熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

1930年のローマ開催:日本美術展・・・三越日本橋本店

2008年05月14日 | 展覧会・展示会
   1930年にローマで、イタリア政府主催で開催された「日本美術展覧会(ローマ展)」に出品された日本画が一堂に会して、三越で展覧会が開かれている。
   1929年の世界大恐慌の翌年であるから、世界経済は壊滅状態にあった筈だが、大倉喜七郎男爵が、画料をはじめとする膨大な経費を総て負担して、総勢80人の日本画家が製作した大正末期から昭和初期にかけての作品168件が出展されたと言う。
   

   冒頭から、横山大観の山四趣4幅・瀟湘八景8幅、それに続いて、「夜桜」6曲2双の大作が展示されていて息を飲む迫力である。
   「夜桜」は、満月のかかった黒い山の端をバックにして満開の巨大な桜の気が左右に一本ずつ、そして、その前景にやや小ぶりの松の木が2~3本光に照らされて浮かび上がっているスケールの大きな装飾画だが、数個の篝火が黒い煙の尾を引いて赤く燃えているのが面白い。
   桜の花は、殆ど総て正面を向いて正確に5枚の花びらと蘂をつけて不釣合いに大きく描かれていて、松の木も、枝が左右に垂れ下がってやや明るい変化のない同じトーンの緑色で描かれているなど、非常に印象的な雅な絵画である。
   
   口絵写真は、前田青邨の「洞窟の頼朝」である。平家討伐の途中、石橋山の戦いで敗北を帰し洞窟に入った頼朝を描いたようだが、この絵も、非常に平坦で、頼朝の衣装や鎧などの描き方も奥行きが全く感じられない平板な表現で、色彩をのせた錦絵風の絵と言う感じがした。
   尤も、この絵から発散されるオーラは凄い威圧感と迫力で、頼朝の上目遣いの澄んだ眼の表情など、他の家来達の動きと合わせて見ると次の軍略が見えてきそうで臨場感さえ感じさせてくれる。

   動物を描いた絵で興味深かったのは、二匹の闘鶏が凄い格好で戦っている絵を描いた竹内栖鳳の「蹴合」で、これは、リアリズムの極致であるばかりではなく、けたたましい戦いの雰囲気さえ伝わってくる。
   もう一つは、上部を明るく下部を暗くした金地をバックに、真ん中を左右に渡した一直線の梅の枝の真ん中に涼しげに一匹のみみずくがとまっている絵を描いた小林古径の「木莬図」で、橙色の眼をした凛としたみみずくの表情が実に良く、枝の左右に描かれている濃いピンクの一重の梅の花が、非常に印象的で美しい。

   また、真っ白な白鷺を2匹、真っ青な群青色の水面をバックに浮かび上がらせた宇田荻邨の「淀の水車」は、淀川の木製の水車を描いた装飾画的な風景画だが、鷺の美しさは抜群である。

   とにかく、当時の最高峰の日本の画家達が精魂傾けて描いた作品が纏めて展示されているのであるから、夫々の作品に感激しながら見て歩く楽しみは格別で、時間を忘れるくらいであった。
   それ以前の浮世絵が、ヨーロッパ芸術に与えて生み出されたジャポニスムほどではなかったのであろうけれど、実際に、イタリア芸術に、どのような影響とインパクトを与えたのか興味を感じた。

(追記)口絵写真は、三越ホームページから借用。
コメント (1)
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