームに対する天の賛美に満ちた憲章を書き、封印したのです。

勅書とこれらの贈り物を受け取ると、サームは立ち上がり、王を称え王座に接吻しました。
太鼓を象に括り付けさせ、ザールと一緒にザブリスタンに向かうのを、町中の人が見送りました。
サーム自身の領地、シスタンに彼が近づくと、彼の叙任の知らせが先行し、住民たちはシスタンをまるで楽園のように飾り立てて歓迎しました。
貴族達も皆サームの前に出て、「若者のこの地への到着が吉祥でありますように」と言って、ザールを祝福し、金貨を浴びせました。

□□サームはザールに本領を授ける

ほどなくして、サームは国の相談役たちを呼び寄せて話をしました。
「気高く思慮深い助言者たちよ。賢明な王マヌチフルの命令は私が軍を率いてゴルグザランとマザンダランを侵略することだ。しかし、私の心の支えである息子はここに残る。
この若者は私の拠り所であることを忘れないように。そして、私の代理人として彼をお前たちの間に置いておく。彼をよく扱い、よく助言し、高貴な人生への道を示してやってくれ。」

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●話をするサームと集められた相談役たち66v


そして向き直って、ザールに言いました。
「正しく、寛大に行動すること。これこそが幸福を求める道だ。ザブリスタンはお前の家であり、この領域はすべてお前の指揮下にある。この国がお前の統治下で繁栄し、臣民の心を喜ばせるようにしなさい。宝物庫の鍵はお前のものだ。お前の繁栄は私の歓びであり、お前の失敗は私の悲しみである」。

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●別れをつげるサームと動揺するザール66v

若いザールはサームに言いました。
「今、私は父上なしでどうやって生きていけばいいのでしょうか? ようやく和解した今、どうしてまた別れなくてはならないのでしょう? 
今の私はかつての保護者からも遠く離れ、ただ運命に身を任せ、茨に包まれているようです。」

サームは言いました。
「占星術師たちは良い星がお前を導くと言っている。お前の家も軍隊も王冠もここにあり、天命に逆らうことはできない。ここでこそ、お前の愛が花開くはずだ。騎士と賢者を集め、知恵ある者を喜び、彼らに耳を傾け、学ぶのだ。人生を楽しみ、寛大になり、知識を求め、公正になりなさい。」

こう話したとき、太鼓の音が鳴り響き、空気は土埃で真っ黒になり、地面は黒檀の色になり、銅鑼とシンバルの音が館の前に聞こえてきました。そしてサームは大軍を率いて出陣しました。
ザールは途中二行程ほど同行しましたが、別れ際、父は彼を強く抱きしめて大粒の涙を流しました。そしてどう生きれば良い名を残せるかを考えながら、帰路につきました。

彼は学問に熱心で、各州から占星術師や賢者、武人や騎士などの知識人を呼び寄せては、あらゆる事柄を話し合いました。
昼も夜も彼らと一緒になって、重要なことから些細なことまで話し合いました。ザールは学問に長け、まるで輝く星のような存在となり、世界中の誰も彼のような知識と理解を持つ人を見たことがありません。こうして天は回り、サームとザールの上に愛の天蓋を広げました。

■シャー・タフマスプ本の細密画

サムネイル ページ番号 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
f061v 61 VERSO  The birth of Zal  ザールの誕生  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran /Hollis  
f062v 62 VERSO  Zal is sighted by a caravan  ザール、キャラバン隊に目撃される  The Museum of Fine Arts, Houston, Texas, United States. LTS1995.2.46 Hollis/flicker  
f062v 63 VERSO  Sam comes to Mount Aiburz  サーム、アイブルズ山へ来る  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran  Hollis 本※のp125
f064v 64 VERSO  Sam returns with Zal  サムがザールと共に帰還する  The Ebrahimi Family Collection, ELS2010.7.2 Hollis/flicker  
f065v 65 VERSO  Zal before Manuchihr, Sam, and Qaran  ザール、マヌチフル、サム、カランの前に立つ  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran Hollis  
f066v 66 VERSO  Sam takes leave of Zal  サムがザールと別れる  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran /Hollis  

※画のタイトルはこの本”A King's Book of Kings: The Shah-nameh of Shah Tahmasp" (Stuart Cary Welch) による

■細密画解説(本や所蔵美術館の解説より適宜抜粋)
●61 VERSO  The birth of Zal  ザールの誕生 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。 
画面の下4分の1あたりをくっきり分ける塀があり、その上が女達の世界のハレム、下が男達の世界になっています。
画面上部左側には産室があって、白い髪の赤ちゃんを母親に見せています。お母さんは、表情に乏しいペルシャ細密画にかかわらず、あきらかににっこりしています。
この絵では、女達は驚いた様子(口に人差し指をあてたり)はなく、あからさまに嘆いている人もいないようです。
このお母さんは、物語の中で名前も与えられず、可愛い子供を捨てられてしまった後のことも(彼が戻ってきたときのことも)不明です。(この不名誉な出産で、このあと後宮を追われたのでしょうか・・・)あ、もしかして元気でいて、次話に出てくるかな? 次はザールの恋物語なのです。

●62 VERSO  Zal is sighted by a caravan  ザール、キャラバン隊に目撃される 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
この62vと次の63vはまるで「間違い探し」のようにとてもよく似た構図です。
画面左側が、枠からはみ出すほどの険しい岩山。
右側の下半分は地面(山の麓)で、上半分は金色の空(昼)です。
この2ページは、一枚めくった同じ側のページになっていて、キャラバンが山に来て、次にサームが迎えに来た、という様子をパラパラ漫画風に見ることが出来るのかもしれません。(あと、作画上の省力もはかってる?)
シムルグは、カラフルで長い尾で、とても中国の鳳凰っぽいです。

●63 VERSO  Sam comes to Mount Aiburz  サム、アイブルズ山へ来る
この見事なデザインのページは、スルタン・ムハンマドの助手の一人である画家Dの作品であると考えられる。この絵はすべて彼によって描かれ、その岩には彼特有のグロテスクなものが生息していますが(岩のごつごつに人の顔や姿が隠れている)、聳え立つ崖のあるこの絵のインスピレーションは、スルタン・ムハンマドの『ガユマールの宮廷』から得たものである。シムルグの豊かな羽毛は、刺繍職人のためのガイドとして描かれたトルクマンの図面を思い起こさせる。モップ状の樹木が唐草模様のリズムで反転しているのは、画家D特有のものである。

〇Fujikaメモ:
62vとほぼ同じ構図。
この場面ではシムルグとザールが話し合っている様子なので、シムルグが父のもとに戻るよう聡し、ザールは手ぶりをして驚き悲しんでいるところだと思います。 
巣の中には二羽のシムルグの雛たちもいます(ほぼ母親と同じ姿形)。
人間には上れない険しい山の麓で、サーム一行が往生しています。
力ずくでは連れ戻せない状態で、ザールが無事父のもとに戻ったのは、ひとえにシムルグの配慮ですよね・・・。

●64 VERSO  Sam returns with Zal  サムがザールと共に帰還する 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。 
正装したザールを白象の背駕籠に乗せ、サームとその軍勢が帰還するところです。
(文中では両資料ともザールは馬に乗るような記述でしたが)
空にはシムルグが華麗に舞っていて、別れを惜しんでいるようです。
枠からはみ出したところに描いてある巣にはやはり二羽の雛がいて、前の2枚の絵よりもこの絵の雛の方がしゃっきりしています。一羽はザール達を観察しているような。
画像が鮮明なので、軍隊の楽器(まっすぐな喇叭、カーブした喇叭、太鼓など)や装備がよく分かります。

●65 VERSO  Zal before Manuchihr, Sam, and Qaran  ザール、マヌチフル、サム、カランの前に立つ 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。 
イラン王宮が舞台で、王座を描く、よくある構図になっています。
今回は中央がマヌチフルで、左右がカレンとサームなのですが、どちらがどちらかはよく分かりません。
白い髪のザールは、不鮮明な画像でもよく分かります。
王座の前に座る三人が占星術士達でしょうね。

●66 VERSO  Sam takes leave of Zal  サムがザールと別れる 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。 
サームが遠征に出陣することになり別れを告げる場面。
前の画面と変化をつけるためかどうか、ここはあづまやの下になっています。
二人とも手振りを添えて、熱く語り合っている様子です。
二人の間のテーブルの上の首の長い容器は、ワインでしょうか。右の戸口から若者がふたつきお盆を運んできますが、食べ物かなあ。
あずまやを囲む金属?の透かしのフェンスが綺麗です。フェンスで透けて見えるものは、最初に全部塗ってしまってあとからフェンスを上から描くのではなく、フェンスを塗り残すように隙間のみ細かく彩色されているように見えます(すごい手間・・)。庭の小川もフェンスの後ろ側を流れていたはずですが、この部分だけは銀のサビがフェンスの手前まで染み出して、灰色の帯となってしまっています。
庭の花も綺麗。

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