熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

何故日本ではイノベーターが生まれ難いのか

2014年07月27日 | イノベーションと経営
   クレイトン・クリステンセンの「イノベーターのDNA★]を読んでいて、日本のような社会では、イノベーターが、中々生まれないと指摘している個所があり、なるほど、と興味を感じた。
   ここでの論点は、イノベーションを生みだす創造的能力は、遺伝的なものか、後天的なものかと言うことで、創造的能力が生まれながらに授かった遺伝的素質であるだけではなく、伸ばす能力でもあるとする先行研究は多く存在するのだが、果たして、どちらがより重要かと言うことである。
   
   結論は、イノベーションに必要な能力のほぼ三分の二が、学習を通じて習得できる。まず、能力について理解し、練習を積めば、やがて、自分の想像力に自信を持てるようになる。
   卓越したイノベーターを調査したところ、自分がその能力を身に付けられたのは、手本となる人たちが、安心して、また、楽しみながら新しいやり方を発見できる環境を整えてくれたおかげだと、口を揃えて言っている。と言うことである。

   このことは、日本や中国、韓国、多くのアラブ諸国など、個人より社会を、実力より年功を重視する国で育った人が、柔軟な発想で現状を打破してイノベーションを生み出す(又ノーベル賞を受賞する)ことが少ない理由を部分的に説明する。と結論付けるのである。

   政治経済社会体制が、全体主義的社会主義的である国家よりも、自由主義的な国家の方が、創造性豊かな発想が出来そうだと言うことは良く分かる。
   そして、日本は、かなり、自由な民主主義国家であり、経済制度そのものも、自由市場経済であるので、自由な国家だと思えるのだが、昔から言われているように、欧米の先進国と比べてみれば、かなり、管理社会と言うか社会主義に近い体制を具えた国家であることは、明らかであろうし、「個人より社会を、実力より年功を重視する国」であることには間違いない。

   この本で、クリステンセンが強調するのは、
   イノベーターは、「関連付けの思考」と呼ぶ認知的スキルをふんだんに駆使する、すなわち、斬新な発想でものを考え、一見無関係に見える疑問や問題、アイデアを結びつけて、脳が新しいインプットを様々なカタチで組み合わせて、新しい方向性を見出してイノベーションを生み出す。
   画期的な飛躍的前進は、多様な領域や分野が交わるところで見られることが多く、フランス・ヨハンソンの説く「メディチ現象」の出現が必須である。
   ルネサンス期のメディチ家が、彫刻家から科学者、詩人、哲学者、画家、建築家まで、幅広い分野の人材をフィレンツェに呼び集めて文化文明の十字路を形成し、創造的な爆発を現出した。多方面の専門分野が交わるところで新しいアイデアを生み出し、世界史上最も革新的な時代、ルネサンスを生み出した。あの「関連付けの思考」こそが、イノベーションを生む最も重要な要因だと言うことである。
   この本で、革新的なビジネス・アイデアを生み出すためには、革新的なインプットを組み合わせる認知的スキルを育むことが必須だが、その為に、卓越した行動的スキルを如何に涵養すべきかを、「質問力」「観察力」「ネットワーク力」「実験力」の4項目に亘って克明に説明しているのだが、日本の教育なり実際のビジネスの世界から如何に遠い世界かを実感させられる。

   さて、このブログでも、日本の教育制度が、如何に、子供たちの創造性を育む教育から程遠いかを、何度も論じて来ているので、蛇足は避けるが、まず、有能な子供の成長を阻害する最たるものは飛び級制度がないことで、その上に、秀でた特別な才能を圧殺するような、互換性の利くオールラウンドなスペアパーツばかりを造ろうとしていることであろう。
   例えば、英数国の教科で、英語が悪ければ英語の家庭教師をつけて英語の成績を数国並みに上げると言った手法を取り、この英数国の成績を均等に上げようとする考え方の中には、数学の天才は育ち得ない。
   リベラル・アーツ軽視教育にも問題があろう。

   イノベーションが、日本にとっても、日本企業にとっても、必要なことだとするならば、根本的に日本人の思考なり、政治経済社会制度の在り方を考えなければならないのではないかと思っている。

★この本は、「The Innovator's DNA」。しかし、翻訳本は、「イノベーションのDNA」。
 また、「The Innovator's Dilemma」も、翻訳本は、「イノベーションのジレンマ」。
 両方とも、著者の意に反して、イノベーターをよりポピュラーなイノベーションと言う言葉 に変えたばかりに、大きな誤謬を生じている。
    例えば、イノベーターのソニーのジレンマであり、ソニーのDNAであって、ソニーのウォークマン(イノベーション)のジレンマでも、DNAでも全くない。
    ソニーと言うイノベーターが、どのようなDNAを持っており、イノベーターであるが故に、ソニーはどのようなジレンマに遭遇しているのかと言う認識がなければ、クリステンセンは読めない。
    もっとひどいのは、Richard S. Tedlow 「 Denial: Why Business Leaders Fail to Look Facts in the Face---and What to Do About It」が、「なぜリーダーは「失敗」を認められないのか―現実に向き合うための8の教訓 」となっていることで、著者の真意は、「なぜビジネス・リーダーは、眼前の事実を見誤るのか」と言うことで、迫り来る眼前の事実・現実・真実を見抜けなかった、見誤ったが故に失敗すると言うことであって、本を読めば分かるが、翻訳本のタイトルとは全くニュアンスが違う。
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