熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ジェフ・ジャービス著・・・「グーグル的思考」

2009年08月06日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   ジェフ・ジャービスの新著「グーグル的思考」と言う本は、非常に示唆に富んだ面白い本で、インターネット社会になって、グーグルが、グーグル的志向を伝播することによって、如何に、経済社会も、ビジネスも、根底から変えてしまったかを説いていて興味深い。

   ”マスマーケットは死んだ。自殺を図ったのだ。グーグルはただ、銃を手渡したにすぎない。”と言う言葉に、ジャービスの論点の一つが如実に示されている。
   このことを、グーグルのビジネスモデルと、まだ、不特定多数に向けて宣伝広告ビジネスを続けている広告会社とを対比させながら、揶揄的に説いているのが面白い。
   勝負がついているのに、まだ、性懲りもなく、泥舟にしがみ付いている既製大広告会社のビジネス・モデルの愚かさであろうか。

   旧来の経済では、メディアや広告会社は、大規模な広告が出来る大企業のためだけに働いてきており、TVでのゴールデンタイムの争奪戦に明け暮れ、商品の売り場の確保に奔走するなど、希少な広告チャンスの獲得とマスマーケットをターゲットにして広告合戦に鎬を削ってきた。
   しかし、あらゆる規模の広告主のために機能するグーグルの市場が生まれて、小規模なものが新たな力を持つ経済システムが導入された。
   グーグルの広告は、インターネットによるオークション方式の市場で運営されており、より流動的に空洞を埋めて行くシステムで、従来のマスと希少性を基盤にした経済の力関係と隔絶され、独自の経済機構の中で機能しているので、正に、ブルーオーシャン、無競争の世界である。

   グーグルは、ニッチの宇宙の中を航海し、そこから利益を得る術を解明した。広告主がターゲットを絞った消費者にアプローチするために、新しい方法を作り出したのである。 
   従来の広告媒体と違って、広告を見ただけでは料金を徴収せず、視聴者がクリックした時だけ料金を取り、効果があるのかないのか分からなかった広告主が、自分たちの広告投資にどのくらい反応があったのかを測定できるようにしたのである。
   
   更に、グーグルは、旧来のメディアのように広告料金を設定せず、市場がキーワードに対する価格を設定するに任せている。
   より多くの広告がクリックされればそれだけ儲かる仕組みになっているので、グーグルにとっては、市場のターゲットを絞り効率を上げることが命題となり、結果的には広告主の要望に応えることにもなり、双方に恩恵が齎される。
   とにかく、グーグル検索によって、完全にマッチした視聴者に広告を提示してくれて、その上、クリック払いであり、そのコストが極めて安価であるから、どんなに小さな小資本の会社でも、グーグルで広告が張れるのである。
   マスマーケットが消滅し、ニッチが台頭してくる中で、そこから利益を得る方法を考えると言うグーグル的思考が、今後のビジネス成功の秘訣だと、ジャービスは説く。
   
   グーグルの更なる特質は、多くのプラットフォームを提供していると言うことである。
   ネットワークは、プラットフォームの上に築かれているのだが、グーグルマップなどはその典型で、マッシュアップなど多くのイノベーションによって、様々なアプリケーションのみならずビジネスも生まれており、そのことが、グーグルの事業拡大に貢献し続けている。
   従来のような主導権掌握型のビジネスなら、グーグルマップは商品であり、グーグルは、その利用者たちを広告主に売っていたであろうが、逆に、主導権をあらゆる人たちに渡して誰もが自由に使えるようにして、巨大な市場を生み出して来たのである。

   グーグルは、自ら頒布することに徹している。
   ヤフーなど多くのサイトは、自分たちのホームページを読者の目的地にしようと、読者を引き付けるためのコンテンツや広告を詰め込んでいる。
   しかし、グーグルは、自らを経路と考えていて、ユーザーが行きたい場所に当人を導くためのもので、それによって、辿り着いたサイトには、高い確率で、グーグルの広告かアプリケーションが待ち構えている。
   グーグル経由で、ユーザーの行く先々で姿を現すことこそ、グーグルの狙いなのである。

   私が非常に興味深いと思ったのは、ニューヨークタイムズなどの欧米メディアが、デジタルモデルを変更して、オンラインでのコンテンツ関連の料金徴収を止めたのだが、その原因はグーグルにあると言うことである。
   無料開放によってタイムズが得た最大の恩恵は、グーグル・ジュースにあると言うのである。
   グーグル・ジュースとは、グーグル、ひいては世間に高く評価されることで飲める魔法の液体で、より多くリンクされ、クリックされれば、記事の中で触れられれば、グーグルでの検索結果での順位が上がり、更なるクリックの増加が見込めると言う仕組みで、これによって、タイムズの権威のみならず収益が増大したと言うのである。
   私など、クルーグマンのコラムを自由に読めるようになったので、ニューヨークタイムズに感謝しているが、時々、このブログで、NYTの記事を引用しているので、その点では、グーグル的サービスに貢献していると言うことになろうか。

   ところで、日経ヴェリタスは、購読者限定サイトを設けて有料化したのだが、ジャービス論から行くと、グーグル的発想から逆行していることになり、先が見えていないと言うことになろう。
   蛇足ながら、インターネット全盛時代にも拘わらず、良く分からない雑誌ばかりを出版し続けている日経のビジネス戦略の時代錯誤ぶりに疑問を感じていることを付記する。

   ジャービス説によれば、とにかく、会社も個人も、オープンにこれ努めて、グーグルに露出して、少しでもグーグル検索ページでの順位を上げることこそが、すべからく勝者になるための秘訣であると言うことになり、自分のホームページや陣地に顧客を囲い込んで商売をしようとするなど愚の骨頂で、成功など覚束ないと言うのである。

   ところで、皆様に読んで頂いているので、私のブログでも、例えば、「イチローの愛国心」やトフラーの「生産消費者」などと言ったいくつかの項目では、グーグルのトップに掲載されていて、役立っているかなあと思って喜んでいる。
   
コメント (1)
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