熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

中国が世界を巻き込むグローバリゼーションの凄さ

2008年05月13日 | 政治・経済・社会
   中国の世界経済へのインパクトについては衆知の事実としても、中国人なり、中国企業の日本でのプレゼンスが、比較的大人しいので、日本企業の中国進出や日本における中国製品が目立つ程度だが、
   欧米では、昔から産業の中心として繁栄を極めていた工業都市が、瞬く間に中国人の進出と産業移転、製品模倣などによって壊滅状態に追い込まれてしまった例が続出している。

   長い間積読であったジェイムズ・キングの「中国が世界をメチャクチャにする」を読んで、中国のグローバリゼーションへの衝撃が、正に、シュンペーターのイノベーション理論を地で行く革命的インパクトであることを改めて認識した。
   この本のタイトルは、「CHINA SHAKES THE WORLD」であるから、中国が世界を振り動かす、揺さぶる、よろめかせる、かき回すと言ったニュアンスなのであろうが、眠っていた筈の中国が、ヒットラーの電撃作戦よろしく、瞬く間に世界のあっちこっちで、それも、あらゆる分野で、制覇し始めたということを、中国の大学を出たファイナンシャル・タイムズの元北京支局長が、世界中を回って、欧米人の眼からレポートしているのだから、理論も迫力も類書を凌駕している。

   冒頭から、200年にわたって兵器や戦艦の装甲版を製造しドイツ国家に貢献してきたルール工業地帯のティッセンクルップ社のドルトムントの不死鳥と呼ばれた製鉄工場が、技芸団よろしく命綱も着けずに高層足場に駆け上がった中国人に解体されて、船に乗せて運ばれ、揚子江の河口で解かれて、内陸で組み立てられて鉄鋼生産が行われた様子を伝えている。

   業界でも比類ないデザイナーとイタリア・ファッションの真髄とも言うべき豪華なクライアントを抱えていたイタリアの織物業の聖地とも呼ぶべき700年の歴史を持つプラートさえ、中国の軍門に下ってしまっている様子を見て、ヨーロッパのメーカーが束になっても勝てないとなると、ヨーロッパの製造業の将来はどうなるのか、と著者は問う。
   最初は、不法移民としてプラートに入ってきた温洲からの中国人出稼ぎ労働者が、低賃金で繊維業の雑役から働いて、一人また一人と独立して行き、次から次へと温洲企業が独立して行って、イタリア人の元ボス達を廃業に追い込んで行った。
   100年以上も歴史を誇るイタリア人の名門企業の数社などは、最初は、衣料製造の1工程だけ中国に外注していたのだが、今やほぼ全工程を海外に移して風前のともし火だと言う。紡績、製織、裁断、縫製が温洲に移されるごとに、プラートの中国人経営者の方がイタリア人経営者より上手く対応するので勝負にならない。
   
   ジヴァンシー、イヴ・サンローラン、シャネルect.等有名ブランドも、今では、高級ファッションを手頃な価格で提供しようと、中国に大規模にアウトソーシングを行っており、また、ロンドンのサヴィル・ローの仕立て店のでも一軒はこんな店があり、アウトソーシングしてブランド価値を弱める危険を冒すべきかジレンマに立っていると言う。イタリアやイギリスの卓越した職人が作り上げているから高級ブランドである筈なのである。
   ところが、アウトソーシングには、必ず、品質確保の為の重要な技術やノウハウが流出する心配があり、経営危機に陥ったイタリア企業のデザイン工房を買い取るなどして、中国の高級品へのデザイン力の向上は著しいと言う。
   尤も、絹織物は元々中国が本家本元であったのが、550年に、ユスティニアヌス帝が、古代ペルシャの聖者に命じて、密かに蚕の卵と桑をコンスタンチノープルに持ち帰らせたのであるから、中国人にとっては、里帰りであって疚しいことでもなんでもないと言うことであろうか。

   余談だが、チェコのプラハで、素晴らしい陶磁器の人形の置物を見つけて買いたくなったのだが、Made in Chinaと刻印されていたので止めた。
   しかし、考えてみれば、陶磁器は中国が本場であり良質である筈だから、買うべきであったと、後で後悔したしたことがある。

   グローバリゼーションの拡大の為、中国企業によって駆逐されてゆく外国企業のケースのほんの序の口を示しただけだが、日本に置き換えて考えた場合、本格的な自由化によって、中国から、ヒト、モノ、カネが自由に入って来れば、日本経済社会に与える影響は、非常に大きい。
   今、日本で、地方の疲弊や地域格差の問題が深刻な問題を提起しているが、要素価格平準化定理を持ち出すまでもなく、日本の経済、特に、中国企業と競争せざるを得ない産業においては、従業員の所得は、中国人並みに著しく低下せざるを得なくなる筈である。

   私の言いたいのは、この中国力の台頭によるグローバリゼーションの前には、野党が主張する最低賃金の引き上げなど、無意味であり、むしろ自縄自縛になると言うことである。
   格差の解消は勿論、経済の活性化のためには、日本経済社会の構造改革を推し進めて、イノベーションに邁進して生産性をアップすることが必須であり、更に、日本人労働者の教育訓練により、中国人労働者より質と生産力を上げる以外に方策はない。
   市場原理主義の経済が嫌であろうとなかろうと、現に、世界はこの法則で機能しており、経済のグローバリゼーションは、情け容赦なく惰眠を貪る日本を直撃する。この厳粛な事実を認識しない限り、日本経済の明日は暗い。

(追記) 椿は、岩根絞。
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