原題は、GLOBAL ECONOMIC HISTORY グローバル経済史なのだが、日本語版へのプロローグの冒頭で、本書の目的は、「なぜ世界には豊かな国と貧しい国があるのか」と言うことだと述べており、今はやりの、グローバル・ベースの経済格差の依って立つ原因や成り立ちについて論じていて、興味深い。
アメリカ経済学会の会長を務めたことのあるオックスフォード大学教授の概説経済書なので、分かり易い書物だが、手抜きのない高度な学術書でもある。
なぜ、国によって経済発展に差が出来たのか、これまでは、制度、文化、地理的条件などに依拠した理論が盛んであったが、これらも重要ではあるが、技術革新、グローバル化、経済政策の持つ歪んだ特性とその影響を強調したいと言う。
イギリスで、何故、産業革命が起こったのか、
大航海時代の幕開けで、第一次グローバル化とともに始まった「大いなる分岐」の後、
賃金が割高で、エネルギーコストが割安なイギリス経済では、産業革命を切り開いた技術を発明したり、利用することによって、企業が利益を上げることが出来た、このイギリス特有の賃金・生産要素価格「エネルギー価格と資本価格」の在り方が鍵だった。
イギリスの発明家が多くの時間とお金を研究開発に費やし、往々にして平凡な着想でしかないものを具体化しようとしたのか、
それは、彼らが発明した機械は、労働を節約するために資本を増やした、すなわち、結果として、これらの機械の使用から利益を上げたのは、労働が割高で、資本が割安であったイギリスにおいてのみ起こり得たことで、他国は、その資本投下の余地がなく、そのシステムを導入してもペイしなかった。
また、マンチェスターを筆頭にイングランド北部とスコットランドの多くの都市が爆発的に成長したが、この拡大は、インド、中国および中東の犠牲のもとになされた。ともいう。
幸いなことに、18世紀の発明が一過性のものではなく、継続的な技術革新の流れを加速し、経済成長が持続的となったために、所得が増え続けて、今日のように繁栄が庶民まで広く行きわたるようになった、イギリスの産業革命の成果と言えよう。というのである。
北米と西ヨーロッパは、イギリスに負けじとキャッチアップするために、内国関税の廃止やインフラ建設による国内市場統一、自国企業保護のための対外関税、通貨安定と銀行創設労働者育成のための普通教育の普及等々経済政策を打ち出し、イギリスの先進技術を、低賃金低燃費などの自国でも費用対効果が出るように改良するなど、投資家たちに経済的インセンティブを与えて、経済システムを自国の経済状況に合わせて経済成長を策した。
いずれにしろ、盛者は衰退する理で、アメリカやドイツが、イギリスを凌駕して、今日に至っている。
経済成長格差について、偉大なる帝国であったインドの工業化の挫折について克明に論じていて面白い。
勿論、経済的な成功と失敗を分けたのは、技術革新、グローバル化、そして、国の経済政策だと言っているのだが、。
産業革命がインドなどアジアの工業化を挫折させたのは、
第一は、工業の生産性がヨーロッパにおいて、益々上昇し、コストを低下させた。機械化費用よりも労働コストが低すぎるので、先進工業技術を導入不可能であった。
第二に、蒸気船と鉄道の普及が、国際競争力を一層過酷なものにした。
尤も、イギリスが、インドからの綿製品の輸入を阻止したとか、英国の植民地政策が問題の一端でもあろうが、このインドの挫折は、経済学の基本原理「比較優位」が齎した結果だと言う。
ところで、日本の経済成長は、どう説明するのか。
著者は、20世紀に貧困から抜け出した大国(日本、台湾、韓国、ソ連)は、計画の手段は様々だが、ビッグプッシュ型工業化をやり遂げた結果だったと言う。
これは、国よって当然異なるのだが、政府主導の計画下で、一気に先進工業国へキャッチアップすべく経済政策を実行推進するのことで、確かに、ソ連や日本のケースは、その典型であろう。
日本について、興味深いのは、
明治維新の工業化政策について、日本は、西洋の条件下で、西洋の機械化工業のレイアウトにおいてうまく機能する創造的な対応を示した。低賃金経済で日本で採算が取れるように、西洋の技術を作り変えたのだとして、赤字だった富岡製糸場とは違って、ヨーロッパ式の機械を、金属製ではなく木製に、蒸気機関ではなく人力でクランクを回した改良式の「諏訪式座繰機」を考案して普及させた。高価な資本を少なくして安価な労働の使用を多くしたので、日本にとっては、最適の技術であった。と述べていることである。
尤も、戦後の快進撃では、この近代技術を自国の資本価格に適合するように資本節約的な方向で改造して利用する方式とは違って、最も近代的で資本集約的な技術を大規模に駆使して、最先端の工業立国となっている。
この本では、最近のインドや中国など、成熟して成長の止まっている先進工業国とは違った、新興国の経済成長について、殆ど論じていないし、デジタル革命、ICT革命によって大きく様変わりした政治経済環境下での、経済成長のトレンドなどについても、殆ど叙述していない。
アフリカについては、今後の経済成長について、その可能性さえ言及していないが、最先端を行くBOTビジネスや、破壊的イノベーションの推移などによっては、どのように逆転するかも分からないし、とにかく、AIやIOTによって、人間に変わって神となりつつある機械をどうコントロールするのか、いずれにしろ、最先端最高の科学技術を一気に取り込める新時代の経済成長、その格差の動向は、大きく変わってくる筈である。
最後に、
「多くの戦略のうち、何がもっとも効果的であったのか・・・成功した政策を他の国々に移し替えることが出来るのか・・・経済発展をもたらすもっともよい政策は、まったく解明されないままなのである。」と言っているのが興味深い。
アメリカ経済学会の会長を務めたことのあるオックスフォード大学教授の概説経済書なので、分かり易い書物だが、手抜きのない高度な学術書でもある。
なぜ、国によって経済発展に差が出来たのか、これまでは、制度、文化、地理的条件などに依拠した理論が盛んであったが、これらも重要ではあるが、技術革新、グローバル化、経済政策の持つ歪んだ特性とその影響を強調したいと言う。
イギリスで、何故、産業革命が起こったのか、
大航海時代の幕開けで、第一次グローバル化とともに始まった「大いなる分岐」の後、
賃金が割高で、エネルギーコストが割安なイギリス経済では、産業革命を切り開いた技術を発明したり、利用することによって、企業が利益を上げることが出来た、このイギリス特有の賃金・生産要素価格「エネルギー価格と資本価格」の在り方が鍵だった。
イギリスの発明家が多くの時間とお金を研究開発に費やし、往々にして平凡な着想でしかないものを具体化しようとしたのか、
それは、彼らが発明した機械は、労働を節約するために資本を増やした、すなわち、結果として、これらの機械の使用から利益を上げたのは、労働が割高で、資本が割安であったイギリスにおいてのみ起こり得たことで、他国は、その資本投下の余地がなく、そのシステムを導入してもペイしなかった。
また、マンチェスターを筆頭にイングランド北部とスコットランドの多くの都市が爆発的に成長したが、この拡大は、インド、中国および中東の犠牲のもとになされた。ともいう。
幸いなことに、18世紀の発明が一過性のものではなく、継続的な技術革新の流れを加速し、経済成長が持続的となったために、所得が増え続けて、今日のように繁栄が庶民まで広く行きわたるようになった、イギリスの産業革命の成果と言えよう。というのである。
北米と西ヨーロッパは、イギリスに負けじとキャッチアップするために、内国関税の廃止やインフラ建設による国内市場統一、自国企業保護のための対外関税、通貨安定と銀行創設労働者育成のための普通教育の普及等々経済政策を打ち出し、イギリスの先進技術を、低賃金低燃費などの自国でも費用対効果が出るように改良するなど、投資家たちに経済的インセンティブを与えて、経済システムを自国の経済状況に合わせて経済成長を策した。
いずれにしろ、盛者は衰退する理で、アメリカやドイツが、イギリスを凌駕して、今日に至っている。
経済成長格差について、偉大なる帝国であったインドの工業化の挫折について克明に論じていて面白い。
勿論、経済的な成功と失敗を分けたのは、技術革新、グローバル化、そして、国の経済政策だと言っているのだが、。
産業革命がインドなどアジアの工業化を挫折させたのは、
第一は、工業の生産性がヨーロッパにおいて、益々上昇し、コストを低下させた。機械化費用よりも労働コストが低すぎるので、先進工業技術を導入不可能であった。
第二に、蒸気船と鉄道の普及が、国際競争力を一層過酷なものにした。
尤も、イギリスが、インドからの綿製品の輸入を阻止したとか、英国の植民地政策が問題の一端でもあろうが、このインドの挫折は、経済学の基本原理「比較優位」が齎した結果だと言う。
ところで、日本の経済成長は、どう説明するのか。
著者は、20世紀に貧困から抜け出した大国(日本、台湾、韓国、ソ連)は、計画の手段は様々だが、ビッグプッシュ型工業化をやり遂げた結果だったと言う。
これは、国よって当然異なるのだが、政府主導の計画下で、一気に先進工業国へキャッチアップすべく経済政策を実行推進するのことで、確かに、ソ連や日本のケースは、その典型であろう。
日本について、興味深いのは、
明治維新の工業化政策について、日本は、西洋の条件下で、西洋の機械化工業のレイアウトにおいてうまく機能する創造的な対応を示した。低賃金経済で日本で採算が取れるように、西洋の技術を作り変えたのだとして、赤字だった富岡製糸場とは違って、ヨーロッパ式の機械を、金属製ではなく木製に、蒸気機関ではなく人力でクランクを回した改良式の「諏訪式座繰機」を考案して普及させた。高価な資本を少なくして安価な労働の使用を多くしたので、日本にとっては、最適の技術であった。と述べていることである。
尤も、戦後の快進撃では、この近代技術を自国の資本価格に適合するように資本節約的な方向で改造して利用する方式とは違って、最も近代的で資本集約的な技術を大規模に駆使して、最先端の工業立国となっている。
この本では、最近のインドや中国など、成熟して成長の止まっている先進工業国とは違った、新興国の経済成長について、殆ど論じていないし、デジタル革命、ICT革命によって大きく様変わりした政治経済環境下での、経済成長のトレンドなどについても、殆ど叙述していない。
アフリカについては、今後の経済成長について、その可能性さえ言及していないが、最先端を行くBOTビジネスや、破壊的イノベーションの推移などによっては、どのように逆転するかも分からないし、とにかく、AIやIOTによって、人間に変わって神となりつつある機械をどうコントロールするのか、いずれにしろ、最先端最高の科学技術を一気に取り込める新時代の経済成長、その格差の動向は、大きく変わってくる筈である。
最後に、
「多くの戦略のうち、何がもっとも効果的であったのか・・・成功した政策を他の国々に移し替えることが出来るのか・・・経済発展をもたらすもっともよい政策は、まったく解明されないままなのである。」と言っているのが興味深い。