熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

安部 義彦、 池上 重輔著「日本のブルー・オーシャン戦略  10年続く優位性を築く」

2018年09月26日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   2004年に、INSEADのChan KimとRenée Mauborgne教授によって著された「Blue Ocean Strategy」の日本での展開を、チャン・キムの元で学んだ安倍義彦氏たちが、解説した本。
   「ブルー・オーシャン」と言う概念も、激変するビジネス環境で生き抜くために 『ブルー・オーシャン戦略』は、新たなステージへ進化する! として、両教授による「ブルー・オーシャン・シフト Blue Ocean Shift: Beyond Competing - Proven Steps to Inspire Confidence and Seize New Growth 」が、昨年9月に出版され、最近、翻訳本も出て、ベストセラーを続けており、経営戦略として完全に定着した感がある。
   
   この日本の本は、出版されて既に10年を経過しており、賞味期限切れかも知れないが、積読ではもったいないので、飛ばし読みして見たら結構面白い。
   ブルー・オーシャン戦略については、これまでも随分書いてきたので蛇足は避けるが、日本の場合は、概念そのものがよく理解されておらず、成功したブルーオーシャン企業も、偶々、その成功は、ブルーオーシャン戦略の体現であったと言った場合が多いような気がしており、例示されている殆どの日本のケースも、そんな感じである。

   ところで、最初に「ブルー・オーシャン戦略」を読んで感じたのは、形を変えたクリステンセンの「イノベーターのジレンマ The Innovator's Dilemma」の焼き直しと言わないまでも、イノベーション戦略を首座に据えた経営戦略論ではないかと言うことである。
   
   まず、この本で説明されている「レッド」と「ブルー」の違いだが、
   「レッド・オーシャン戦略」は、
   マイケル・ポーターの競争戦略論やコトラーのマーケティング論など欧米ビジネスパーソンの「常識」、パラダイムの競争戦略で、
   業界の条件は所与、競合他社を打ち負かすため、競争優位性の構築で既存の需要を引き寄せる、価値とコストがトレードオフの関係――差別化・低コスト、どちらかの戦略を選択し、企業活動の総てをそれに合わせる
   「ブルー・オーシャン戦略」は、
   競争のない市場を主体的に創造 競争を無関係にする 買い手のバリューを創造し、新しい需要を創出 バリューとコストのトレードオフを打ち負かす――差別化と低コストをともに追求し、その目的のために企業活動の総てを推進する

   日本企業のブルー・オーシャン例として、まず、任天堂のWiiにつて詳細に説明し、
   iモード、明光義塾、ネスレ、QBハウス、ユニクロ、NOVA、セコム、シマノ、アスクル等々を例示しているので、大体のイメージは分かるであろう。
   
   クリステンセンのイノベーターのジレンマは、
   優良企業は、戦略的に優位なベストセラー製品を、益々競争力をつけるために、その製品の改良を進めるべく技術を洗練深堀りする「持続的イノベーション」に傾注するが、その価値を破壊して価値を生み出し全く新しい製品を開発すべく「破壊的イノベーション」を追求する新規企業が出現して、従来製品にとって代わろうとする。既存の優良企業は、既存の顧客重視で、持続的イノベーションの推進で自社の事業を成り立たせているために、破壊的イノベーションを軽視して対応を怠る。優良企業の持続的イノベーションの成果は、ある段階で顧客のニーズを超えて、それ以降、顧客は、その対価を払わなくなって収益を圧迫する一方、製品の質を向上させ安価となった破壊的イノベイターの新製品の価値が、市場で広く認められ、優良企業の従来製品の価値は毀損し、競争力を失って、取って代わられる。
   
   破壊的なイノベーションで優位に立ったはずの優良企業が、その成功ゆえに、持続的イノベーションを追求して競争力を維持し、既存の顧客重視で既存製品に執着して、破壊的イノベーションを軽視して、結局、台頭してきた新しい破壊的イノベーターに駆逐されて行く、先行優良企業イノベーターの経営のジレンマ。
   トランジスターに真っ先に挑戦したソニーが、膨大な投資をした真空管に固守した大手電機メーカーをしり目に快進撃をしたケースや、ウォークマンのソニーが、アップルの破壊的イノベーションに連戦連敗し続けたケースを考えれば、よく分かるであろう。

   必ずしも一致しないし、両理論ともはるかに進化しているのだが、ポーターやコトラーの理論が、「持続的イノベーション」とダブり、チャン・キムたちの説が、「破壊的イノベーション」を想起させると考えても、それ程間違ってはいないと思う。
   クリステンセンの「破壊的イノベーション」は、シュンペーターの「創造的破壊」を想起させ、ローエンドからの台頭を説き起こしているが、キム・チャンたちの「ブルー・オーシャン」は、「バリュー・イノベーション」の追求なので、段階は問わない。

   既存の散髪屋を駆逐したQBハウスを考えればよく分かる。このブログでも書いたが、私がウォートン・スクール時代のフィラデルフィアのイタリア人理髪店で経験した「カット・オンリー」そのものであって、アメリカでは、イノベーションでも、ブルー・オーシャンでも何でもない。
   よく分からない外人に、剃刀を当てられるのが不安で、アメリカの散髪屋は、段階的なサービスなので、最初のプロセスである髪だけカットしてもらって、寮に帰って、髭を剃り、頭を洗えば、安上がりで充分だったのである。
   ドラッカーが「ブルー・オーシャン」だと褒めたたえたスターバックスも、何のことはない、無粋な場所で不味いアメリカン・コーヒーしか飲めなかったアメリカではそうであっても、日本の喫茶店やミラノやウィーンのカフェー文化を知っているコーヒー・ファンにとっては、イノベーションでも何でもないのである。
   ブルー・オーシャン戦略は、「バリュー・イノベーション」であるので、単なる発想の転換で、いくらでも生み出せるのであるから、クリステンセンの「破壊的イノベーション」の追求よりも、はるかに簡単な経営戦略だと言えば、言いすぎであろうか。

   クリステンセンの理論も、チャン・キムたちの理論も、もっともっと奥深いので、こんな安直な議論では失礼なのだが、一寸気づいたので綴ってみた。
   安部義彦、池上重輔両氏のこの本は、「ブルー・オーシャン戦略」を、噛んで含むように懇切丁寧に説明しており、それも、日本のケースを扱っての解説なのでよく分かる。
   日本の大企業、特に製造業は、殆どレッド・オーシャン企業で、新しい時代の潮流が読めない経営陣に支配されているので、社内ベンチャーやイノベーターの買収戦略が有効であろうが、機動力のある中小企業など、発想を変えて、「ブルー・オーシャン戦略」に軸足を移せば、活路が開けるのではないかと思っている。
   
  
  
  
コメント
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