熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

日本人は何故現実を直視しないのであろうか

2011年02月25日 | 生活随想・趣味
   10日ほど前に、東大法学部のCOEの「ビジネス法制化企画に何が足りないか」と言うシンポジウムを聴講した。
   各分野の専門家が、現在日本のビジネス法制について、いろいろな角度から分析を加えていて非常に興味深く勉強させて貰った。

   パネルの終了間際に、法制の不備などの問題を前提に、これらを修復しなければならないのだが、真剣に対応するためには、どこか大企業が本拠を海外に移転しないであろうかと、野村の高田明氏が呟いた。
   それは、有り得ると東大の柳川範之准教授が同調した。
   要するに、日本のビジネス法制が如何に国際的に不利であり不備であるかと言うことは、有名な大会社が日本の国籍を放棄するような事態になれば、初めて思い知るであろうと言うことであろうか。
   私などは、ある臨界点に達すれば、愛国心を凌駕して、雪崩を打って日本企業が海外逃亡を図るであろうと思っている。そうしなければ、これほど、市場が閉塞状態に陥って成長が止まり、経営環境が悪いところに居残ることは、資本主義の原理にも、市場の法則にも反するからである。

   私が、ここで問題にしたいのは、日本の社会も経済も政治も、非常に深刻な問題を抱えていて、先行き大変な状態に直面しているにも拘わらず、危機意識が希薄で、本当に、大パニックに遭遇しなければ、そんなことは起こらない先の話だとして、全く意に介さないことである。

   まず、この日本企業が本社なり本部を海外に移すと言うことだが、私自身、このブログで、既に、会社の経営者が、株主の利益を高めるためには、税金が安くて経営上優遇措置のある国なり地域に本社を移さないとするなら、それは、忠実義務なり善管注意義務なりの違反ではないのかと、極論を提起したことがある。
   デイヴィッド・クレイグが、著書「コンサルタントの危ない流儀」で、アクセンチュアについて、辛口の批判を展開しており、世界最大級で最も儲けているコンサルタントでありながら、米国企業の平均が収益の36.9%なのに7%しか税金を払っておらず、また、パートナーが2500人以上、従業員が10万人以上もいるのに、本部は従業員がたった3人のバーミュダにあると言う。
   正に、コンサルタントの鑑の様な「良い仕事」振りなのだが、これで、本拠を海外に移すと言うことの意味の説明は十分であろう。

   日本にも、既に、株主の過半数が、外国人株主に所有されている大企業が存在しており、その会社が、日本の会社かどうかも分からないのが現実なのだが、日本の超有名な製造業の多くは、既に、外国人株主の所有株が50%に近づいており、TOBやM&Aをしなくても、過半数を突破して、外資企業となるのは時間の問題かも知れないのである。
   グローバル時代であるから、その会社が、日本の会社かどうかはどうでも良いのかも知れなしが、それにしても、メディアも日本国民も、相も変わらず、日本の会社と言うことに拘り過ぎるのが不思議である。

   さて、もう一つ、何度もこのブログで展開している日本の深刻な債務問題である。
   いつか破裂して大変ことになるとブログに書いていると言ったら、元政府高官の友人が、そんなことを言うなと怒ったのだが、要するに、異常な国家債務の問題も年金の破綻も周知の事実であって、騒ぎ立てるなと言うことであろう。
   時期は分からないが、国債の暴落については、伊藤元重東大教授も講演でその可能性に言及していたし、新聞にも書いていたので、私如きが言う言わないの問題ではない。
 
   ジャック・アタリの見解については、先の「国家債務危機」のブックレビューで触れたが、「東洋経済」のインタビューで、
   ”日本は無策のままならば、5年以内に財政破たんする。”と言っている。
   ”破綻に陥るまでに期間は向こう5年以内。だが、5年以内に起きるのが不可避の事象であると予測できた場合、実際には2年以内に起きる。それが歴史の教えるところです。”とも言う。
   
   先日、ドイツのTVだったと思うが、ギリシャでは、地下鉄の値上げに反対して、料金不払い運動が蔓延しており、高速道路も、殆どの車がバーを押し上げて料金を踏み倒して通過して行くと言うバンダリズム、無政府状態を放映していた。
   政府の政策が悪くて国民生活を犠牲にしているのではなく、そうしなければ、ギリシャと言う国家が崩壊するのだと言う瀬戸際政策であり、こんなことをして抵抗しても自縄自縛で事態を悪化させるだけであり、要は、自分たちがバブルに踊って食いつぶした分を、一挙に切り詰めて、生活水準を大幅に切り下げる以外に、ギリシャが生きて行く道がないのだと言うことが分からないと言う悲しさであろうか。
  ソクラテスもプラトンもアリストテレスも、泣いていると思うのだが、これも悲しい現実である。

   先のビジネス法制の問題だが、西村あさひの武井一宏氏が、日本でクラスアクションの導入を検討されているようだが、企業の命運が一挙に吹き飛ぶ心配があると警告していた。
   コトバンクによると、クラスアクションとは、”アメリカでの民事訴訟の一種で集団訴訟に関する手続き。日本にはない訴訟形態。個々の利益帰属主体が個々に訴訟手続きをしなくても、その代表者による訴訟を提起し、消費者の権利を一括して行使する権限が認められている。”
   一人の代表者の訴訟が勝てば、他の権利者も一斉に救済されると言うことで、西部劇と保安官の世界のアメリカには馴染むかも知れないが、日本では、訴訟に負ければ、企業は立ち行かなくなる筈である。

   ところで、焼け石に水程度の効果しかない5%の法人所得税減税案が袋叩きにあっているのだが、グローバル経済の潮流が分かっていない日本人の悲しさ。
   GDPが、需要サイドで表示されているので無視されているのだが、三面等価の原則の他のサイド、生産及び分配サイドから見れば、明らかに、GDPを支えているのは、民間企業だと言うことが分かる筈で、その唯一(?)の富の源泉である民間企業の活力と競争力を削ぐような経済政策やビジネス法制の存在が如何に危険か分からなければ、討ち死にする以外に道はない。
   左派系政党が主張する分配の平等化政策も、間違ってはいないが、成長が止まったギリシャのようになれば、国民等しく平等にどんどん貧しくなる縮小均衡に向かうだけであって、少しでも国民生活を良くしようと思えば、経済成長しかない。
   悲しいかな、ただでさえ、少子高齢化など足枷手枷を嵌められた課題先進国の日本の生きる道は、国民挙って、経済社会環境を整備して、少しでも経済成長を図ることだと言うことである。

   アタリが、「無策のままならば」と言っているのが、せめてもの救いである。道がないこともないと言うことであろう。
   しかし、任期1年も持たない総理大臣を4代にも亘って維持し続けて貴重な時間を無駄にして、今また、政治は混乱と迷走の極に達しており、政治家たちは、予算など重要案件はそっちのけで、政局・政争ばかりに明け暮れて、お先真っ暗である。
   日本のために、日本国民のためにと、必死になって、この難局を乗り切って行こうと使命感に燃えて頑張っている政治家が、誰一人としていないような気がして寂しい限りである。
   結局、平和ボケで、太平天国を決め込んでおり発憤さえできない、パニックが襲って来て1億玉砕しなければ、難局と真剣に対峙できない日本国民自身のメンタリティに問題があるのであろうか。
   
コメント
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