胡錦濤主席の訪日で、日中間の雪解けムードが高まっている。
素晴らしいことだと思っているが、日中間に横たわっている根本的な問題が果たして本当に解決へ向かって進むのかのかどうか知りたくて、最近出版されたスーザン・L・シャーク著「中国 危うい超大国 China - Fragile Supperpower」を読んでみた。
これまで、比較的多くの中国関係の書物を読んできたが、日本人でも中国人でもないアメリカ人の、そして、中国のエキスパートとも言うべき中国政治を専門とするシャーク教授の、まず、比較的客観的な中国論が、最も参考になると思ったからである。
流石に、シャーク教授で、特に、中国が、最大の外交問題の鬼門としているアメリカ、日本、台湾との関係に焦点を当てて、歴史的な視点のみならず、政治経済、それに、中国人の国民性や思想・思考の深淵まで掘り下げて、現代中国論を詳細に展開しており、450ページに及ぶ大著の内70ページ以上も、第6章「日本――中国が怒ると、結果はいつも大いなる災いだ」に割いて、日中関係を論じていて、非常に示唆に富んだ貴重なレポートで参考になった。
(以下において、私なりにピックアップして論点を紹介することとしたい。)
中国の一般大衆の関心を集める外交問題は、解決されるべき実務問題ではなく、譲ることの出来ない原則上の問題として理念先行型の扱いを受ける。
すなわち、日本が犯した歴史的な数々に対して償うべきだと言う原則、台湾が受け入れるべき「一つの中国」と言う原則、それにアメリカの覇権主義に対抗すべきだと言う原則で、日本、台湾、アメリカに対して取るべき態度については、中国人の間には強烈なコンセンサスが出来上がっている。
中国が舐めた屈辱の世紀が終焉を迎えるためには、日本が戦時中の非道徳な行為について心からの謝罪を述べ、台湾が中国本土に統一され、アメリカが中国を対等の超大国として遇するようにならなくてはならないと言うことで、対日関係や対米関係、台湾問題に対する徹底的な愛国主義教育で培われたナショナリズムが共産主義に取って代わり、このナショナリズムこそが、中国人の健全な自己主張なのである。
ところで、この三つの外交問題の中でも、中国の指導者が、扱いが難しく、国益と権力維持の間でバランスを取るのに苦労している問題は対日関係で、日本問題に関する限り中国人は理性的には成れず、中国政府にとって世論が意味を持つのは、実は、日中関係だけである。
中国共産党の支配を正当化しているのは、日中戦争における中国の勝利で、それまで50年間続いた日本の残酷で屈辱的な圧制を払いのけたと言うのが中華人民共和国の建国神話なのである。
したがって、天安門事件以降も、国民の共産党への支持を維持するために、愛国主義プロパガンダを熱心に活用し、特に、かっての日本の侵略行為が共産党支配の歴史的根拠とされ、中国の指導者は、日本を上手く使って、強いリーダーシップを演出したり、扱いにくい国内問題から世間の注目をそらし、国民の支持を動員する為に徹底的に反日運動を利用した。
中国の指導者は、一般中国人の反感を駆り立てる相手として、日本は、アメリカや台湾より安全だと考えていた。
アメリカとの正面衝突は、中国としても是非とも避けたいし、台湾との軍事衝突も、そのままでは米中戦争に繋がるが、日本は、大国と言っても二流で経済面では中国に依存しており日本からの武力行使も有り得ないので、反日感情を煽って中国人の不満をガス抜きするのには、コストがゼロの良策だと言うのである。
自信のない指導者ほどこの傾向が強く、反日ナショナリズムに徹底的に火をつけて愛国主義教育を行ったのは江沢民で、1995年の第二次世界大戦終戦の50周年記念行事で、中国の対日勝利を記念する公式行事の内17行事に、中国指導者を伴って出席する熱心さで、中国国内で反日感情が高まることを放置し、時には自らの言動で後押しさえしていたので、この時日中関係が最悪の事態に陥った。丁度、中国が世界の反対を押し切って原爆実験をした時である。
(尤も、強力な指導者であった毛沢東や小平などは、日本を問題にしなかったし、小平などは、訪日して日本の驚異的な経済発展に刺激されて、益々、中国の発展の為の指針としたし、胡耀邦のように、日本との友好関係を維持するために積極的だった指導者も居た。)
反日感情は反米感情に比べて、年齢、性別、所得には関係なく、どんな中国人も日本が嫌いで徹底しているのだが、意識調査の回答者で日本人に会ったことがないと答えたのが80%近くあり、知っている日本人は小泉純一郎、東条英機、山本五十六等というお粗末さで、日本人に対する意見は、新聞、テレビ、インターネットを通じて形成されたものだと言うのである。
ところが、ウエブ上で意見を発表する時には、米中関係でも中台関係でも、愛国主義的な建前から逸脱した発言をすべきでないと言うのが建前だが、日本の場合には、必ず自分がどれほど日本を嫌っているかと言うことから始めないと、ウエブサイトの管理者に削除されてしまうと言う。
それに、マスコミは、日本関連で事件やニュースが飛び込むと喜び勇んで反日キャンペーンを張って、聴衆が喜ぶような記事を徹底的に報道し続けると言うのである。
日本の教科書の記述が問題となり、歴史認識が焦点となっているのだが、江沢民時代の徹底的な日本に対する偏向教育の影響や、いまだに、共産党政府が、マスコミは勿論、中国国民の教育や情報通信に関して、知識情報を検閲したり管理している中国において、正しく民意が反映されるのかどうかは大いに疑問である。
ところで、今回の胡錦濤の訪日は、10年ぶりの中国元首の訪日だと言うことだが、前の江沢民の訪日とは、人物が異なっているのみならず、日中の国際社会における位置づけも全く変わっており、それ以上に、思想やグローバル化した経済社会や政治環境が激変しており、あらためて新しい視点から考える必要があるが、しかし、歴史的な意義は非常に大きい。
我々日本人の意識の中には、中国の歴史と文化・文明に対して、一種の畏敬と尊敬の念が色濃く残っていて、少なくとも、今日の中国人が日本人に抱くような対中感情は殆どなく、和魂洋才と言うが、この和魂の中にも中国文化の影響が残っており、日中の歴史的文化的連帯は極めて強い。
結局、日中関係の正常化は、日中国民の自由で自然な交流を重ねることによって、もっともっとお互いに理解し合って、時間による解決を待つ以外にないような気がしている。
素晴らしいことだと思っているが、日中間に横たわっている根本的な問題が果たして本当に解決へ向かって進むのかのかどうか知りたくて、最近出版されたスーザン・L・シャーク著「中国 危うい超大国 China - Fragile Supperpower」を読んでみた。
これまで、比較的多くの中国関係の書物を読んできたが、日本人でも中国人でもないアメリカ人の、そして、中国のエキスパートとも言うべき中国政治を専門とするシャーク教授の、まず、比較的客観的な中国論が、最も参考になると思ったからである。
流石に、シャーク教授で、特に、中国が、最大の外交問題の鬼門としているアメリカ、日本、台湾との関係に焦点を当てて、歴史的な視点のみならず、政治経済、それに、中国人の国民性や思想・思考の深淵まで掘り下げて、現代中国論を詳細に展開しており、450ページに及ぶ大著の内70ページ以上も、第6章「日本――中国が怒ると、結果はいつも大いなる災いだ」に割いて、日中関係を論じていて、非常に示唆に富んだ貴重なレポートで参考になった。
(以下において、私なりにピックアップして論点を紹介することとしたい。)
中国の一般大衆の関心を集める外交問題は、解決されるべき実務問題ではなく、譲ることの出来ない原則上の問題として理念先行型の扱いを受ける。
すなわち、日本が犯した歴史的な数々に対して償うべきだと言う原則、台湾が受け入れるべき「一つの中国」と言う原則、それにアメリカの覇権主義に対抗すべきだと言う原則で、日本、台湾、アメリカに対して取るべき態度については、中国人の間には強烈なコンセンサスが出来上がっている。
中国が舐めた屈辱の世紀が終焉を迎えるためには、日本が戦時中の非道徳な行為について心からの謝罪を述べ、台湾が中国本土に統一され、アメリカが中国を対等の超大国として遇するようにならなくてはならないと言うことで、対日関係や対米関係、台湾問題に対する徹底的な愛国主義教育で培われたナショナリズムが共産主義に取って代わり、このナショナリズムこそが、中国人の健全な自己主張なのである。
ところで、この三つの外交問題の中でも、中国の指導者が、扱いが難しく、国益と権力維持の間でバランスを取るのに苦労している問題は対日関係で、日本問題に関する限り中国人は理性的には成れず、中国政府にとって世論が意味を持つのは、実は、日中関係だけである。
中国共産党の支配を正当化しているのは、日中戦争における中国の勝利で、それまで50年間続いた日本の残酷で屈辱的な圧制を払いのけたと言うのが中華人民共和国の建国神話なのである。
したがって、天安門事件以降も、国民の共産党への支持を維持するために、愛国主義プロパガンダを熱心に活用し、特に、かっての日本の侵略行為が共産党支配の歴史的根拠とされ、中国の指導者は、日本を上手く使って、強いリーダーシップを演出したり、扱いにくい国内問題から世間の注目をそらし、国民の支持を動員する為に徹底的に反日運動を利用した。
中国の指導者は、一般中国人の反感を駆り立てる相手として、日本は、アメリカや台湾より安全だと考えていた。
アメリカとの正面衝突は、中国としても是非とも避けたいし、台湾との軍事衝突も、そのままでは米中戦争に繋がるが、日本は、大国と言っても二流で経済面では中国に依存しており日本からの武力行使も有り得ないので、反日感情を煽って中国人の不満をガス抜きするのには、コストがゼロの良策だと言うのである。
自信のない指導者ほどこの傾向が強く、反日ナショナリズムに徹底的に火をつけて愛国主義教育を行ったのは江沢民で、1995年の第二次世界大戦終戦の50周年記念行事で、中国の対日勝利を記念する公式行事の内17行事に、中国指導者を伴って出席する熱心さで、中国国内で反日感情が高まることを放置し、時には自らの言動で後押しさえしていたので、この時日中関係が最悪の事態に陥った。丁度、中国が世界の反対を押し切って原爆実験をした時である。
(尤も、強力な指導者であった毛沢東や小平などは、日本を問題にしなかったし、小平などは、訪日して日本の驚異的な経済発展に刺激されて、益々、中国の発展の為の指針としたし、胡耀邦のように、日本との友好関係を維持するために積極的だった指導者も居た。)
反日感情は反米感情に比べて、年齢、性別、所得には関係なく、どんな中国人も日本が嫌いで徹底しているのだが、意識調査の回答者で日本人に会ったことがないと答えたのが80%近くあり、知っている日本人は小泉純一郎、東条英機、山本五十六等というお粗末さで、日本人に対する意見は、新聞、テレビ、インターネットを通じて形成されたものだと言うのである。
ところが、ウエブ上で意見を発表する時には、米中関係でも中台関係でも、愛国主義的な建前から逸脱した発言をすべきでないと言うのが建前だが、日本の場合には、必ず自分がどれほど日本を嫌っているかと言うことから始めないと、ウエブサイトの管理者に削除されてしまうと言う。
それに、マスコミは、日本関連で事件やニュースが飛び込むと喜び勇んで反日キャンペーンを張って、聴衆が喜ぶような記事を徹底的に報道し続けると言うのである。
日本の教科書の記述が問題となり、歴史認識が焦点となっているのだが、江沢民時代の徹底的な日本に対する偏向教育の影響や、いまだに、共産党政府が、マスコミは勿論、中国国民の教育や情報通信に関して、知識情報を検閲したり管理している中国において、正しく民意が反映されるのかどうかは大いに疑問である。
ところで、今回の胡錦濤の訪日は、10年ぶりの中国元首の訪日だと言うことだが、前の江沢民の訪日とは、人物が異なっているのみならず、日中の国際社会における位置づけも全く変わっており、それ以上に、思想やグローバル化した経済社会や政治環境が激変しており、あらためて新しい視点から考える必要があるが、しかし、歴史的な意義は非常に大きい。
我々日本人の意識の中には、中国の歴史と文化・文明に対して、一種の畏敬と尊敬の念が色濃く残っていて、少なくとも、今日の中国人が日本人に抱くような対中感情は殆どなく、和魂洋才と言うが、この和魂の中にも中国文化の影響が残っており、日中の歴史的文化的連帯は極めて強い。
結局、日中関係の正常化は、日中国民の自由で自然な交流を重ねることによって、もっともっとお互いに理解し合って、時間による解決を待つ以外にないような気がしている。