熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

林真理子著「六条御息所 源氏がたり 二、華の章」

2017年10月25日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   この章は、澪標から玉鬘・初音の中途くらいまでで、源氏が、玉鬘(夕顔の娘)の床に忍び込むところまでで終わっている。
   明石からの物語なので、この玉鬘へのように、源氏が、若かりし頃の愛人たちの娘たちに、モーションをかけ始めるのだが、流石の名うてのドンファン源氏も、望み通りに恋が成就しない展開が続いていて面白い。
   尤も、著者は、紫式部の原文をそのまま踏襲するのではなく、自分なりに読み解いて六条御息所の視点を借りて林真理子の源氏物語を展開しているので、省略や増幅がかなりあって、独自の章付けをするなど、ストーリーも必ずしも、原書通りでもない。
   私自身も、源氏物語を読んだのは、ずいぶん昔のことなので、殆ど記憶になく、改めて源氏物語を読む感じなのだが、ところどころ、紫式部とは違うなあと思う箇所がいくつもあって興味が尽きない。

   第一巻で、源氏にとって、重要な女性は、藤壺と六条御息所であったが、二人とも逝去してしまうので、この巻では、紫の上と明石の君が、重要な位置を占める。
   特に、明石の君は、女児をもうけたので、源氏は、占い師に皇后になるであろうと言われて、その子を将来の后にするべく、紫の上の養女として引き取るのだが、大堰川の屋敷に移り住んだ明石の君に通い始め、六条院に住まわせてからはその美しさと魅力に惚れて入れ込むので、紫の上を動揺させ続ける。
   この女遍歴の次第を、一つ一つ、源氏は気を使いながら、苦し紛れに、紫の上に説明して許しを請い、既成事実を積み上げて行くのだが、昔も今も、妻には男は頭が上がらないようである。
   明石の君の姫君誕生についても、子供が出来て欲しいところにはなかなか生まれず、女の子だから面白くも何ともなく、ほっておいてもよいのだが・・・と、紫の上を傷つけるようなことを言うのだが、紫の上が子供好きと言うことで一件落着。後に、密かに、紫の上は、本当の母になりたかったのであろう、胸をはだけて乳を含ませて飲ませる仕草をしたと言う。
   初夜の屈辱から源氏を全く信用しなくなってしまった紫の上が、源氏の不誠実のすべてを察しながらも、機嫌取りの寝物語で、聞き流しながら、理想的な夫婦生活を続けていたと言うのが、興味深い。

   ところで、著者は、御息所と源氏の母の桐壷の更衣とは同じ祖を持つ一族の女で、明石の君の父入道と、桐壷の更衣とは、従兄妹の間柄で、親族だと言うこともあって、明石の君については、非常に好意的にストーリーを展開している。
   明石の入道は、大臣の子でありながら田舎へ流れる運命を辿り、桐壷の更衣は、健気にも家名を取り戻すべく宮廷へと向かったが道半ばで逝去し、御息所だけが東宮妃に上ったものの、東宮の逝去で夢破れ、今や、やっと、明石の君の姫君が、后の座を狙う位置に辿り着いたのである。
   尤も、明石の君が、田舎者で、都の相当な家に生まれていなかったと言うことが、源氏にとっては苦痛であり、ずっと、後まで尾を引いているのだが、帝が実子(これは、藤壺と源氏の子であることを、唯一知っている僧都から聞いて知っている)であって、源氏が太政大臣であったとしても、清盛の様に権力を揮えなかったのであろう。

   さて、源氏の恋の遍歴だが、六条御息所は、死ぬ間際に、源氏に、自分の娘には、絶対手を出すなと釘をさして、認めさせたのだが、勿論、そんなことを聞く源氏ではなく、モーションをかけ続けた。
   このあたりの経緯を、オリジナルにはさらりと叙述されているだけなのだが、御息所は、死霊として、はらはらしながら見ながら、克明に描いているのが興味深い。
   結局、源氏は、この斎宮を養女に迎えて、実子である11歳の冷泉帝の元へ女御として入内させるのだが、それでも、女御への恋心は収まらず口説き続け、御息所の遺言の諌めが利いて、未練たらたらながら後見役に徹したのである。

   このほかにも、従兄弟の式部卿の宮の姫君で斎院をしていた朝顔の宮にも、しつこく言い寄るのだが、源氏は、振られている。

   もう一人、前述した夕顔の娘(頭の中将の娘でもある)玉鬘を、夕顔の元侍女右近が偶然、長谷で見つけたのを娘として引き入れて、六条邸の花散里に後見させることにするのだが、恋焦がれて執拗に愛して儚く世を去った夕顔の子供であり、美しくて魅力的な女性であるから、源氏の執念が燃え上がって、親権を装って、アプローチする。
   この巻では、「あの方は下着だけになると、するりと娘の傍に横になります。娘は恐ろしさと情けさで涙をこらえることが出来ません。」と言うところで終わっているのだが、紫式部は、穏やかな表現ながら、林真理子は、リアリティに徹するので、分かり易い。
   次の巻だが、源氏は玉鬘への思いも空振りで、玉鬘は、黑髭にさらわれてしまう。

   尤も、この巻は、源氏の老いらく(?)の恋の失敗だけではなく、大切な左大臣や藤壺や六条御息所の逝去など、色々な話題満載なので、結構、面白いのである。
コメント
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