熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

六月大歌舞伎・・・「昼の部」「夜の部」非常に意欲的な舞台

2014年06月03日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   初期に集中して、歌舞伎座の歌舞伎を昼夜鑑賞した。
   非常に意欲的な舞台展開で楽しませて貰ったのだが、私としては、好き嫌いがはっきりした公演であった。

   もう、歌舞伎を観続けて20数年になるのだが、どうしても、歌舞伎の舞台を劇として見る傾向が抜けきれなくて、物語性、ストーリーとしての舞台展開の面白さがなければ楽しめないところがある。
   これは、私自身のパーフォーマンス・アーツと言うか、音楽鑑賞や観劇のスタートが、クラシック音楽やオペラから始まって、30年ほど前にロンドンでシェイクスピア劇鑑賞に入れ込み始めて、その後から、歌舞伎・文楽鑑賞に入ったと言うことが原因しているのかも知れないと思っている。

   したがって、歌舞伎でも、近松門左衛門の世界が好きなので、和事の方に興味があり、どちらかと言えば、荒唐無稽で物語性の希薄な見せて魅せる荒事の方には、あまり興味がないし、型を重視する古典歌舞伎の方にも、少しずつ違和感を感じ始めている。
   
   そんなところから、今回の歌舞伎では、ストーリー性の豊かな現代歌舞伎と言うべき真山青果の「大石最後の一日」と「名月八幡祭」は、面白く鑑賞させて貰った。
   「大石・・・」は、真山の「元禄忠臣蔵」の一部なので、以前に、国立劇場で、ほぼ、完全に近い通し狂言として3か月に亘って上演されており、非常に密度の高い劇的な舞台に感動したのを覚えている。
   この舞台と「御浜御殿綱豊卿」とは、比較的良く舞台にかかり、歌舞伎座でも見る機会がある。
   これは、浪士お預け先の若殿細川内記(隼人)と浪士たちとの面会、磯貝十郎左衛門(錦之助)とおみの(孝太郎)の純愛を絡ませた大石最後の一日で、非常に、密度の高い感動的な舞台である。
   大石の幸四郎は、決定版とも言うべき素晴らしい内蔵助で、また、磯貝の金之助は3回目であり、二人ともはまり役と言うところであろう。
   孝太郎は、実に上手く、感動的なおみのを演じていて涙を誘う。

   「名月八幡祭」は、越後の実直な商人縮屋新助(吉右衛門 )が、深川きっての芸者美代吉(芝雀 )に恋をして、深川大祭に必要な衣装代に苦しむ美代吉の甘言にのって、故郷の田地田畑を捨て値で売って工面したのだが、旦那の旗本藤岡慶十郎(又五郎)からの手切れ金100両が入ったのでお払い箱。
   狂った新助が、お祭りの日に、通り合わせた美代吉を殺害する。
   この話は、黙阿弥の「八幡祭小望月賑」をもとにして池田大伍が書き換えたと言うことだが、「籠釣瓶花街酔醒」の別バージョンと言った感じで、吉右衛門の新助は、佐野次郎左衛門を観ている思いであった。
   籠釣瓶は、吉原の花魁八ッ橋を相手に下野の豪商次郎左衛門との対決であるから、言うならば、ワンランク上のクラスの舞台展開なので、この舞台は、一寸、庶民性を帯びた感じである。
   世間を知らずに一途に思いつめる田舎者の新助を、吉右衛門は実に感動的に演じており、今回は、威勢の良い芸者を演じるテンポとテンションが高じた芝雀との掛け合いが、中々、興味深く楽しませてくれる。
   この舞台で、どうしようもないヤクザなひもを演じる船頭三次の錦之助が良い味を出していて、先の忠臣蔵の磯貝との芸の落差と、その面白さが秀逸である。

   新歌舞伎十八番の内 「素襖落」だが、狂言の「素襖落」を脚色した舞踊劇だが、内容も印象も、大分違っていて、前回の「靭猿」と同様に、見せる舞台になっていて、狂言の持つピリッとした緊張感とエスプリの利いた切れの良さがなくなってしまっている。
   勿論、幸四郎の太郎冠者も、歌舞伎役者の太郎冠者と言うか、役者になり切ってしまって、狂言の鋭角的な面白さ滑稽さとは異質な世界を演じていた。
   印象記は、後日に譲りたい。

   お国山三 「春霞歌舞伎草紙」は、時蔵のお国と菊之助の山三が、非常にムードのある夢幻舞踊を演じており、バックで踊る今を時めく若手の役者の若衆と女歌舞伎が華麗で美しい。
   「お祭り」は、鳶頭松吉の仁左衛門と若い者の孫・千之助 の素晴らしい清元の舞踊劇。
    いなせで粋な仁左衛門が帰って来た舞台で、客席は大喜び。

   さて、「蘭平物狂」は、松緑の独壇場の舞台で、子息が尾上左近としてお目見えする襲名披露初舞台。
   松緑の豪快華麗な立ち回りと、若年ながら、実に堂に入った格好良い左近の芸にやんやの喝采。
   「実盛物語」は、斎藤実盛の菊五郎と、瀬尾十郎の左團次の舞台。
   
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