海外への憧れや夢が、我々をワクワクさせるのは、老いも若きも同じこと。
この夏休み休暇を利用して、日本を脱出して海外に旅する人が、日本各地の空港に詰め掛けている。
休暇を利用しての海外旅行は、短期間なので、それ程、問題はないのであろうが、海外移住となると、自分のその後の命運を、移住先に託することになるのであるから、相当慎重を要する。
このブログでも、随分、海外生活や旅の記事を書いてきたが、その間、世の中、と言うよりも、世界的規模での政治経済社会の激変と構造変化には、目を見張るものがあり、何が起こるか、予測さえつかないくらい危機的な状況になっている。
早い話、私が、海外を旅しはじめ海外で生活していたのは、1970年代後半から、ベルリンの壁崩壊後の数年までで、その後、何度か、時には頻繁に、海外旅行をしており、最近の旅行については、欧米、ロシア、中国などについては、このブログで、書いているが、年々、海外環境は様変わりである。
今、最も危険だと言われている中南米でも、1970年代にはサンパウロに住んでいて、殆どの国へ調査など仕事や旅行で出かけたが、自由に移動して問題はなかった。
また、ベルリンの壁崩壊前後でさえ、東西ヨーロッパ各地を歩いても、殆ど、危険を感じたり不安を感じたことはなく、自由に仕事を続け旅をして飛び回っていた。
尤も、住んでいたロンドンでは、何回もIRAなどのテロで爆破されたり、ヨーロッパのあっちこっちでテロ事件があったり、空港で、自動小銃を構えた兵士に出迎えを受けることがあった。
それでも、現在のような危険や危機的な状況に遭遇したこともなかったし、ある程度の予測や準備ができた所為もあろうが、不安を感じずに仕事をし生活を続けていたのである。
しかし、現在は、全く環境は激変してしまって、予測など埒外で、危険覚悟の海外生活であり海外旅行となってしまっている。
激変の最たるものは、ISISの擡頭であろうが、今や、アジアのイスラム圏およびその一部、フィリピン、インドネシア、マレーシア、そして、タイなど、老後の移住先として勧められてきた地域が、不安定となり、更に、南沙・西沙やマラッカ海峡などでの米中の鬩ぎ合いで、平安であった東南アジアさえ、ある意味では、風雲急を告げており、どのように激変するかも分からない。
再度書くのも蛇足なので、一流雑誌でありながらの、海外移住と海外旅行の勧めへの悲しい偏見と助言に対する苦言を、この機会に、私が数年前に書いた記事で、頻繁に引用されている次の記事2稿を、そのまま訂正せずに再録して、私の思いを伝えたい。
安易な老後の海外移住は、絶対に避けるべきこと、そして、正しい知見と誠実な姿勢で世界遺産の旅に臨むべきこと、これである。
”老後の海外移住は幸せなのであろうか” 2014年07月14日 | 生活随想・趣味
”「モン・サン=ミシェル」は「行ってはいけない世界遺産」なのか” 2015年08月09日 | 海外生活と旅
”老後の海外移住は幸せなのであろうか”
2014年07月14日 | 生活随想・趣味

先日、インターネットを叩いていたら、プレジデント誌の「海外経験なし! 老後に日本を脱出しても大丈夫か」と言う記事に目がついた。
”Webサイト「海外移住情報」主宰 安田 修 ”の記事であり、結論としては、
”海外在住経験がなく、移住まで踏み込む勇気のない人も多いだろう。だが、楽しむことに貪欲であれば何ら問題はない。なまじ海外経験があると、すぐに日本や他の国と比較し、それが不満につながることもある。言葉についても覚えることを目標に生活すれば、「退屈だから帰国する」ということにはならないだろう。”と言うことのようである。
私の正直な気持ちだが、異文化異文明の遭遇の中でのカルチュア・ショックが如何に強烈か、その環境での人間の適応力が如何に拙劣かを無視した暴言であるとさえ思える。
以前から、リタイア後の年金生活に入っても、生活費の安い東南アジアの国で、適当なコンドミニアムでも購入して移住すれば、かなり裕福な老後を送ることが出来ると言った誘い文句で、海外移住を薦める旅行社などがあって、確か、オーストラリアで生活している移住者の泣き笑いの生活を視察する団体旅行をテーマにしたテレビ・ドラマが放映されていた。
実際にも、アジアの国では、ある程度の資産を持ち生活能力のある老年の日本人移住者を積極的に歓迎し、そのような施策を国家政策として掲げている国がある。
この記事でも、「居住用の査証取得」については、現在、40を超える国々が、退職者や年金受給者を対象にした「リタイアメント査証制度」を実施。長期滞在に必要な手続きが簡素化され、取得しやすいように配慮されている。と紹介しており、
アジアの申請条件では、タイが預金または年間年金収入の合算で約240万円以上。永住権付きのフィリピンは約162万円の預金をするだけという手軽さが魅力だ。として、
リタイアメント査証を実施していない国では、シニアの技術力を必要とし、就労許可も優遇されている中国に就職する人も多い。日本で培った経験を現地移入することが、彼らの「老後の生きがい」となっている。と言うのである。
私の結論は、前述したように、余程の人でない限り、老後の海外移住、それも、老夫婦なり、単独での移住は、止めておいた方が良いと言うことである。
この記事に、”大震災以降、人気が高まっているのがマレーシア。住環境も比較的よく、政府が外国人の誘致に積極的だ。旧英国領のイスラム国であり、イランやバングラデシュ、近隣の中国の富裕層も集まる。”などと書かれており、私の英国人の友人夫妻など毎夏2週間ほどマレーシアでバカンスを送っているのだが、これは、元英領であったし、また、イランやバングラデシュは同じイスラム圏のより豊かで安全な国であり、中国人は、多くの華僑が住み着く中華文化圏の一部であるから移住するのは当然であろう。
しかし、日本人にとっては殆ど未知のイスラム教国であり、言葉も話せなければ、異文化異文明の遭遇する人種の坩堝のような国で、どうして、生活適応力の劣化した老人が安心して生活が出来ると考えられるのであろうか、大いに疑問である。
更に、”移住先として人気があるのは、タイ、マレーシアといった東南アジアの国々。生活費目安は月10万円ほどで、一般市民は5万円ほどの月収で暮らしている。・・・アジア並みに物価が安いのは中南米諸国、それ以外では北アフリカのモロッコ。欧州や南太平洋の島々は総じて高い。”と書かれている。
中南米と言っても、日系移民が生活しているので多少親近感はあろうが、それなりの生活を送ろうとすれば、今や、ブラジルやアルゼンチン、ペルーなどになると、場合によっては、日本より生活費が高くなる筈であろうし、このブログでも書いているが世界一治安の悪いカントリーリスクの高い地域である。
それに、東南アジアの国だが、物価上昇率の高さと政情不安定やカントリーリスクの高まりをどう考えるのか、今の物価水準が何時まで持つか大いに疑問であり、とにかく、発展途上国では、言葉が分からなくて、土地勘と生活適応力が不十分であれば、まず、安心した生活などは送れない筈である。
まず、真っ先に考えるべきは、病気になったらどうするのか。
日本の国民皆保険制度は、極めて恵まれた世界屈指の幸せなシステムで、欧米の先進国であろうと、新興国や発展途上国であろうと、総て医療サービスは金の世界で、日本並の医療保護を受けようとすれば、遥かに高額の医療費が必要であることは間違いない。
それに、医療の程度の低さとアクセスの困難さは、日本の無医村状態の地方医療の比ではなく、どうひっくり返っても、日本ほど普通の日本人にとって医療制度が整った国はない。
言葉が話せなければ、体の痛みを、例えば、どこがどのように何時から痛いのかなど、医者に正確に説明できるであろうか。
医療は、その最たるケースだが、外国では、何でも、日本並に便益を享受できるなどと、断じて、考えたり期待すべきではないと肝に銘じるべきである。
もっと重要なことは、日本であろうと海外であろうと、老後をどう生きるかと言う自分自身の生き甲斐生き様をどのようにプロジェクトするかと言うことである。
それによって、殆ど生きるべき道は、はっきりと見えて来る筈である。
かって、働いたり生活した経験のある国に移住して老後を全うしたいと言う気持ちがあるのなら、いわば、夢でもあり本懐を遂げるのだから大いに結構。
大切なことは、自分のアイデンティティの問題で、長い人生で培ってきた日本人気質なり日本人としての心からは絶対離れられない筈であり、余程のことがなければ、異文化異文明の海外生活への同化は無理であり、それに、第一に、水も違えば食べ物も違うし、空気も風土も違うところで、並の日本人の老人が幸せに生きて行けるのか、私には、「海外経験なし! 老後に日本を脱出しても大丈夫か」などと言うのは、正気の沙汰とは思えない。
昔、海外移住を決断した夫が妻に相談したら、殆どの妻が、「友人知人や孫たちと離れて生活する気などは全くないので、あなたお一人でどうぞ」と言われたと言うアンケート結果を見たことがあるが、これが常識人の答えであろう。
パリのアパートや、ホノルルのコンドミニアムなどは、暴動や何かの不都合で取り上げられても惜しくない、嫌になったら何時でも帰って来ると言った経済的に恵まれた人には、移住大いに結構だが、年金生活で生活費を浮かして豊かな生活をしたいなどと考えての海外移住なら、断じてやるべきではない。
「年金だけでも優雅に暮らせる老後の海外移住」と言うキャッチフレーズが踊っているが、「海外経験なし! 老後に日本を脱出しても大丈夫か」と言った甘い王道などある筈がない。
まず、経済的や発展上日本より遅れていると思われる国での生活は、安全安心で世界に冠たる日本ほど恵まれた国はなく、遥かに不便で不都合なことが多く、実際に生活して見れば、不満の連続であろうと言うことを認識しておくことである。
それに、日本でもそうだが、頼りにならない外国では、瞬時に目論みが狂ってくると考えて間違いない。
ほんの前の世紀末に、一人あたりの国民所得が日本の20分の1であった中国だが、今や、北京や上海の高級アパートは日本よりはるかに高くなっていて、金持ちの中国人が世界を闊歩している。
グローバリゼーションと言うことは、そう言うことであり、時空の進歩と変化が激烈な現在において、日本でさえ5年先など見通せないし、まして、未知の外国での政治経済社会環境など、推測判断の埒外であろう。
何度も書いているので、蛇足だが、昔のこととは言え、私自身は、アメリカ、ブラジル、オランダ、イギリスに都合14年在住し、1泊以上した国は40か国以上であり、世界中をあっちこっち歩いてきており、異文化異文明にはかなりの洗礼を受けて来たと思っている。
それに、かっては、ブラジルとイギリスの永住権を持っていた。
そして、名うてのグローバル・ビジネス相手に斬った張ったの熾烈な戦場で闘い続けてきた。
アメリカ製MBAであるから、まず、英語には、それ程不自由はないし、かなり、海外生活には慣れているつもりだが、それでも、この記事で紹介されているところは、実際に行って殆ど知ってはいるが、私自身、永住したいとは思わない。
海外で生活している多くの日本人とも接触し、その生活を見て来たが、日本人の大半は、海外で仕事をしたり勉強したりした人でも、帰国して日本で生活しており、母国回帰の比率は、恐らく、何処の国よりも、日本が最高であろうと思う。
ところで、安田さんは、結論として、次の意味深な文章で記事を締め括っているのが興味深い。
”気をつけるべきは、すぐに人を頼ろうとしないこと。「海外で一番信用できないのは日本人」とも言われ、日本人に騙されることは珍しくない。同じ日本人だからといって、警戒を解かぬようにしたいものだ。”
同族の日本人を食い物にしなければ生きて行けないような信頼できない日本人がいる、そんな国に、行って幸せになれるであろうか。
(追記)口絵写真は、フェルメールの「デルフト遠望」である。
美しいオランダの風景画だが、何百年前から、少しも変わっていない風景が、今でも展開されている。世界中には、素晴らしい風物が沢山あって、それはそれで、歩けば、凄い人生や経験に遭遇する。
「モン・サン=ミシェル」は「行ってはいけない世界遺産」なのか
2015年08月09日 | 海外生活と旅

ニューズウィークの電子版を観ていたら、「こんな人は、モン・サン=ミシェルに行ってはいけない Mont Saint-Michel」と言う記事が載っていた。
『行ってはいけない世界遺産』を著した花霞和彦の記事のようである。
読んで見たが、モン・サン=ミシェルでは、プレサレ羊とオムレツが有名で、オムレツを食べたが高くて美味しくなかったとかで、何故、「モン・サン=ミシェルに行ってはいけない」のか、よく分からない。どうも、遠くてぽつんとある世界遺産なので、コストパーフォーマンスが悪いと言うことのようである。
著者の真意を知りたくて、アマゾンで、この本の説明書きを見たら、
”見どころ×コストパフォーマンス 行ってガッカリしないためのリアルガイド
モン・サン=ミシェル、グランドキャニオン、ストーンヘンジ、ガラパゴス諸島、アマルフィ、セーヌ河岸、マチュピチュ、オペラハウス、ナスカの地上絵、アンコール……
高いお金をはたいて、長時間の移動に耐えて、やっとたどり着いたら「え? たったこれだけ!?」とガッカリした経験はないでしょうか?
いまや世界に1000件以上もある世界遺産。限られたお金と時間の中で選ばなくてはいけません。
本当に行く価値があるのか、値段と時間と労力に見合うのか、ガイドブックの美辞麗句に惑わされず、しっかり検討しましょう。
数多くの世界遺産に足を運んだ著者が、コストや体力度などのデータとともに、20の世界遺産を徹底検証。”
と言うことらしい。
このような世界遺産への旅のアプローチは、私には全く論外で、まず第一に、旅行用のガイドブックなどの埒外の旅であり、世界遺産の世界遺産たる所以を全く分かっていないと言う以外に言いようがない。
多少は世界遺産を見て歩いた経験のある私自身の感想だが、人類が営々として築き上げてきた人類の貴重な遺産や自然の造形した神秘に対する一種の冒涜であり、基より、コストパーフォーマンスを考えるのなら、最初から旅をするなと言うことである。
写真家土門拳が、不自由な体を吊り上げられて撮った日本第一の建築と称賛した三佛寺投入堂の写真の凄さが示しているように、崇高な歴史遺産には、人知を超えた価値と魂が凝縮されているのである。
私は、モン・サン=ミシェルには、2度訪れている。
直接日本から行ったのではないので、コストは限られているので偉そうなことは言えないが、一度は、出張先のレンヌからタクシーで、二度目は、ノルマンデー旅行の時に、サンマロからシェルブールへ向かう途中車でアプローチし、夫々、一日過ごしただけだが、アップダウンの激しい島内をあっちこっち歩いて、フランスの中世の宗教都市にタイムスリップした思いで、感動しながら時を過ごした。
さて、花霞氏の記事だが、
”結論としては、モン・サン=ミシェルは、対岸のバス乗り場から眺めるシルエットがクライマックスであります。でも、せっかくなので島内に入り、修道院も見学しましょう。しかし、有名店のオムレツには注意してください。どうしても名物オムレツを食べたいなら、・・・”
”でも、せっかくなので島内に入り、修道院も見学しましょう。”と言うに至っては何のためにモン・サン=ミシェルに行くのか、何をか況やであり、
「こんな人は、モン・サン=ミシェルに行ってはいけない」のは当然である。
花霞氏の本『行ってはいけない世界遺産』には、
モン・サン=ミシェル、グランドキャニオン、ストーンヘンジ、ガラパゴス諸島、アマルフィ、セーヌ河岸、マチュピチュ、オペラハウス、ナスカの地上絵、アンコール……
etc.が掲載されているようだが、私の行ったのは、 モン・サン=ミシェル、グランドキャニオン、ストーンヘンジ、セーヌ河岸、マチュピチュ、オペラハウスくらいだが、夫々、感動と感激の一語に尽きる思い出ばかりである。
これらについては、これまでに、このブログで何度か記事にしているので蛇足は避ける。
この口絵写真は、フランス政府のHPから借用した写真である。
私が撮った何百ショットの写真があるのだが、倉庫に眠っていて探せないのが残念である。
欧米などの旅には、必ずミシュランの英語版のグリーンとレッドのガイドブックを持って歩いているが、旅は、その地を訪れて物見遊山すれば良いだけではなくて、その地の歴史や文化などにも敬意を払って、それなりの知的武装なり心の準備をして行くのは当然だと思っている。
特に、歴史的な世界遺産は、永く熾烈な歴史の風雪に耐えぬいた人類の永遠の英知が凝縮されている貴重な財産であって、アダや疎かで見過ごせるものでは決してない筈だと思っているので、人類の偉大さ崇高さに感動しながら、どっぷりとその環境に没頭して時を過ごしたいと願い続けている。
(追記)今夜、2017年8月11日 NHKテレビ1で、”究極ガイドTV 絶景!2時間でまわるモン・サン・ミシェル” が放映された。その素晴らしさを実感できたと思う。
この夏休み休暇を利用して、日本を脱出して海外に旅する人が、日本各地の空港に詰め掛けている。
休暇を利用しての海外旅行は、短期間なので、それ程、問題はないのであろうが、海外移住となると、自分のその後の命運を、移住先に託することになるのであるから、相当慎重を要する。
このブログでも、随分、海外生活や旅の記事を書いてきたが、その間、世の中、と言うよりも、世界的規模での政治経済社会の激変と構造変化には、目を見張るものがあり、何が起こるか、予測さえつかないくらい危機的な状況になっている。
早い話、私が、海外を旅しはじめ海外で生活していたのは、1970年代後半から、ベルリンの壁崩壊後の数年までで、その後、何度か、時には頻繁に、海外旅行をしており、最近の旅行については、欧米、ロシア、中国などについては、このブログで、書いているが、年々、海外環境は様変わりである。
今、最も危険だと言われている中南米でも、1970年代にはサンパウロに住んでいて、殆どの国へ調査など仕事や旅行で出かけたが、自由に移動して問題はなかった。
また、ベルリンの壁崩壊前後でさえ、東西ヨーロッパ各地を歩いても、殆ど、危険を感じたり不安を感じたことはなく、自由に仕事を続け旅をして飛び回っていた。
尤も、住んでいたロンドンでは、何回もIRAなどのテロで爆破されたり、ヨーロッパのあっちこっちでテロ事件があったり、空港で、自動小銃を構えた兵士に出迎えを受けることがあった。
それでも、現在のような危険や危機的な状況に遭遇したこともなかったし、ある程度の予測や準備ができた所為もあろうが、不安を感じずに仕事をし生活を続けていたのである。
しかし、現在は、全く環境は激変してしまって、予測など埒外で、危険覚悟の海外生活であり海外旅行となってしまっている。
激変の最たるものは、ISISの擡頭であろうが、今や、アジアのイスラム圏およびその一部、フィリピン、インドネシア、マレーシア、そして、タイなど、老後の移住先として勧められてきた地域が、不安定となり、更に、南沙・西沙やマラッカ海峡などでの米中の鬩ぎ合いで、平安であった東南アジアさえ、ある意味では、風雲急を告げており、どのように激変するかも分からない。
再度書くのも蛇足なので、一流雑誌でありながらの、海外移住と海外旅行の勧めへの悲しい偏見と助言に対する苦言を、この機会に、私が数年前に書いた記事で、頻繁に引用されている次の記事2稿を、そのまま訂正せずに再録して、私の思いを伝えたい。
安易な老後の海外移住は、絶対に避けるべきこと、そして、正しい知見と誠実な姿勢で世界遺産の旅に臨むべきこと、これである。
”老後の海外移住は幸せなのであろうか” 2014年07月14日 | 生活随想・趣味
”「モン・サン=ミシェル」は「行ってはいけない世界遺産」なのか” 2015年08月09日 | 海外生活と旅
”老後の海外移住は幸せなのであろうか”
2014年07月14日 | 生活随想・趣味

先日、インターネットを叩いていたら、プレジデント誌の「海外経験なし! 老後に日本を脱出しても大丈夫か」と言う記事に目がついた。
”Webサイト「海外移住情報」主宰 安田 修 ”の記事であり、結論としては、
”海外在住経験がなく、移住まで踏み込む勇気のない人も多いだろう。だが、楽しむことに貪欲であれば何ら問題はない。なまじ海外経験があると、すぐに日本や他の国と比較し、それが不満につながることもある。言葉についても覚えることを目標に生活すれば、「退屈だから帰国する」ということにはならないだろう。”と言うことのようである。
私の正直な気持ちだが、異文化異文明の遭遇の中でのカルチュア・ショックが如何に強烈か、その環境での人間の適応力が如何に拙劣かを無視した暴言であるとさえ思える。
以前から、リタイア後の年金生活に入っても、生活費の安い東南アジアの国で、適当なコンドミニアムでも購入して移住すれば、かなり裕福な老後を送ることが出来ると言った誘い文句で、海外移住を薦める旅行社などがあって、確か、オーストラリアで生活している移住者の泣き笑いの生活を視察する団体旅行をテーマにしたテレビ・ドラマが放映されていた。
実際にも、アジアの国では、ある程度の資産を持ち生活能力のある老年の日本人移住者を積極的に歓迎し、そのような施策を国家政策として掲げている国がある。
この記事でも、「居住用の査証取得」については、現在、40を超える国々が、退職者や年金受給者を対象にした「リタイアメント査証制度」を実施。長期滞在に必要な手続きが簡素化され、取得しやすいように配慮されている。と紹介しており、
アジアの申請条件では、タイが預金または年間年金収入の合算で約240万円以上。永住権付きのフィリピンは約162万円の預金をするだけという手軽さが魅力だ。として、
リタイアメント査証を実施していない国では、シニアの技術力を必要とし、就労許可も優遇されている中国に就職する人も多い。日本で培った経験を現地移入することが、彼らの「老後の生きがい」となっている。と言うのである。
私の結論は、前述したように、余程の人でない限り、老後の海外移住、それも、老夫婦なり、単独での移住は、止めておいた方が良いと言うことである。
この記事に、”大震災以降、人気が高まっているのがマレーシア。住環境も比較的よく、政府が外国人の誘致に積極的だ。旧英国領のイスラム国であり、イランやバングラデシュ、近隣の中国の富裕層も集まる。”などと書かれており、私の英国人の友人夫妻など毎夏2週間ほどマレーシアでバカンスを送っているのだが、これは、元英領であったし、また、イランやバングラデシュは同じイスラム圏のより豊かで安全な国であり、中国人は、多くの華僑が住み着く中華文化圏の一部であるから移住するのは当然であろう。
しかし、日本人にとっては殆ど未知のイスラム教国であり、言葉も話せなければ、異文化異文明の遭遇する人種の坩堝のような国で、どうして、生活適応力の劣化した老人が安心して生活が出来ると考えられるのであろうか、大いに疑問である。
更に、”移住先として人気があるのは、タイ、マレーシアといった東南アジアの国々。生活費目安は月10万円ほどで、一般市民は5万円ほどの月収で暮らしている。・・・アジア並みに物価が安いのは中南米諸国、それ以外では北アフリカのモロッコ。欧州や南太平洋の島々は総じて高い。”と書かれている。
中南米と言っても、日系移民が生活しているので多少親近感はあろうが、それなりの生活を送ろうとすれば、今や、ブラジルやアルゼンチン、ペルーなどになると、場合によっては、日本より生活費が高くなる筈であろうし、このブログでも書いているが世界一治安の悪いカントリーリスクの高い地域である。
それに、東南アジアの国だが、物価上昇率の高さと政情不安定やカントリーリスクの高まりをどう考えるのか、今の物価水準が何時まで持つか大いに疑問であり、とにかく、発展途上国では、言葉が分からなくて、土地勘と生活適応力が不十分であれば、まず、安心した生活などは送れない筈である。
まず、真っ先に考えるべきは、病気になったらどうするのか。
日本の国民皆保険制度は、極めて恵まれた世界屈指の幸せなシステムで、欧米の先進国であろうと、新興国や発展途上国であろうと、総て医療サービスは金の世界で、日本並の医療保護を受けようとすれば、遥かに高額の医療費が必要であることは間違いない。
それに、医療の程度の低さとアクセスの困難さは、日本の無医村状態の地方医療の比ではなく、どうひっくり返っても、日本ほど普通の日本人にとって医療制度が整った国はない。
言葉が話せなければ、体の痛みを、例えば、どこがどのように何時から痛いのかなど、医者に正確に説明できるであろうか。
医療は、その最たるケースだが、外国では、何でも、日本並に便益を享受できるなどと、断じて、考えたり期待すべきではないと肝に銘じるべきである。
もっと重要なことは、日本であろうと海外であろうと、老後をどう生きるかと言う自分自身の生き甲斐生き様をどのようにプロジェクトするかと言うことである。
それによって、殆ど生きるべき道は、はっきりと見えて来る筈である。
かって、働いたり生活した経験のある国に移住して老後を全うしたいと言う気持ちがあるのなら、いわば、夢でもあり本懐を遂げるのだから大いに結構。
大切なことは、自分のアイデンティティの問題で、長い人生で培ってきた日本人気質なり日本人としての心からは絶対離れられない筈であり、余程のことがなければ、異文化異文明の海外生活への同化は無理であり、それに、第一に、水も違えば食べ物も違うし、空気も風土も違うところで、並の日本人の老人が幸せに生きて行けるのか、私には、「海外経験なし! 老後に日本を脱出しても大丈夫か」などと言うのは、正気の沙汰とは思えない。
昔、海外移住を決断した夫が妻に相談したら、殆どの妻が、「友人知人や孫たちと離れて生活する気などは全くないので、あなたお一人でどうぞ」と言われたと言うアンケート結果を見たことがあるが、これが常識人の答えであろう。
パリのアパートや、ホノルルのコンドミニアムなどは、暴動や何かの不都合で取り上げられても惜しくない、嫌になったら何時でも帰って来ると言った経済的に恵まれた人には、移住大いに結構だが、年金生活で生活費を浮かして豊かな生活をしたいなどと考えての海外移住なら、断じてやるべきではない。
「年金だけでも優雅に暮らせる老後の海外移住」と言うキャッチフレーズが踊っているが、「海外経験なし! 老後に日本を脱出しても大丈夫か」と言った甘い王道などある筈がない。
まず、経済的や発展上日本より遅れていると思われる国での生活は、安全安心で世界に冠たる日本ほど恵まれた国はなく、遥かに不便で不都合なことが多く、実際に生活して見れば、不満の連続であろうと言うことを認識しておくことである。
それに、日本でもそうだが、頼りにならない外国では、瞬時に目論みが狂ってくると考えて間違いない。
ほんの前の世紀末に、一人あたりの国民所得が日本の20分の1であった中国だが、今や、北京や上海の高級アパートは日本よりはるかに高くなっていて、金持ちの中国人が世界を闊歩している。
グローバリゼーションと言うことは、そう言うことであり、時空の進歩と変化が激烈な現在において、日本でさえ5年先など見通せないし、まして、未知の外国での政治経済社会環境など、推測判断の埒外であろう。
何度も書いているので、蛇足だが、昔のこととは言え、私自身は、アメリカ、ブラジル、オランダ、イギリスに都合14年在住し、1泊以上した国は40か国以上であり、世界中をあっちこっち歩いてきており、異文化異文明にはかなりの洗礼を受けて来たと思っている。
それに、かっては、ブラジルとイギリスの永住権を持っていた。
そして、名うてのグローバル・ビジネス相手に斬った張ったの熾烈な戦場で闘い続けてきた。
アメリカ製MBAであるから、まず、英語には、それ程不自由はないし、かなり、海外生活には慣れているつもりだが、それでも、この記事で紹介されているところは、実際に行って殆ど知ってはいるが、私自身、永住したいとは思わない。
海外で生活している多くの日本人とも接触し、その生活を見て来たが、日本人の大半は、海外で仕事をしたり勉強したりした人でも、帰国して日本で生活しており、母国回帰の比率は、恐らく、何処の国よりも、日本が最高であろうと思う。
ところで、安田さんは、結論として、次の意味深な文章で記事を締め括っているのが興味深い。
”気をつけるべきは、すぐに人を頼ろうとしないこと。「海外で一番信用できないのは日本人」とも言われ、日本人に騙されることは珍しくない。同じ日本人だからといって、警戒を解かぬようにしたいものだ。”
同族の日本人を食い物にしなければ生きて行けないような信頼できない日本人がいる、そんな国に、行って幸せになれるであろうか。
(追記)口絵写真は、フェルメールの「デルフト遠望」である。
美しいオランダの風景画だが、何百年前から、少しも変わっていない風景が、今でも展開されている。世界中には、素晴らしい風物が沢山あって、それはそれで、歩けば、凄い人生や経験に遭遇する。
「モン・サン=ミシェル」は「行ってはいけない世界遺産」なのか
2015年08月09日 | 海外生活と旅

ニューズウィークの電子版を観ていたら、「こんな人は、モン・サン=ミシェルに行ってはいけない Mont Saint-Michel」と言う記事が載っていた。
『行ってはいけない世界遺産』を著した花霞和彦の記事のようである。
読んで見たが、モン・サン=ミシェルでは、プレサレ羊とオムレツが有名で、オムレツを食べたが高くて美味しくなかったとかで、何故、「モン・サン=ミシェルに行ってはいけない」のか、よく分からない。どうも、遠くてぽつんとある世界遺産なので、コストパーフォーマンスが悪いと言うことのようである。
著者の真意を知りたくて、アマゾンで、この本の説明書きを見たら、
”見どころ×コストパフォーマンス 行ってガッカリしないためのリアルガイド
モン・サン=ミシェル、グランドキャニオン、ストーンヘンジ、ガラパゴス諸島、アマルフィ、セーヌ河岸、マチュピチュ、オペラハウス、ナスカの地上絵、アンコール……
高いお金をはたいて、長時間の移動に耐えて、やっとたどり着いたら「え? たったこれだけ!?」とガッカリした経験はないでしょうか?
いまや世界に1000件以上もある世界遺産。限られたお金と時間の中で選ばなくてはいけません。
本当に行く価値があるのか、値段と時間と労力に見合うのか、ガイドブックの美辞麗句に惑わされず、しっかり検討しましょう。
数多くの世界遺産に足を運んだ著者が、コストや体力度などのデータとともに、20の世界遺産を徹底検証。”
と言うことらしい。
このような世界遺産への旅のアプローチは、私には全く論外で、まず第一に、旅行用のガイドブックなどの埒外の旅であり、世界遺産の世界遺産たる所以を全く分かっていないと言う以外に言いようがない。
多少は世界遺産を見て歩いた経験のある私自身の感想だが、人類が営々として築き上げてきた人類の貴重な遺産や自然の造形した神秘に対する一種の冒涜であり、基より、コストパーフォーマンスを考えるのなら、最初から旅をするなと言うことである。
写真家土門拳が、不自由な体を吊り上げられて撮った日本第一の建築と称賛した三佛寺投入堂の写真の凄さが示しているように、崇高な歴史遺産には、人知を超えた価値と魂が凝縮されているのである。
私は、モン・サン=ミシェルには、2度訪れている。
直接日本から行ったのではないので、コストは限られているので偉そうなことは言えないが、一度は、出張先のレンヌからタクシーで、二度目は、ノルマンデー旅行の時に、サンマロからシェルブールへ向かう途中車でアプローチし、夫々、一日過ごしただけだが、アップダウンの激しい島内をあっちこっち歩いて、フランスの中世の宗教都市にタイムスリップした思いで、感動しながら時を過ごした。
さて、花霞氏の記事だが、
”結論としては、モン・サン=ミシェルは、対岸のバス乗り場から眺めるシルエットがクライマックスであります。でも、せっかくなので島内に入り、修道院も見学しましょう。しかし、有名店のオムレツには注意してください。どうしても名物オムレツを食べたいなら、・・・”
”でも、せっかくなので島内に入り、修道院も見学しましょう。”と言うに至っては何のためにモン・サン=ミシェルに行くのか、何をか況やであり、
「こんな人は、モン・サン=ミシェルに行ってはいけない」のは当然である。
花霞氏の本『行ってはいけない世界遺産』には、
モン・サン=ミシェル、グランドキャニオン、ストーンヘンジ、ガラパゴス諸島、アマルフィ、セーヌ河岸、マチュピチュ、オペラハウス、ナスカの地上絵、アンコール……
etc.が掲載されているようだが、私の行ったのは、 モン・サン=ミシェル、グランドキャニオン、ストーンヘンジ、セーヌ河岸、マチュピチュ、オペラハウスくらいだが、夫々、感動と感激の一語に尽きる思い出ばかりである。
これらについては、これまでに、このブログで何度か記事にしているので蛇足は避ける。
この口絵写真は、フランス政府のHPから借用した写真である。
私が撮った何百ショットの写真があるのだが、倉庫に眠っていて探せないのが残念である。
欧米などの旅には、必ずミシュランの英語版のグリーンとレッドのガイドブックを持って歩いているが、旅は、その地を訪れて物見遊山すれば良いだけではなくて、その地の歴史や文化などにも敬意を払って、それなりの知的武装なり心の準備をして行くのは当然だと思っている。
特に、歴史的な世界遺産は、永く熾烈な歴史の風雪に耐えぬいた人類の永遠の英知が凝縮されている貴重な財産であって、アダや疎かで見過ごせるものでは決してない筈だと思っているので、人類の偉大さ崇高さに感動しながら、どっぷりとその環境に没頭して時を過ごしたいと願い続けている。
(追記)今夜、2017年8月11日 NHKテレビ1で、”究極ガイドTV 絶景!2時間でまわるモン・サン・ミシェル” が放映された。その素晴らしさを実感できたと思う。