熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

イノベーション・ジャパン2008・・・大学発「知」の見本市

2008年09月20日 | イノベーションと経営
   大学発「知」の見本市と言う振れ込みで、独立行政法人JSTとNEDOの主催で開かれたのが、イノベーション・ジャパン2008。もう5周年だと言う。
   東京フォーラムの会場に、全国各地の沢山の大学からのTLO(技術移転機関)や大学発ベンチュアーがブースを並べて、開発中の技術の展示やセミナー等で紹介にこれ努め、未来のイノベーションを夢見て活発に活動を展開していた。

   これと平行して、セミナー会場で、基調講演、特別講演やシンポジウムが開かれて、今回は、安倍晋三前総理が登壇して、シンポジウム「目指すべきナショナル・イノベーション・システムについて ~イノベーション25と各国におけるイノベーション政策の動向から~」の皮切りに基調講演を行った。
   先日紹介した清水教授の電気自動車エリーカの話もこの一貫だったが、私は、初日のこれらのセミナー等と、3日目の山口葉子氏の「バイオベンチュアーの生き残り方ーナノエッグ成功の秘訣ー」と山海嘉之筑波大教授の「イノベーションを育てるためにー『HAL』開発の現場から」を聴講したのだが、非常に感銘を受けた。

   国民生活を豊かにする為にも、或いは、人類が直面している環境や貧困、天然資源の枯渇などの深刻な問題を解決する為にも、袋小路に落ち込んだ今日の文明社会を活性化するためにも、更なるイノベーションを追求する以外に人類にとって有効な選択肢はないと言うのがグローバルベースでのコンセンサスである。
   これを受けて、パルミサーノが先導したイノベート・アメリカを皮切りに、先進国が思い思いにイノベーション対応の組織と戦略を打ち出し、日本も、安倍総理の時に、イノベーション25」を立ち上げて、イノベーション立国を志向することになった。
   安倍総理の政治理念として、イノベーションを国家戦略の最も重要な柱として、日本経済の再活性化を図り、人類への貢献を果たそうと言う構想であったが、道半ばにして頓挫し、その後は、お題目としても迫力を欠いてしまっている。
   今回は、OECD,アメリカ、中国からコメンテーターが出席して、夫々、興味深いイノベーション対応について報告があったが、要は、国家に確固とした信念、そして、戦略遂行の決断と実行力があるかどうかと言うことであろうと思う。

   今回のフォーラムで一寸異質感を感じたのは、冒頭の三菱電機野間口有会長の「オープンイノベーション時代の産学官連携の意義」と言う基調講演で、垂直統合型R&D時代の終焉とオープンイノベーションの時代と言う時代背景の認識は良いのだが、現実には、大学との共同研究と言った程度の産学官協力の段階で、オープンイノベーションの現実とはあまりにもかけ離れた、とってつけたような論陣を張っていたことである。
   経団連や日本知財協会の代表と言う立場での講演であるから、ある程度現実を踏まえての意見なのであろうが、例えば、フリードマンの「フラット化する世界」だとかタプスコットなどの「ウィキノミクス」を読んでも簡単に分るのだが、IBMやP&G、ボーイングなど多くの欧米企業は、自社の保有する知財や知識情報をオープンにして、グローバルベースで、オープンなビジネス連携を通じてイノベーションを追求している。本当の意味で、社外の人的パワーや知識技術を自社の事業に糾合してイノベーション戦略を展開しているのである。

   日本でも、レクサスの開発でのトヨタや、PS3でのソニーなど幾分オープンソースイノベーション的なアプローチが出て来ている様だが、自社開発主体でブラックボックス重視で技術開発を追及する性向の強い日本企業には、オープンイノベーションと言う概念は、精々、仲間内や極限られたサークルでの協力程度で、まだまだ、踏み出せないのかも知れない。
   事例として野間口会長が引いた三菱電機のオープンイノベーションでも、精々自社の事業展開にとって有利なように、技術補完・補填と言った意味での、大学との共同研究や、欧米などの企業との技術導入や協力と言った程度で、三菱電機の知財をオープンにして外部のパワーを糾合してオープンイノベーションを追求するなどと言う次元にははるかに程遠い。

   先日も、日立の篠本学副社長のリノベーション論について辛口のコメントを展開したが、流行のエポックメイキングなキャッチフレーズを使って基調講演を行うのなら、じっくり勉強をして最低限度の知識を習得して現実を見極めてから、引き受けるべきであろう。
   昔、ドラッカーが「断絶の時代」と言う一世を風靡した素晴らしい本を出版して、日本でも話題になったが、読まないのは言語道断としてもロクスッポ理解も出来ずに、断絶の時代と言う言葉を引用する経営者や講演者が多かったのを思い出すが、今日、トップに立つ経営者の質が落ちたとは思えないので、一寸した心掛けが必要だと思っている。
   
   
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