ハンチントンに「分断されるアメリカ」と言う著書があるが、それとはかなり違った現実のアメリカを直視した辛口の評論を集めたのが本書で、原題は、「THIS LAND IS THEIR LAND REPORTS FROM A DIVIDED NATION」。
お馴染みの格差社会が異常な状態にまで深刻化したアメリカ社会が、如何に危機的な重大な問題に直面しているのかを、実際にも極貧生活を経験した著者であるから、実にビビッドに活写しており、庶民の目線からのアメリカ文明社会の告発本と言ったところである。
表題の和文名は、その現実を伝えており、サブタイトルは、「格差社会アメリカのとんでもない現実」、帯には、「この異常な、笑うしかない格差社会は、明日の日本の姿だ!」。
21世紀に入って10年が経とうとしているのに、板を張って修繕された住宅が点々とし、敗れてしまった夢が散らばる、働きすぎるほど働いてもどんどん出て行って何も残らない生活。
どれだけ堤防が決壊し、町が水没し、食料が枯渇し、医療保険未加入者が落命すれば、「目覚ましコール」が鳴るのか。
崩壊するに任され続けているアメリカの現状とその深刻な病根を抉り出すように、軽妙なタッチで、著者は、ニューヨーク・タイムズ紙などに健筆を振るっていると言う。
面白いのは、経済成長論議で、経済学者や為政者は、GDP成長率は経済指標だとして経済成長率ばかり強調するが、いくら成長率が上がっても、それと裏腹に、益々、一般庶民の生活は苦しくなって来ている、おかしいではないかと言う。
現実には、この本のテーマでもある格差拡大の進行が元凶で、スーパーリッチが益々豊かになり、頂点を占める富裕層のGDPに対する貢献度が高くなって成長指標が上昇しても、中産階級の崩壊や、益々搾取されて虐げられている下層階級の困窮感は増大して行き、成長率、生産性、雇用率などといった経済指標が、一般国民の幸せ度や実体経済と乖離してしまっているのである。
最低賃金よりも多く稼げる仕事に就くためには「歳をとりすぎ」、社会保障給付金を受給するためには「若すぎる」失業者が、生きるために、止むを得ずに、犯罪を犯して、生活費一切の面倒を見てくれる刑務所暮らしを選択する。
生産性向上のために、海外へアウトソーシングする企業が多いが、頭脳の要らない単純作業だけが海外に委託される筈だったが、今では、研究・開発業務など専門的な高度な知的業務まで海外に移ってしまっているので、大卒も院卒も路頭に迷い、高等教育神話が崩壊してしまっている。
「毎日低価格」で世界一の商業であるウォルマートの劣悪な雇用環境については、多言を要しないが、この本では、男女の従業員を、「規則に違反し、深い関係になった」と言う容疑で、スパイ被疑者のようにグアテマラ・シティまで追跡して部屋の鍵穴から覗くなどスリラーもどきの調査をしている実態を暴露している。
会社側のスパイが女性の部屋から「うめき声とため息」が聞こえたと言う報告によるらしいが、しみったれ限りなきウォルマートが、尋常では大金を叩いてまでして探偵を雇う筈がなく、実際は、ウォルマートに商品を供給している中米工場の労働環境を公に批判されるのを恐れたためだとしている。
ところで、このウォルマートだが、商品の80%は中国製のようで数兆円規模で輸入し、その調達管理を人工衛星を2個も使って行っていると言うから、これも一種のイノベーションで、その途轍もないビジネス・モデルは他の追随を許さない。
ベルリンの壁崩壊後、新興国が資本主義市場に参入しグローバリゼーションの進展によって、価格破壊が起こってインフレーションが抑えられてきたのは、正に、アメリカにとっては天恵とも言うべきで、その最大の貢献者はウォルマートであると言えないこともなかろう。
私が、ここで言いたいのは、このウォルマートが、労働者を限りなく劣悪な環境で働かせて搾取して実現している低価格が、搾取されている労働者に低価格商品を提供することによって、一部生活を支えていると言うアイロニー皮肉である。
スーパーリッチなど富裕層は、ウォルマートで買い物をする筈もなく、ウォルマートの顧客は、落ちぶれた中産階級であり貧困層であり一般のアメリカ人である筈で、安く買えば買うほど、ウォルマートの従業員を追い詰めることなると言う、この経済社会の矛盾した現実である。
これと同じような現実は、アメリカの株主資本主義にも感じている。
アメリカ企業の株主は、年金基金など労働者の基金を基にした機関が相当な比重を占めているようで、年金基金資本主義とも言われている。
この株主が、企業に、利益を最大化しどんな手段を使ってでも利益を追求して株価を最高値に保つようプレッシャーをかけ続けている。
会社もこれに応えて、海外アウトソーシングして、賃金を切り詰め、労働者を首にして、操業を停止するなど、あらん限りの合理化を追求する。
このジレンマ、アイロニーをどう解決するのか。
変質してしまった資本主義の現実を直視しない限り、格差社会の解消などありえないような気がしている。
お馴染みの格差社会が異常な状態にまで深刻化したアメリカ社会が、如何に危機的な重大な問題に直面しているのかを、実際にも極貧生活を経験した著者であるから、実にビビッドに活写しており、庶民の目線からのアメリカ文明社会の告発本と言ったところである。
表題の和文名は、その現実を伝えており、サブタイトルは、「格差社会アメリカのとんでもない現実」、帯には、「この異常な、笑うしかない格差社会は、明日の日本の姿だ!」。
21世紀に入って10年が経とうとしているのに、板を張って修繕された住宅が点々とし、敗れてしまった夢が散らばる、働きすぎるほど働いてもどんどん出て行って何も残らない生活。
どれだけ堤防が決壊し、町が水没し、食料が枯渇し、医療保険未加入者が落命すれば、「目覚ましコール」が鳴るのか。
崩壊するに任され続けているアメリカの現状とその深刻な病根を抉り出すように、軽妙なタッチで、著者は、ニューヨーク・タイムズ紙などに健筆を振るっていると言う。
面白いのは、経済成長論議で、経済学者や為政者は、GDP成長率は経済指標だとして経済成長率ばかり強調するが、いくら成長率が上がっても、それと裏腹に、益々、一般庶民の生活は苦しくなって来ている、おかしいではないかと言う。
現実には、この本のテーマでもある格差拡大の進行が元凶で、スーパーリッチが益々豊かになり、頂点を占める富裕層のGDPに対する貢献度が高くなって成長指標が上昇しても、中産階級の崩壊や、益々搾取されて虐げられている下層階級の困窮感は増大して行き、成長率、生産性、雇用率などといった経済指標が、一般国民の幸せ度や実体経済と乖離してしまっているのである。
最低賃金よりも多く稼げる仕事に就くためには「歳をとりすぎ」、社会保障給付金を受給するためには「若すぎる」失業者が、生きるために、止むを得ずに、犯罪を犯して、生活費一切の面倒を見てくれる刑務所暮らしを選択する。
生産性向上のために、海外へアウトソーシングする企業が多いが、頭脳の要らない単純作業だけが海外に委託される筈だったが、今では、研究・開発業務など専門的な高度な知的業務まで海外に移ってしまっているので、大卒も院卒も路頭に迷い、高等教育神話が崩壊してしまっている。
「毎日低価格」で世界一の商業であるウォルマートの劣悪な雇用環境については、多言を要しないが、この本では、男女の従業員を、「規則に違反し、深い関係になった」と言う容疑で、スパイ被疑者のようにグアテマラ・シティまで追跡して部屋の鍵穴から覗くなどスリラーもどきの調査をしている実態を暴露している。
会社側のスパイが女性の部屋から「うめき声とため息」が聞こえたと言う報告によるらしいが、しみったれ限りなきウォルマートが、尋常では大金を叩いてまでして探偵を雇う筈がなく、実際は、ウォルマートに商品を供給している中米工場の労働環境を公に批判されるのを恐れたためだとしている。
ところで、このウォルマートだが、商品の80%は中国製のようで数兆円規模で輸入し、その調達管理を人工衛星を2個も使って行っていると言うから、これも一種のイノベーションで、その途轍もないビジネス・モデルは他の追随を許さない。
ベルリンの壁崩壊後、新興国が資本主義市場に参入しグローバリゼーションの進展によって、価格破壊が起こってインフレーションが抑えられてきたのは、正に、アメリカにとっては天恵とも言うべきで、その最大の貢献者はウォルマートであると言えないこともなかろう。
私が、ここで言いたいのは、このウォルマートが、労働者を限りなく劣悪な環境で働かせて搾取して実現している低価格が、搾取されている労働者に低価格商品を提供することによって、一部生活を支えていると言うアイロニー皮肉である。
スーパーリッチなど富裕層は、ウォルマートで買い物をする筈もなく、ウォルマートの顧客は、落ちぶれた中産階級であり貧困層であり一般のアメリカ人である筈で、安く買えば買うほど、ウォルマートの従業員を追い詰めることなると言う、この経済社会の矛盾した現実である。
これと同じような現実は、アメリカの株主資本主義にも感じている。
アメリカ企業の株主は、年金基金など労働者の基金を基にした機関が相当な比重を占めているようで、年金基金資本主義とも言われている。
この株主が、企業に、利益を最大化しどんな手段を使ってでも利益を追求して株価を最高値に保つようプレッシャーをかけ続けている。
会社もこれに応えて、海外アウトソーシングして、賃金を切り詰め、労働者を首にして、操業を停止するなど、あらん限りの合理化を追求する。
このジレンマ、アイロニーをどう解決するのか。
変質してしまった資本主義の現実を直視しない限り、格差社会の解消などありえないような気がしている。