熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

映画:「ウォール・ストリート」~ゲッコー蘇る

2011年02月19日 | 映画
   2008年の金融危機に合わせたような形で、お馴染みのマイケル・ダグラス演じるゴードン・ゲッコーを23年ぶりに蘇らせて、ウォール・ストリートを舞台にした興味深い金融経済モノの映画「ウォール・ストリート」が上映されたので、マイカル・シネマに出かけた。
   確かに、先の金融危機のトピックスなどを随所に取り入れながら、かっての天才的金融マンであったゲッコーなら、どのような形でウォール・ストリートに返り咲くのかと言う興味津々の、面白い映画になっている。
   物語は、若き金融マン・ジェイコブ・ムーア(シャイア・ラブーフ)が、恋人のウィニー(キャリー・マリガン)の実父である刑期を終えて出所して来たゴードン・ゲッコーと組んで、不況による経営悪化と同業投資会社の社長ブレトン・ジェームズ(ジョシュ・ブローリン)の陰謀によって、師と仰ぐ親のような存在の社長が自殺に追い込まれたので、スカウトされたのを幸いに敵の懐に潜り込んで復讐を遂げようと言うメイン・テーマに、血も涙も情け容赦のないゲッコーと、家庭と自分の人生を窮地に追い込んだ父を徹頭徹尾憎みぬく娘ウィニーとの心の葛藤や、仲が破局に追い込まれそうになる若い二人の愛情物語を通して家族の絆とは何なのかをサブテーマにしたシリアスな映画である。

   アカデミー賞を2回もとったと言うオリバー・ストーン監督が、今や、老練の域に達していぶし銀のように渋く重厚なマイケル・ダグラスと若くて有能な二人の俳優を主人公にして描きあげた作品で、今回の撮影には、ウォール・ストリートの会社や人々も随分積極的に協力してくれたと言う。
   私など、昔、ニューヨーク証券取引所の舞台を観光客用のブースから覗き込んで感激したくらいだし、ロンドンのシティで、銀行の巨大なディーリング・フロワー付きの金融センターの開発に携わったので、多少、金融の舞台を垣間見ているのだが、今回の映画で展開されているウォール街での実際の金融取引の舞台や、米国政府などの生々しい金融政策討議の様子などを見て、映画ながらも、臨場感たっぷりで、非常に興味深かった。

   今回の映画には、投資会社の崩壊に、ベア・スターンズやリーマン・ブラザーズの破局、そして、財務長官ポールソンと古巣のゴールドマン・ザックスとの関係などを匂わせるようなトピックスを暗示したシーンがあって興味深かったが、ゲッコーが、逮捕前にスイスに隠し預金をしてウィニー名義で預託していた1億ドルを、若い二人に引き出させて持ち逃げして、ロンドンで新しく投資会社を立ち上げて成功すると言う終幕のどんでん返しが、非常に面白かった。
   この映画でのゲッコーは、娘ウィニーとの父娘関係修復の仲立ちを条件に、復讐劇を目論むジェイコブズに有効で役に立つ情報と知恵を授けると言う役柄なのだが、カリスマ天才金融マンのゲッコーが、そんな半端な役割で返り咲くなどと観客の誰も期待していないので、この最後の辣腕ぶりで、やっと、溜飲を下げたと言うことであろう。

   ゲッコーとの最後の取引にロンドンに乗り込んだジェイコブズが、強欲は善だとするゲッコーに悲しい奴だと言って、ウィニーの母体に芽生えた鼓動を打つ胎児のDVDを置いて去るシーンなど実に感動的である。
   今や、巨富を築いてカリスマ投資家として返り咲き初老に達したゲッコーにとっては、何よりも、大切なのは親子、そして生まれ来る孫との絆。心のすれ違いで、お互いに I MISS YOUと言いながらも、ウィニーのアパート玄関前で悲しく別れようとしているところに、ゲッコーが現れて「二人は似合いのカップルだ。」と言いながら、最後に言った言葉が「父親にしてくれ」。慈善団体に1億ドルを振り込んだと言う。

   さて、23年前の「ウォール街」は、確か、ジャンクボンドの帝王マイケル・ミルケンがモデルであったような気がするのだが、あの映画は、インサイダー取引がテーマだった。
   今回のアメリカの資本主義の根幹を揺るがせた金融危機は、正に強欲がリバイヤサンとして本性を現して暴走に暴走を重ねた悲劇だったのであろうが、一寸、ウォール・ストリートをタイトルとするのには、スケールが小さすぎたのではないかと言う気がしている。

   シャイア・ラブーフとキャリー・マリガンの若い二人が、実に上手い。
   上手く表現できないが、涙が零れるほど感動的である。

   この口絵写真(映画情報から借用)の金融界が集まった豪華な慈善パーティが開かれている場所は、たしか、メトロポリタン美術館の大広間であるような気がする。
   ロンドンで、民間会社の大規模なレセプションやパーティが、大英博物館やナショナル・フォート美術館で行われたのに出席したことがあるのだが、あのパルテノンのエルギン・マーブルの前で、シャンパンを頂くのも中々オツナものなのである。
   
コメント
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