チャイナ・プライスと言うのは、アメリカ産業にとって最も恐ろしい言葉で、自社製品の価格を最低3割下げない限り顧客を奪われてしまう。殆どすべての製造業において深刻な影響を受け、経済の勢力図は大幅に塗り替えられつつある。とのニューズ・ウイークの記事を冒頭に掲げて、
ナヴァロ教授は、このチャイナ・プライスの優位性の多くは、国際貿易のほぼすべての信条や規範に違反しながら貿易習慣を続け、労働者を奴隷同然に働かせた結果として獲得されている。と言う。
尤も、中国よりももっと賃金の安い国はあるが、中国労働者の方が教育や訓練のお蔭で生産性が高いので競争にならないことは認めている。
また、急速な経済成長にも拘わらず、賃金が異常に上がらないのは、地方に放置されたままの何億と言う史上最大の「失業予備軍」がいるからで、資本主義には大量の失業が発生すると言うマルクスの主張が、共産中国で証明されていると言う皮肉を交えて、この大量の失業予備軍が、中国人労働者、ひいては世界中の労働者の賃金を押し下げており、内外企業とも、中国では、労働者を劣悪な環境で使い続けられるのであって、中国程、単調かつ過酷で危険を伴い、想像を絶するような劣悪な労働環境を持つ国は、地球上のどこを探してもない。
このディケンズの小説顔負けの過酷な労働条件に更に輪をかけているのが、奴隷労働で、中国では、子供や女性、時には男性さえも定期的に拉致されて、奥地などの搾取工場で働かされていている。
また、宗教上・政治上の反体制派が何百万人も、旧ソ連の強制収容所に似た劣悪な環境で労働を強制されているのだが、更に、毛沢東が創設したラオガイ(労働改造所)には4~6百万の国家反逆に問われた人たちがいて、電気製品や雑貨を生産している、などと信じられないような中国の労働市場の暗部を記している。
他にも、職を求める地方の求職者に労働条件を偽って雇用する契約奴隷の存在をニューヨーク・タイムズの記事を引用して説明しているのだが、このような中国人労働者に対する酷い仕打ちは、中国政府の協力なくしてはあり得ないことで、血も涙もない政府は、株式会社や国営企業に対して社員の健康や安全を守る規則を殆ど義務付けていない。
このような労働者に犠牲を強いて搾取する中国企業や多国籍企業は、労働者の権利を守り福利厚生に意を用いる外国のライバル企業に対してコスト面で優位に立つのは当然であり、中国での競争優位は、不当な手段によって創造されていると言うのである。
中国の人々にとってのみならず、世界中の人々の命運を左右する更に深刻な問題は、環境汚染である。
大気汚染の世界ワースト都市20のうち中国都市は16、水質汚染に至っては、中国の広大な河川体系が深刻な汚染に晒されていて半数の河川の水が飲料に適しないなどと言った極めて深刻な状態で、世界の製造業で覇権を握り世界NO.2の経済力を得た見返りが、国土の疲弊と言う代償であった。
中国企業であろうと多国籍企業であろうと、中国で操業する企業は、どこも費用の掛かる汚染防止技術に投資する必要がないし、どんな有害物質を無差別に河川に投棄しようとも罰せられない。環境に犠牲を強いて、外部経済コストを一切無視したコスト切り捨てであって、不公正な貿易慣習が生んだ優位性である。
もう一つナヴァロ教授が指摘するのが、知財を無視して中国経済を支えている海賊品・偽造品経済である。
この偽装・海賊行為は、膨大な開発投資をしてイノベーションを追及する必要もないし、ソフトウエアを始めとする最先端を行くIT技術などへの関連投資や調達コストも、更に、ブランド名を略奪すれば、膨大なマーケティングコストを削減できるなど、中国企業にとっては、製造や生産領域でコスト削減には大いに貢献している。
ナヴァロ教授は、この中国に蔓延している偽造・海賊行為は、政府の全面的な支持なくしてはあり得ないことで、知財を盗めば、何千万人もの雇用を創出し、国内のインフレ率の上昇を抑えられ、欧米や日本の商品のかなり質の高いまがい物を国内の消費者に低価格で提供できるからであると言う。
ここで興味深いのは、1949年に建国された中華人民共和国は、私有財産の廃止を土台としたので、「世界のいかなる技術も大衆の所有物だ」と本気で信じている幹部が数世代にわたって存在していると言う指摘である。
要するにナヴァロ教授の指摘したいのは、露骨な通貨操作、違法な輸出補助金、知財保護の無視、環境や健康、安全に対するゆるやかな基準、奴隷同然の労働環境、巨大な保護障壁等々と言った、国際法規や貿易協定などの精神に違反して行われている中国の不公正な重商主義的な貿易慣習が、チャイナ・プライスを生み出し、グローバル経済を大きくスキューしていると言うことであろうか。
しかし、ナヴァロ教授は、多国籍企業による海外直接投資が、最先端の経営手法や技術を持ち込み、低賃金で働く労働者が底辺を支え、人コネを活用して事業を円滑化する地方の「仲介者」が居て、海外で学んだテクノクラート経営者が束ねると言った成長路線については疑問だとして、
汚染物資を持ち込んでいるのは大半外国企業であって、健康、安全、環境等の極端に緩い基準を良いことにして、環境を汚染したり労働者の安全を危険に晒して、中国を「汚染の温床」に加担しているのは、海外投資家だと指摘している。
このナヴァロ教授の強烈な中国批判だが、確かに額面通りに受け取れば酷い。しかし、昔の日本とかなり似通った道程でもあり、ある意味では、先進国アメリカの一方的な見解だと言うニュアンスが強い。
人権を無視しした経済社会環境で生み出された中国の工業製品が高射砲のようにアメリカに降り注ぎ、国内産業が壊滅状態に陥って失業が増大しているのを許せないのであろうが、12億の最貧困層の未開中国を半世紀も要さずに、ある程度の生活水準に引き上げて、曲がりなりにも、近代的な文化文明の世界を現出して、経済大国にのし上げたのであるから、その成長を多とすべきであって、長い市民社会の歴史を経て民主主義の成熟したアメリカ基準で、中国を推し量るべきではないであろう。
中国を、経済的植民地にして安価な工業製品を生産させたのは、中国業者を搾取に搾取を重ねて値切り倒して、毎年数兆円もの格安な商品を、人工衛星を二基も打ち上げてIT調達管理をして米国市場に放出しているウォルマートを筆頭に、中国の経済成長を最も歪めて来たのはアメリカ企業であり、その中国人が爪に火を灯して蓄積してきた外貨を借りまくって、どうにか自国経済の辻褄を合わせて維持しているアメリカ経済の体たらくを、どう見るのか。
この現象は、ベルリンの壁の崩壊と同時に共産圏諸国や新興国が一挙に資本主義市場に雪崩れ込み成立したグローバリゼーションの必然の結果であり、新興国が歴史を短縮して先進国にキャッチアップしようとする厳粛なる道程なのである。
長くなったので、最後に一言だけ付言しておきたいのは、経済原則と生き抜くための戦略として中国に進出する日本企業に対してだが、
経済の発展段階では発展途上国であり、政治的にも一党独裁であり、経済社会が非民主的で、先進国と比べれば資本主義制度も民主主義制度も極めて未熟で前近代的な中国であるから、当然、グローバリゼーションの潮流の中では、文化文明が急速に世界水準に平準化せざるを得ないので、その過程で目まぐるしい勢いで、政治経済社会制度や法制度などが、変化、改革革新されて行くので、全く、これまで経験しなかったような企業を取り巻く経営環境が激変するので、それに対処すべき全く新しいカントリー・リスクが発生し、その対応に失敗すると命取りになると言うことである。。
中国が如何に遅れたお粗末な国であるかは、先のナヴァロ教授の説明で十分だと思うが、そうであればある程、他のBRIC'sや新興国の場合も大なり小なり同様だと思うが、海外進出に対して、この全く新しいカントリー・リスクに如何に対応するのかを肝に銘じるべきだと思っている。
ナヴァロ教授は、このチャイナ・プライスの優位性の多くは、国際貿易のほぼすべての信条や規範に違反しながら貿易習慣を続け、労働者を奴隷同然に働かせた結果として獲得されている。と言う。
尤も、中国よりももっと賃金の安い国はあるが、中国労働者の方が教育や訓練のお蔭で生産性が高いので競争にならないことは認めている。
また、急速な経済成長にも拘わらず、賃金が異常に上がらないのは、地方に放置されたままの何億と言う史上最大の「失業予備軍」がいるからで、資本主義には大量の失業が発生すると言うマルクスの主張が、共産中国で証明されていると言う皮肉を交えて、この大量の失業予備軍が、中国人労働者、ひいては世界中の労働者の賃金を押し下げており、内外企業とも、中国では、労働者を劣悪な環境で使い続けられるのであって、中国程、単調かつ過酷で危険を伴い、想像を絶するような劣悪な労働環境を持つ国は、地球上のどこを探してもない。
このディケンズの小説顔負けの過酷な労働条件に更に輪をかけているのが、奴隷労働で、中国では、子供や女性、時には男性さえも定期的に拉致されて、奥地などの搾取工場で働かされていている。
また、宗教上・政治上の反体制派が何百万人も、旧ソ連の強制収容所に似た劣悪な環境で労働を強制されているのだが、更に、毛沢東が創設したラオガイ(労働改造所)には4~6百万の国家反逆に問われた人たちがいて、電気製品や雑貨を生産している、などと信じられないような中国の労働市場の暗部を記している。
他にも、職を求める地方の求職者に労働条件を偽って雇用する契約奴隷の存在をニューヨーク・タイムズの記事を引用して説明しているのだが、このような中国人労働者に対する酷い仕打ちは、中国政府の協力なくしてはあり得ないことで、血も涙もない政府は、株式会社や国営企業に対して社員の健康や安全を守る規則を殆ど義務付けていない。
このような労働者に犠牲を強いて搾取する中国企業や多国籍企業は、労働者の権利を守り福利厚生に意を用いる外国のライバル企業に対してコスト面で優位に立つのは当然であり、中国での競争優位は、不当な手段によって創造されていると言うのである。
中国の人々にとってのみならず、世界中の人々の命運を左右する更に深刻な問題は、環境汚染である。
大気汚染の世界ワースト都市20のうち中国都市は16、水質汚染に至っては、中国の広大な河川体系が深刻な汚染に晒されていて半数の河川の水が飲料に適しないなどと言った極めて深刻な状態で、世界の製造業で覇権を握り世界NO.2の経済力を得た見返りが、国土の疲弊と言う代償であった。
中国企業であろうと多国籍企業であろうと、中国で操業する企業は、どこも費用の掛かる汚染防止技術に投資する必要がないし、どんな有害物質を無差別に河川に投棄しようとも罰せられない。環境に犠牲を強いて、外部経済コストを一切無視したコスト切り捨てであって、不公正な貿易慣習が生んだ優位性である。
もう一つナヴァロ教授が指摘するのが、知財を無視して中国経済を支えている海賊品・偽造品経済である。
この偽装・海賊行為は、膨大な開発投資をしてイノベーションを追及する必要もないし、ソフトウエアを始めとする最先端を行くIT技術などへの関連投資や調達コストも、更に、ブランド名を略奪すれば、膨大なマーケティングコストを削減できるなど、中国企業にとっては、製造や生産領域でコスト削減には大いに貢献している。
ナヴァロ教授は、この中国に蔓延している偽造・海賊行為は、政府の全面的な支持なくしてはあり得ないことで、知財を盗めば、何千万人もの雇用を創出し、国内のインフレ率の上昇を抑えられ、欧米や日本の商品のかなり質の高いまがい物を国内の消費者に低価格で提供できるからであると言う。
ここで興味深いのは、1949年に建国された中華人民共和国は、私有財産の廃止を土台としたので、「世界のいかなる技術も大衆の所有物だ」と本気で信じている幹部が数世代にわたって存在していると言う指摘である。
要するにナヴァロ教授の指摘したいのは、露骨な通貨操作、違法な輸出補助金、知財保護の無視、環境や健康、安全に対するゆるやかな基準、奴隷同然の労働環境、巨大な保護障壁等々と言った、国際法規や貿易協定などの精神に違反して行われている中国の不公正な重商主義的な貿易慣習が、チャイナ・プライスを生み出し、グローバル経済を大きくスキューしていると言うことであろうか。
しかし、ナヴァロ教授は、多国籍企業による海外直接投資が、最先端の経営手法や技術を持ち込み、低賃金で働く労働者が底辺を支え、人コネを活用して事業を円滑化する地方の「仲介者」が居て、海外で学んだテクノクラート経営者が束ねると言った成長路線については疑問だとして、
汚染物資を持ち込んでいるのは大半外国企業であって、健康、安全、環境等の極端に緩い基準を良いことにして、環境を汚染したり労働者の安全を危険に晒して、中国を「汚染の温床」に加担しているのは、海外投資家だと指摘している。
このナヴァロ教授の強烈な中国批判だが、確かに額面通りに受け取れば酷い。しかし、昔の日本とかなり似通った道程でもあり、ある意味では、先進国アメリカの一方的な見解だと言うニュアンスが強い。
人権を無視しした経済社会環境で生み出された中国の工業製品が高射砲のようにアメリカに降り注ぎ、国内産業が壊滅状態に陥って失業が増大しているのを許せないのであろうが、12億の最貧困層の未開中国を半世紀も要さずに、ある程度の生活水準に引き上げて、曲がりなりにも、近代的な文化文明の世界を現出して、経済大国にのし上げたのであるから、その成長を多とすべきであって、長い市民社会の歴史を経て民主主義の成熟したアメリカ基準で、中国を推し量るべきではないであろう。
中国を、経済的植民地にして安価な工業製品を生産させたのは、中国業者を搾取に搾取を重ねて値切り倒して、毎年数兆円もの格安な商品を、人工衛星を二基も打ち上げてIT調達管理をして米国市場に放出しているウォルマートを筆頭に、中国の経済成長を最も歪めて来たのはアメリカ企業であり、その中国人が爪に火を灯して蓄積してきた外貨を借りまくって、どうにか自国経済の辻褄を合わせて維持しているアメリカ経済の体たらくを、どう見るのか。
この現象は、ベルリンの壁の崩壊と同時に共産圏諸国や新興国が一挙に資本主義市場に雪崩れ込み成立したグローバリゼーションの必然の結果であり、新興国が歴史を短縮して先進国にキャッチアップしようとする厳粛なる道程なのである。
長くなったので、最後に一言だけ付言しておきたいのは、経済原則と生き抜くための戦略として中国に進出する日本企業に対してだが、
経済の発展段階では発展途上国であり、政治的にも一党独裁であり、経済社会が非民主的で、先進国と比べれば資本主義制度も民主主義制度も極めて未熟で前近代的な中国であるから、当然、グローバリゼーションの潮流の中では、文化文明が急速に世界水準に平準化せざるを得ないので、その過程で目まぐるしい勢いで、政治経済社会制度や法制度などが、変化、改革革新されて行くので、全く、これまで経験しなかったような企業を取り巻く経営環境が激変するので、それに対処すべき全く新しいカントリー・リスクが発生し、その対応に失敗すると命取りになると言うことである。。
中国が如何に遅れたお粗末な国であるかは、先のナヴァロ教授の説明で十分だと思うが、そうであればある程、他のBRIC'sや新興国の場合も大なり小なり同様だと思うが、海外進出に対して、この全く新しいカントリー・リスクに如何に対応するのかを肝に銘じるべきだと思っている。