リーマン・ショックが世界中を駆け回っていた2008年の年末の12月11日、大詐欺師バーナード・マドフがFBIに逮捕され、その規模6兆円と言う巨大ねずみ講事件が発覚して、世界中の投資家を震撼させた。
新興株式市場ナスダック(NASDAC)を創設した人物であり、ウォール街でも、相対取引ではトップクラスのマドフ証券を経営し、SECなどにも関係し金融関係でも重きをなした有名人であったから、その影響は世界中に波及した。
主要な投資金損出者の殆どは、同族のユダヤ人の富豪たちであるが、機関投資家も巻き込んでいたので、日本の金融機関もかなり被害にあっている。
この機関投資家たちが、リーマン・ショックを乗り切るために現金を必要とし、マドフのファンドへの投資を解約しようと殺到したので、資金がショートしたのであって、もし、それがなかったら、金に困らない多くの富豪たちは、疑いもなく注ぎ込んだ全財産がゼロになったのも知らずに騙され続けて、今現在も、マドフのねずみ講は健在であったであろうと言うから恐ろしい限りである。
「ねずみ講」とは、ピラミッド型の構造を作るのが特徴で、「Aから奪ったものをBに与える。新しく騙されたCが収めた金の一部を更にその前に騙されていた人A、Bに支払う。」この調子でどんどん増殖して拡大して行くが、資金がショートすれば、いつかは必ず破綻する。
ねずみ講を1920年に最初に編み出したイタリア移民チャールズ・ポンティは、当時銀行金利が2%であった時に「90日で40%の利子をつける。」として金を集めたように、普通のねずみ講は短期で考えられないくらいの高配当を謳うのだが、マドフの場合には、年率10~12%と言う、長期金利よりは高いがほどほどの利益を投資家に約束していた。
尤も、1990年頃の株式市場バブル時代はともかく、一つのファンドが、1990年代初め頃から長年にわたって平均以上の利益を上げ続けるなど、ウォール街の長い歴史でも全くなかったので、ウォール街のプロたちは、自分たちでもそれが不可能であることを検証して、マドフがどのようにして利益を出し続けているのか不思議に思って、マドフと彼の会社を調査するように、SECに対して繰り返し要請していた。
しかし、SEC内部でも、マドフがねずみ講をやっているのではないかと言う疑いを持っていたし、それにも拘わらず、SECは、適切な捜査を行うなど十分なアクションを取らず、マドフの詐欺を止めることは出来なかった。
マドフがウォール街の大物であり、実力者であることをSECの幹部たちは了解していたので、捜査は及び腰となり、その結果、マドフも捜査官の尋問にも余裕をもって答えることが出来てはぐらかせたのだと言う。
SECは、「特別捜査を行ったのだが、調査に関わった個人の能力不足の失敗(human failure)で詐欺を見抜けなかった。告発や警告に対応できるだけの人員と予算がないので、調査・監査部門が十分に機能できない。」と答えていた。
著者レボーは、何故、このような必ず終焉を迎える筈の巨大ねずみ講が20年以上も存続できたのか、マドフが利用した上流階級の力、集団心理、マドフのファンドへの最大の投資者であったユダヤ人社会の行動規範、監督官庁SECの対応等々、マドフ家の歴史から説き起こして築きあげて来た人間のネットワークの故事来歴、それをどのように利用してきたかなどを、金融は素人だと言いながら、克明に描写していて小説のように面白い。
この本のタイトルが、「The Believers How America fell for Bernard Madoff's $65 billion investmant scam」。正に、マドフを大ネズミに育て上げてしまったのは、マドフ教に心酔し、騙された人々の、底知れぬ強欲(greed)であり、その狂想曲を追奏しているのがこの本であろうか。
マドフが恐れていたのは、勿論SECで、踏み込まれて調査されれば、ひとたまりもなく発覚して崩壊する運命にあったのだが、何故、金融ビジネス、投資ファンドで成功を収めて功成り名を遂げ大富豪となったマドフが、詐欺行為を働き続けたのか。
PFOP(注文指令執行費)論争でSECと連邦議会に勝利し、アメリカ政府からお墨付きを得て、かつ、顧問投資業登録違反もどうにか乗り切って、本業には、問題がなかったにも拘わらずである。
レボーは、「マドフを犯罪に走らせたのは、実行することで得られるスリル、もっと金を儲けたいと言う欲望、貧しいユダヤ人の子孫としてのエリートユダヤ人に対する復讐心、これらが入り混じった複雑な感情であったと考えられる。」と記している。
マドフ自身、「詐欺行為を行っていて犯罪だとと言う認識もあり、こんなものは長く続かない。ねずみ講をやっている間、早く止めれば顧客の損害も少なくなるし、いつか逮捕される日が来ることは分かっていたが、止めよう止めようと思いながらそれが出来なかった。」と証言している。
ところで、マドフのねずみ講は、入会すること自体が大変な関門で選ばれた人のみが投資できると言うのであるから、一つのステイタスであり、超富豪の住むワスプの楽園コネチカット州グリニッジやパームビーチでファンドを売りまくったのも、多くの人が勝ち馬に乗る「バンドワゴン効果」で人々の強欲さと恐怖感、すなわち、他の人が大儲けしているのに自分は大きなチャンスを逃していると言う恐怖感と強欲さに火を点けて、何の疑問も持たずに乗ってくる富豪を手玉に取ったのであり、
慈善団体であろうと大学であろうと、あらゆるユダヤルートを活用し、子ネズミのフィーダー・ファンドの人脈を使ってヨーロッパの王族や富豪、機関投資家などへもアプローチし、何の倫理観も躊躇いもなく、手当たり次第にファンドを売り続けたと言う。
実際にファンドを多少でも動かしたのか何もしなかったのかなどは不明だが、IT技術活用でナスダックを起こした筈のマドフが、毎期ごとに、簡素な活字打ちのレポートで、詳細なオペレーション記録などを記載して送っていたようだが、これも不思議な話。
もっと不思議なのは、このマドフの詐欺行為を、マドフ証券で働いていた二人の息子も、そして、霜降の妻ルースも、マドフが12月10日の夜に告白するまで誰も全く知らなかったことである。
投資の鉄則:投資先は多様化して分散すべきを守らずに、全財産を注ぎ込んで摩ってしまったパームビーチの大富豪や有名人たちの目も当てられない悲惨さとは逆に、あくどい商売をし続けて大儲けした子ネズミや年率10%以上の配当であるから長く投資していて大儲けした御仁も沢山いて、人間の悲喜劇ここに極まれりということであろうか。
人間の愚かさと強欲の底知れぬ蠢きが、この資本主義を動かしているのだろうが、規模は小さいが、いくらでも次から次へと日本でもねずみ講まがいの詐欺が発生しており、石川五右衛門の辞世の句のように、「石川や 浜の真砂は尽きるとも 世の盗人の種は尽きまじ」と言うことであろうか。
新興株式市場ナスダック(NASDAC)を創設した人物であり、ウォール街でも、相対取引ではトップクラスのマドフ証券を経営し、SECなどにも関係し金融関係でも重きをなした有名人であったから、その影響は世界中に波及した。
主要な投資金損出者の殆どは、同族のユダヤ人の富豪たちであるが、機関投資家も巻き込んでいたので、日本の金融機関もかなり被害にあっている。
この機関投資家たちが、リーマン・ショックを乗り切るために現金を必要とし、マドフのファンドへの投資を解約しようと殺到したので、資金がショートしたのであって、もし、それがなかったら、金に困らない多くの富豪たちは、疑いもなく注ぎ込んだ全財産がゼロになったのも知らずに騙され続けて、今現在も、マドフのねずみ講は健在であったであろうと言うから恐ろしい限りである。
「ねずみ講」とは、ピラミッド型の構造を作るのが特徴で、「Aから奪ったものをBに与える。新しく騙されたCが収めた金の一部を更にその前に騙されていた人A、Bに支払う。」この調子でどんどん増殖して拡大して行くが、資金がショートすれば、いつかは必ず破綻する。
ねずみ講を1920年に最初に編み出したイタリア移民チャールズ・ポンティは、当時銀行金利が2%であった時に「90日で40%の利子をつける。」として金を集めたように、普通のねずみ講は短期で考えられないくらいの高配当を謳うのだが、マドフの場合には、年率10~12%と言う、長期金利よりは高いがほどほどの利益を投資家に約束していた。
尤も、1990年頃の株式市場バブル時代はともかく、一つのファンドが、1990年代初め頃から長年にわたって平均以上の利益を上げ続けるなど、ウォール街の長い歴史でも全くなかったので、ウォール街のプロたちは、自分たちでもそれが不可能であることを検証して、マドフがどのようにして利益を出し続けているのか不思議に思って、マドフと彼の会社を調査するように、SECに対して繰り返し要請していた。
しかし、SEC内部でも、マドフがねずみ講をやっているのではないかと言う疑いを持っていたし、それにも拘わらず、SECは、適切な捜査を行うなど十分なアクションを取らず、マドフの詐欺を止めることは出来なかった。
マドフがウォール街の大物であり、実力者であることをSECの幹部たちは了解していたので、捜査は及び腰となり、その結果、マドフも捜査官の尋問にも余裕をもって答えることが出来てはぐらかせたのだと言う。
SECは、「特別捜査を行ったのだが、調査に関わった個人の能力不足の失敗(human failure)で詐欺を見抜けなかった。告発や警告に対応できるだけの人員と予算がないので、調査・監査部門が十分に機能できない。」と答えていた。
著者レボーは、何故、このような必ず終焉を迎える筈の巨大ねずみ講が20年以上も存続できたのか、マドフが利用した上流階級の力、集団心理、マドフのファンドへの最大の投資者であったユダヤ人社会の行動規範、監督官庁SECの対応等々、マドフ家の歴史から説き起こして築きあげて来た人間のネットワークの故事来歴、それをどのように利用してきたかなどを、金融は素人だと言いながら、克明に描写していて小説のように面白い。
この本のタイトルが、「The Believers How America fell for Bernard Madoff's $65 billion investmant scam」。正に、マドフを大ネズミに育て上げてしまったのは、マドフ教に心酔し、騙された人々の、底知れぬ強欲(greed)であり、その狂想曲を追奏しているのがこの本であろうか。
マドフが恐れていたのは、勿論SECで、踏み込まれて調査されれば、ひとたまりもなく発覚して崩壊する運命にあったのだが、何故、金融ビジネス、投資ファンドで成功を収めて功成り名を遂げ大富豪となったマドフが、詐欺行為を働き続けたのか。
PFOP(注文指令執行費)論争でSECと連邦議会に勝利し、アメリカ政府からお墨付きを得て、かつ、顧問投資業登録違反もどうにか乗り切って、本業には、問題がなかったにも拘わらずである。
レボーは、「マドフを犯罪に走らせたのは、実行することで得られるスリル、もっと金を儲けたいと言う欲望、貧しいユダヤ人の子孫としてのエリートユダヤ人に対する復讐心、これらが入り混じった複雑な感情であったと考えられる。」と記している。
マドフ自身、「詐欺行為を行っていて犯罪だとと言う認識もあり、こんなものは長く続かない。ねずみ講をやっている間、早く止めれば顧客の損害も少なくなるし、いつか逮捕される日が来ることは分かっていたが、止めよう止めようと思いながらそれが出来なかった。」と証言している。
ところで、マドフのねずみ講は、入会すること自体が大変な関門で選ばれた人のみが投資できると言うのであるから、一つのステイタスであり、超富豪の住むワスプの楽園コネチカット州グリニッジやパームビーチでファンドを売りまくったのも、多くの人が勝ち馬に乗る「バンドワゴン効果」で人々の強欲さと恐怖感、すなわち、他の人が大儲けしているのに自分は大きなチャンスを逃していると言う恐怖感と強欲さに火を点けて、何の疑問も持たずに乗ってくる富豪を手玉に取ったのであり、
慈善団体であろうと大学であろうと、あらゆるユダヤルートを活用し、子ネズミのフィーダー・ファンドの人脈を使ってヨーロッパの王族や富豪、機関投資家などへもアプローチし、何の倫理観も躊躇いもなく、手当たり次第にファンドを売り続けたと言う。
実際にファンドを多少でも動かしたのか何もしなかったのかなどは不明だが、IT技術活用でナスダックを起こした筈のマドフが、毎期ごとに、簡素な活字打ちのレポートで、詳細なオペレーション記録などを記載して送っていたようだが、これも不思議な話。
もっと不思議なのは、このマドフの詐欺行為を、マドフ証券で働いていた二人の息子も、そして、霜降の妻ルースも、マドフが12月10日の夜に告白するまで誰も全く知らなかったことである。
投資の鉄則:投資先は多様化して分散すべきを守らずに、全財産を注ぎ込んで摩ってしまったパームビーチの大富豪や有名人たちの目も当てられない悲惨さとは逆に、あくどい商売をし続けて大儲けした子ネズミや年率10%以上の配当であるから長く投資していて大儲けした御仁も沢山いて、人間の悲喜劇ここに極まれりということであろうか。
人間の愚かさと強欲の底知れぬ蠢きが、この資本主義を動かしているのだろうが、規模は小さいが、いくらでも次から次へと日本でもねずみ講まがいの詐欺が発生しており、石川五右衛門の辞世の句のように、「石川や 浜の真砂は尽きるとも 世の盗人の種は尽きまじ」と言うことであろうか。