熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

三月大歌舞伎・・・「盛綱陣屋」「弁天娘女男白波」

2019年03月14日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   大分、歌舞伎界も世代交代してきた感じで、「盛綱陣屋」は、まだ、ベテランの重鎮が中心となっているが、「弁天娘女男白波」の方は、一世代若返って面白くなってきた。

   「盛綱陣屋」は、仁左衛門の佐々木盛綱、微妙の秀太郎、早瀬の孝太郎とも、重要な役どころは松嶋屋が抑えおり、それに、雀右衛門の篝火や左團次の和田兵衛秀盛などが加わった感じだが、興味深いのは、子役の活躍で、勘太郎の小四郎と寺嶋眞秀の小三郎が、栴檀は双葉より芳しで、達者な芸を見せてくれていることである。
   特に、小四郎は、子役の中でも傑出した大役でありながら、勘太郎の素晴らしい芝居は特筆もので、20年も早く逝った名優勘三郎が観れば随喜の涙を流したのではないかと思えるほどの出来である。
   10年以上も前に、吉右衛門が盛綱の舞台で、微妙の芝翫に当時の橋之助の三男宣生が小四郎を演じ、実際の祖父と孫との感動的な舞台や、歌舞伎座柿葺落公演での仁左衛門の盛綱での金太郎の小四郎の素晴らしい舞台、中村芝翫の襲名披露興行での尾上左近の小四郎の凄い好演等々、梨園の子孫の格好の舞台を観ていて、感心しきりでもあった。

   この「盛綱陣屋」は、大坂夏の陣を鎌倉時代の近江源氏に仕立てた歌舞伎で、佐々木盛綱が真田信幸、佐々木高綱が真田幸村で、盛綱の主君の北条時政が徳川家康、高綱側の源頼家は豊臣秀頼と言う設定であるから、ストーリー展開が分かり易く、面白い。
   兄弟分かれて、敵対する両方に味方しておれば、どちらかが生き延びて家の断絶は免れると言う戦国時代の知恵であろうか、敵味方でありながら、信幸・幸村兄弟の仲が良かったように、この歌舞伎で、弟高綱の名誉を思う盛綱の心情も良く分かる。
   ただ、高綱が、名将の誉れ高い幸村なら、いくら知将と雖も、非情にも、自分の子供を人質として犠牲にして見殺しにしたかどうかは疑問である。
   敵を欺くため、人質となっっていた弟高綱の子小四郎が、言い含められたとおりに、にせ首を父だといって切腹し、この健気な心に打たれた盛綱は、高綱の戦略を理解して、切腹覚悟で、首実検で主人時政を欺く証言をする。これが、この歌舞伎のメインテーマなのである。
  
   さて、この「盛綱陣屋」は、このブログでの記録は、2005年以降なので、歌舞伎座へ通い始めたのは、その10数年前からであるから、何回も見ているのであろうが、記憶にあるのだけでも、秀山祭での吉右衛門、歌舞伎座柿葺落公演での仁左衛門、芝翫の襲名披露興行での芝翫など、極め付きの名舞台で、仁左衛門の素晴らしい舞台は、これで2度目と言うことになる。
   柿葺落四月大歌舞伎の仁左衛門が盛綱を演じた時には、吉右衛門が和田兵衛秀盛で、篝火は時蔵、早瀬は芝雀(雀右衛門)、微妙は東蔵で、小四郎が金太郎(染五郎)であり、流石に記念すべき素晴らしい舞台であった。
   今回特に感じたのだが、見慣れている筈のこの舞台ながら、仁左衛門の盛綱は、実に端正で様式美の美しさのみならず、大きくうねるような感動を醸し出し、メリハリの利いた澱むことのない芝居展開が心地よく、更に新鮮な物語として蘇って来て、二重にも三重にも楽しませてくれたことである。
   
   Kabuki Webによると、近江源氏先陣館~盛綱陣屋は、
   戦場で心ならずも敵同士となった兄と弟。兄は弟を案じ、弟は子を犠牲にしてまでも再起を図り、母は兄弟の板ばさみに苦悶する。戦のために引き裂かれる家族の悲劇。
   盛綱は、弟高綱の名誉のために、母微妙に、人質の小四郎を切腹させてくれと頼み、止む無く承知して小四郎に迫る微妙だが、逃げ回る孫の小四郎に手を下せない肉親の苦悩を秀太郎は実に感動的に演じ、
   逃がすべく忍んで来た母篝火:雀右衛門尾の苦悩、兄嫁早瀬:孝太郎の思いやり、・・・とにかく、盛綱をはじめ、戦国故に、引き裂かれた肉親の忠君、義理人情の板挟みに泣く姿を描いて悲しくも心に染みる舞台を展開する。

   さて、「弁天娘女男白波」だが、面白かった。
   奇麗なお姫さま然として登場した弁天小僧菊之助が、強請りと男だと見破られて、もろ肌脱いで、「 知らざあ言って 聞かせやしょう 浜の真砂と五右衛門が 歌に残せし盗人の 種は尽きねぇ七里ヶ浜・・・」名調子で啖呵を切るこのシーン、
   菊五郎の専売特許のような舞台で、これが、決定版であろうが、一寸砕けた感じで、違った雰囲気の猿之助の弁天小僧も、楽しませてくれる。
   私など、女形の亀治郎から観ているので、花道から登場する乙女姿の方がシックリ行くのだが、一変して、べらんめえ口調と言うかパンチの利いた口調の男に早変わりすると、目も覚めるような鮮やかな啖呵、
   その後の居直った強請りと掛合いが面白い。

   これに、花を添えたのが幸四郎の南郷力丸、
   奇数日には、この幸四郎が弁天小僧を日替わりで演じているののだが、お嬢様を押し出して、浜松屋を強請ろうとする悪であるから、知能犯なのだが、脅しと惚けた雰囲気綯交ぜのキャラクターで、このあたりの軽い芝居も実に上手くて、猿之助との絶妙な共演が出色である。
   この舞台、重鎮白鷗が、日本駄右衛門で登場して舞台を締めているが、菊五郎の舞台のように、名優やベテランで固めた決定版とは違って、亀鶴や笑也が、白波五人男に加わるなど、新鮮な舞台で、楽しませてもらった。
   
   
コメント
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