熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ブックオフから出版不況が見える?

2009年08月23日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   数年前、古本を二束三文に買い叩かれて頭に来たのだが、オーバーフローするので、また、性懲りもなく、久しぶりにブックオフに出かけて本を売った。
   今度は、前以上に頭に来たのだが、出版不況と言うか、紙媒体の書籍離れが、この前以上に進んで来ているような気がして、世相の反映を感じて寂しくなった。

   今度は、私の本以外に、娘の本も同時に処分したのだが、買取価格は次のとおりであった。(大半は、ハードカバーの普通の本)
   完全に新本の経営学書  2冊  50円×2 =100円
   綺麗な古書      20冊  20円×20=400円
   普通の古書       3冊  10円×3 = 30円
     計                     530円
   この前のように、買取を拒否された本(その場でゴミ箱行き)はなかったので、一応、店頭に並べる価値ありと見たのであろう。

   ところで、この買取ポリシーから見ると、たとえば、私が一度だけ丁寧に読んだだけの新本に近いような古書が、たとえ、ピーター・ドラッカーや大前研一の経営学書であろうと、オバマ大統領の本であろうと、あるいは、シェイクスピアの戯曲であろうと、ブックオフでは、20円で買い取って、店頭には、税込み定価の半額、すなわち、1000円くらいで売り出すと言うことである。
   売れなければ、100円コーナーに移せば良いだけで、定価の1%程度の買取原価であるから、書棚の肥やしにならない限り損はしない。
  (商店街にある小さな店のポイントよりも悪いと言うか、統計などで言うと誤差範囲の値段であり、昔のちり紙交換のトイレットペーパーに少し色をつけた程度である。)
   山田洋二監督作品「母べえ」の夫・野上滋などは専門書を売って糊口をしのいでいたようだが、今の世では生きて行けない。
   謂わば、仕入原価2%の本を50倍に値付けして売る商売であるから、ブックオフの経営指標が悪いのなら、余程、経営がおかしいのである。

   この前、ブックオフで売ったのは、何年か前で、このブログでも取り上げた(2006.6.18)が、1冊平均50円くらいで買い取っていたように記憶しているので、ブックオフの買い取り価格が、半分以下に下がっていると言うことである。
   余談だが、ポイントも5%か10%あったように記憶するが、今では、TSUTAYAと乗り入れで、1%になったのか、とにかく、ブックオフの販売価格は違わないのに、買い取り価格が、異常にダウンしたことだけは事実である。

   もっと興味深い買取価格のダウンは、完全に新本の場合の値段である。
   その同じ頃に、ブックオフの快進撃に注目して、NHKの経済番組に呼ばれて登場した初代社長(M社から賄賂を貰ったスキャンダルで辞めた)が、新本のように綺麗な本は、本の種類に拘わらず総て定価の10%で買い取るので、誰でも値付けが出来るとシンプルなビジネス・モデルを得意げに説明していた。
   ところが、当時も、私の持って行った経営学書の新本を、何とか理屈をつけて実際に10%では買わなかったし、今では、どんな新本でも最高買取額は150円で、普通は50円くらいだと言うのである。

   念のため、ブックオフのホームページを開いて、買い取り価格を調べても、一切、それに関する記述がなく、ブックオフのオープンでシンプルだった筈のビジネスモデルが、完全に不明朗なブラックボックスに入ってしまったのであろう。
   まあ、ムダにちり紙交換(今は無料の古紙として回収)になるより、リサイクルして廃物利用すると言うエコ・ビジネスだと思えば良く、結構100円本の書棚スペースが拡大しており、またブックオフで売れば10円で買い取ってくれる。これなら、リターンは10%となる。
   
   はっきりしていることは、古書の買い取り価格が、以前より、はるかに下がってしまったと言うことである。
   古書の売値については分からないが、神田神保町では、私の買っている経済や経営や普通の文学書などの新古書(新本が古書扱いで古書店で売っている本)は、大体、定価の60%くらいで殆ど変わっていない。
   しかし、最近、古書店の店頭のワゴンなどに、かなり新しい新古書が、100円~300円くらいで現れることが多くなって来ているので、本離れの加速で書店経営も苦しくなって来たのか、売値も下落傾向にあるのかも知れない。
   
   ところで、本に対する姿勢だが、二人いる私の娘でも、本好きのわたしの影響を受けてかなり本を読んでいるようだが、上の娘は書棚にそれなりの本を並べて保蔵している程度で、下の娘になると本の保存には殆ど興味がなく、私などと比べると、本に対する執着は、どんどん薄れて来ている。
   狭い書斎が益々狭くなり、足の踏み場がなくなってきても、まだ性懲りもなく、新しい本が出るといそいそとし始める自分をもてあましているのだが、これは性分で死ぬまで直らないであろう。

   ところで、ブックオフだが、今では、筆頭株主が大日本印刷で、その子会社の丸善、図書館流通センター、それに、講談社、小学館、集英社などの出版社などが大株主で、これら出版関連大手が30%近い株式を保有している。
   言うならば、ただでさえ出版不況で苦しい業界に、古書安売りで殴りこみをかけて市場を撹乱したのがブックオフであるから、箍を嵌めてコントロールしようと言う意図があるのかも知れない。
   生かさず殺さず、適当にコントロールさえ出来れば、毒にも薬にもなる(?)と言うことであろうか。
   昔、欧米のあるレコード会社が、自社の売れっ子専属ピアニストの売り上げを維持するために、ライバルのピアニストを専属にして、そのピアニストのレコードの出版を抑えて圧殺したと言う話を聞いたことがあるが、経営学で言う垂直統合と言えば聞こえは良いが、実質的には、独禁法違反である。

   まあ穿って考えれば、買取り価格ダウン戦略を取らせて供給をセーブさせブックオフを制御しようとしているのかもしれないが、デジタル革命でインターネット全盛時代ともなれば、紙離れ本離れは必然で、出版業界も書店業界も、そして、とどのつまりは紙や印刷業界も、益々経営が苦しくなって行くだけで、姑息な小手先の対応など全くナンセンスで、執行猶予期間が短くなるだけである。

   趣味・読書と書けると自認する本ファンのつぶやきと言うか、インターネット社会と共存する最後の人間の正直な気持ちでもある。

(追記)写真は、某大書店の経営学書コーナー。ブックオフとは関係ない。
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