熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

M.グラッドウェル著「第1感」・・・最初の2秒の直感が正しい

2008年05月02日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   役人や政治家になれそうなヘアスタイルを変えて髪を伸ばしてアフロヘアになったら、急にスピード違反で捕まったりレイプ犯と間違えられたり警官に追いかかられるようになった。
   警官が犯人だと思い込んだ理由は、肌の色でも身長や体重でも年齢でもなく、ただ、アフロヘアだけだと分かって、何故、第一印象がこれほど強烈なのか興味を持ち、この本「第1感 blink The Power of Thinking Without Thinking」を書いたと言うのが、著者マルコム・グラッドウェルの弁であるが、とにかく、面白いし参考になる。

   blinkと言うタイトルが示すように、一瞬のきらめき、ちらつきと言うか、まばたきするする瞬間が、人間の思考や行動を決定すると言う重要な事実を、「輪切り」と言う概念で捉えて、人生の悲喜劇を巻き起こす「第1感」について、色々な方面から実例を引きながら科学的な色付けを交えて論じている。
   「輪切り」とは、様々な状況や行動のパターンを、ごく断片的な観察から読み取って瞬間的かつ無意識のうちに認識する能力で、この輪切りの能力は、素晴らしき無意識の世界の一部に過ぎないのだが、瞬間的な認知であるので、厄介な問題も引き起こす。
   
   私は、昔から、「一目ぼれ」と言うか、直覚の愛について興味を持っており、かなり正確な愛情認識だと思っているのだが、これについては触れていない。
   ところで、欧米では比較的普通だったが、最近、日本のオーケストラにも、女性音楽家が多数登場するようになり、以前のようにヴァイオリン・パートと言った次元ではなく、金管木管は勿論のこと、打楽器まで女性奏者が進出するようになったので興味を感じていたが、、最期のエピローグで、その理由を面白い逸話で語っており面白かった。

   1980年、ミュンヘン・フィルのトロンボーンのオーディションで、オーケストラ関係者の息子が参加していたので、公平を期すために仕切り越しに行われた。
   音楽監督のセルジュ・チェルビダッケは、感激して「欲しいのはこの演奏者だ!」と言って順番を待っていた残りを全部返したが、出て来た女性奏者アビー・コナントを見て落胆し「勘弁してくれ。トロンボーン・ソロは、男性に吹いてもらいたいんだ」と言った。
   コナントは、仕方なく裁判所に訴えたが、女性奏者に対する偏見と先入観を覆して、実際に採用され男性奏者と同じ給料を支払われたのは、14年後だったと言う。

   そのほか、ウィーン・フィルのオーディションで、素晴らしい演奏者が日本人だったので審査員が唖然とした話や、メトロポリタン歌劇場やワシントン・ナショナル交響楽団の仕切りなしオーディションによる変化など面白いケースを披露している。
   仕切りが一般的になってきたこの30年間で、アメリカでの一流オーケストラの女性楽団員の数は5倍に増えたと言う。
   人の演奏を判断する時の、純粋で強烈な第一印象と思っていたものが無残に崩れたことに、クラシック音楽の世界は気付いたのである。
   その結果、大改革をすることなく、女性奏者を加えただけで一挙にオーケストラの水準が上がったと言うのだが、先入観と偏見に引き摺られて、第1感を軽視した付けは大きかったということかも知れない。

   カラヤンが、女性クラリネット奏者ザビーネ・マイヤーをベルリン・フィルの楽団員にしようとして楽団と争ったのも、ウィーン・フィルが女性奏者を楽団員に採用し始めたのも、実は、そんなに昔の話でもなかったことを思い出した。
   小澤征爾をキックアウトしたことのあるNHK交響楽団には、他の楽団と比べて女性奏者が少ないのは、やはり、第1感に抵抗を示すDNAが強い所為であるためであろうか。
コメント
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