日経の「私の履歴書」で、ラタン・タタが、今日の朝刊で、”ナノ 「庶民に車を」世界最安 業界から「安全軽視」の批判”と言うタイトルで、革新的な小型乗用車「タタ・ナノ」の開発について語っている。
この話は、色々な形で語られていて、経営学上でも、非常に突出したエポックメイキングな出来事で、イノベーションの一つの重要なマイルストーンをも形成している。
ポイントは、このタタ・ナノは、これまでの乗用車の延長線上の持続的イノベーションではなく、破壊的イノベーション、言うならば、トヨタがかって米国で仕掛けて浮上したようなローエンド・イノベーションであると言うことである。
ラタンも書いているように、想定価格10万ルピー(17万円)の世界最安値の車を発表した時に、業界関係の多くも安全性などに懐疑的で、インドでトップシェアを握るスズキの鈴木修会長からも厳しく指摘されたと言う。
鈴木会長がどのような発言をしたのか知らないが、「10万ルピーの車は非現実的」だと言われたとして、ラタンは、立腹したようだが、私には、この両者の頭のギャップが非常に興味深い。
鈴木会長の頭には、恐らく、現状の自動車と言う概念しかなくて、あらゆる意味から、小型車については、最新の科学技術を総動員してコストカットに邁進して来ているので、それ以上の合理化や生産性のアップなどは容易には有り得ないと言う、持続的イノベーションの考え方しかなかったのではないかと思う。
しかし、ラタンの頭には、ジュガードなどのインド人独特の精神が脈打っていて、全く新しい革新的な自動車である破壊的イノベーションの発想が渦巻いていたのである。
これからは、新興国市場でのイノベーションの特異性、特に、リバースイノベーションなどを含めて、最近、遅れている筈の新興国などBOPマーケットにおけるイノベーションの新しい胎動を展望しながら、議論を進めていく。
このタタ・ナノの誕生には、ウォートンのジテンドラ・シン教授などの著作「インド・ウェイ 飛躍の経営」で説かれているインド経営の四つの原則の内の「ジュガードの精神 即興力と適応力」に秘密がある。
与えられた極めて限られた劣悪な環境下であっても、「普通」から「最高」のレベルまで、試行錯誤を繰り返して、柔軟性と復元力をフルに活用して、顧客満足を第一に、最も望ましい結果を追求して適応しようとするインド気質である。
とにかく、ナイナイづくしの貧しいインドで、価値あるものを生み出すブルーオーシャン市場を開拓する以外に生きて行く方法がないのであるから、その環境なり条件下で、考えに考え抜き工夫に工夫を重ねて、顧客の求める財やサービスを生み出そうとする。
インド人特有の適応力、柔軟性、復元力が、インド人の創造性を喚起して、イノベーションを生み出す原動力になっているのである。
一例だが、ジャイプル・フットと言う義足は、インド人であるから、地面に直接座って仕事をし、泥道を走り回ったり木登りも出来る義足で、それも、アメリカの合金製の8000ドルに対してプラスチック製の30ドルの義足で、貧しい人には無償で支給しても商売になっている。
もっと驚くべきは、アラビンド・アイ・ホスピタルの白内障手術で、アメリカでは、75,000から150,000ドルかかる手術を、この病院では、3,000ドルで実施しており、かつ、貧しい3分の1の患者は無料で手術をしても病院は十分に利益を上げている。同じ最高峰の機器や資財を使って手術するのに、何故、これ程安く手術が出来るのか、フォードが1世紀前に実施した大量生産方式とトヨタのリーン生産方式を活用した結果だが、世界最高峰の眼科病院で、ハーバード大学の医学生が押しかけていると言うのだから驚く。
従って、たった2,000ドルの自動車タタ・ナノを生み出すためには、マインドをリセットして、ゼロから発想しないと生み出せないイノベーションであって、不可能を可能にする挑戦ではあったが、成功しない訳がなく、このようなブレイクスルーを実現しながら新興国発のMNCが、成長を遂げつつあり、タタ・グループは、正に、その雄である。
インド・ウェイの一つの特質である、誰も注目しないところに創造的な優位性を見つけ出す国家的なビジネスリーダーとしての能力を具えたラタン・タタあればこそ、タタ・ナノが生まれたのであって、
アメリカの自動車メーカーと反対の方向に動いて、不可能と思われるような低価格帯でナノを速やかに売り出すために、自動車の概念を根本的に見直して、徹底的にデザインを創意工夫した。
ガンジー的工学原則と言う「徹底した倹約と既存の知恵に挑戦する意欲」に基づく全く新しいデザインを工夫するとともに、組み立てと流通用のコンポーネントキットが地場産業に一緒に販売されて、地元の修理工場などの技師が車を組み立てる際のツールを提供するオープン・ディストリビューション・システムを採用して最廉価の車を生み出したのである。
正に、エジソンが電球を発明して、発電所から送電体制等一切のシステムを構築してガス灯を駆逐した時のように、キット組立式の新しい自動車を生み出して、生産から流通、修理やメインテナンスシステムまで、インド流に構築してしまったのである。
これこそが、新興市場のロー・エンドが持つ巨大な潜在力を活性化して革新的ビジネス・モデルを開発することが、如何に重要かを説いたBOPのプラハラード説に対する恰好の応えであろうと思う。
プラハラード亡き後、リバース・イノベーション論のゴヴィンダラジャンが新興国など途上国で胎動しているイノベーションの重要性を説き続けている。
先に述べたように、鈴木会長の対応のように、インド発のリバース・イノベーションは、日本の製造業の経営者や技術者の発想や思想の埒外にあり、到底、現在の日本企業の新興国をターゲットにした経営戦略では、頭を根本から切り替えない限り、対抗不可能と言うことである。
この話は、色々な形で語られていて、経営学上でも、非常に突出したエポックメイキングな出来事で、イノベーションの一つの重要なマイルストーンをも形成している。
ポイントは、このタタ・ナノは、これまでの乗用車の延長線上の持続的イノベーションではなく、破壊的イノベーション、言うならば、トヨタがかって米国で仕掛けて浮上したようなローエンド・イノベーションであると言うことである。
ラタンも書いているように、想定価格10万ルピー(17万円)の世界最安値の車を発表した時に、業界関係の多くも安全性などに懐疑的で、インドでトップシェアを握るスズキの鈴木修会長からも厳しく指摘されたと言う。
鈴木会長がどのような発言をしたのか知らないが、「10万ルピーの車は非現実的」だと言われたとして、ラタンは、立腹したようだが、私には、この両者の頭のギャップが非常に興味深い。
鈴木会長の頭には、恐らく、現状の自動車と言う概念しかなくて、あらゆる意味から、小型車については、最新の科学技術を総動員してコストカットに邁進して来ているので、それ以上の合理化や生産性のアップなどは容易には有り得ないと言う、持続的イノベーションの考え方しかなかったのではないかと思う。
しかし、ラタンの頭には、ジュガードなどのインド人独特の精神が脈打っていて、全く新しい革新的な自動車である破壊的イノベーションの発想が渦巻いていたのである。
これからは、新興国市場でのイノベーションの特異性、特に、リバースイノベーションなどを含めて、最近、遅れている筈の新興国などBOPマーケットにおけるイノベーションの新しい胎動を展望しながら、議論を進めていく。
このタタ・ナノの誕生には、ウォートンのジテンドラ・シン教授などの著作「インド・ウェイ 飛躍の経営」で説かれているインド経営の四つの原則の内の「ジュガードの精神 即興力と適応力」に秘密がある。
与えられた極めて限られた劣悪な環境下であっても、「普通」から「最高」のレベルまで、試行錯誤を繰り返して、柔軟性と復元力をフルに活用して、顧客満足を第一に、最も望ましい結果を追求して適応しようとするインド気質である。
とにかく、ナイナイづくしの貧しいインドで、価値あるものを生み出すブルーオーシャン市場を開拓する以外に生きて行く方法がないのであるから、その環境なり条件下で、考えに考え抜き工夫に工夫を重ねて、顧客の求める財やサービスを生み出そうとする。
インド人特有の適応力、柔軟性、復元力が、インド人の創造性を喚起して、イノベーションを生み出す原動力になっているのである。
一例だが、ジャイプル・フットと言う義足は、インド人であるから、地面に直接座って仕事をし、泥道を走り回ったり木登りも出来る義足で、それも、アメリカの合金製の8000ドルに対してプラスチック製の30ドルの義足で、貧しい人には無償で支給しても商売になっている。
もっと驚くべきは、アラビンド・アイ・ホスピタルの白内障手術で、アメリカでは、75,000から150,000ドルかかる手術を、この病院では、3,000ドルで実施しており、かつ、貧しい3分の1の患者は無料で手術をしても病院は十分に利益を上げている。同じ最高峰の機器や資財を使って手術するのに、何故、これ程安く手術が出来るのか、フォードが1世紀前に実施した大量生産方式とトヨタのリーン生産方式を活用した結果だが、世界最高峰の眼科病院で、ハーバード大学の医学生が押しかけていると言うのだから驚く。
従って、たった2,000ドルの自動車タタ・ナノを生み出すためには、マインドをリセットして、ゼロから発想しないと生み出せないイノベーションであって、不可能を可能にする挑戦ではあったが、成功しない訳がなく、このようなブレイクスルーを実現しながら新興国発のMNCが、成長を遂げつつあり、タタ・グループは、正に、その雄である。
インド・ウェイの一つの特質である、誰も注目しないところに創造的な優位性を見つけ出す国家的なビジネスリーダーとしての能力を具えたラタン・タタあればこそ、タタ・ナノが生まれたのであって、
アメリカの自動車メーカーと反対の方向に動いて、不可能と思われるような低価格帯でナノを速やかに売り出すために、自動車の概念を根本的に見直して、徹底的にデザインを創意工夫した。
ガンジー的工学原則と言う「徹底した倹約と既存の知恵に挑戦する意欲」に基づく全く新しいデザインを工夫するとともに、組み立てと流通用のコンポーネントキットが地場産業に一緒に販売されて、地元の修理工場などの技師が車を組み立てる際のツールを提供するオープン・ディストリビューション・システムを採用して最廉価の車を生み出したのである。
正に、エジソンが電球を発明して、発電所から送電体制等一切のシステムを構築してガス灯を駆逐した時のように、キット組立式の新しい自動車を生み出して、生産から流通、修理やメインテナンスシステムまで、インド流に構築してしまったのである。
これこそが、新興市場のロー・エンドが持つ巨大な潜在力を活性化して革新的ビジネス・モデルを開発することが、如何に重要かを説いたBOPのプラハラード説に対する恰好の応えであろうと思う。
プラハラード亡き後、リバース・イノベーション論のゴヴィンダラジャンが新興国など途上国で胎動しているイノベーションの重要性を説き続けている。
先に述べたように、鈴木会長の対応のように、インド発のリバース・イノベーションは、日本の製造業の経営者や技術者の発想や思想の埒外にあり、到底、現在の日本企業の新興国をターゲットにした経営戦略では、頭を根本から切り替えない限り、対抗不可能と言うことである。
