熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

映画「女王陛下のお気に入り」

2019年03月15日 | 映画
   放映されてから大分経つのだが、アカデミー賞ノミネートの凄い作品で、オリビア・コールマンが女優主演賞を取ったと言うので、たまたま、一回だけ放映されていたので、映画館に出かけた。
   イギリスに長かったので、英国史にも興味もあった。

   映画は、次のようなストーリー、
   18世紀初頭、フランスと戦争下にあるイングランドが舞台。女王アンの幼なじみで、イングランド軍を率いるモールバラ公爵夫人レディ・サラは、病身で気まぐれな女王の側近として女王を傀儡化して絶大な権力を握っていた。そこへ、没落した貴族の娘でサラの従妹のアビゲイルが宮廷にやって来て、サラの働きかけで、アン女王の侍女として仕える。サラはアビゲイルを支配下に置くが、一方でアビゲイルは再び貴族の地位に返り咲く機会を狙っていて、アン女王に徹頭徹尾親切に仕えて、女王のお気に入りになる。サラが落馬して宮廷から離れている最中に、アビゲイルは、アン女王の肝いりで、アビゲイルを思っていた貴族のジョー・アルウィンと結婚して貴族の地位を得る。サラが怪我が癒えて宮廷に現れるが、もう、既に遅しで、アン女王の信任を得て権力を握ったアビゲイルに、追い払われ、結局アン女王から夫婦共々追放される。

   この映画は、英仏戦争をめぐって、戦争推進派のホイッグ党と、終結派のトーリー党の争い、戦費調達のための増税案の推進など、政治的駆け引きが繰り広げられるのだが、サラはホイッグ党支持で、アビゲイルは、国を動かす二人と最も近い位置にいるアビゲイルに目を付けたトーリー党のハーリー側についている。
   もちろん、この映画のタイトルは、”The Favourite"であるから、「お気に入り」
   アン女王と、サラとアビゲイルの対立抗争の物語であって、英国議会風景が出てくるが、政治はあくまで、刺身のつま、
   こんな程度で、イギリスの政治が動いていたとすると、今のBREXITをめぐる狂騒劇以上の不幸である。

   この映画のキャストは、次の通り。

監督:ヨルゴス・ランティモス
オリビア・コールマン:アン女王
エマ・ストーン:アビゲイル・ヒル
レイチェル・ワイズ:レディ・サラ(サラ・チャーチル)
ニコラス・ホルト:ロバート・ハーリー
ジョー・アルウィン:サミュエル・マシャム

   劇評を、そのまま、借用すると、
気まぐれで病弱、それでも頑固に国を守るアン女王を演じるのは、主演女優賞を受賞した名優オリヴィア・コールマン。
貴族への返り咲きを狙う侍女アビゲイルに、『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーン。従順で愛らしい侍女が野心に目覚めていく姿で新境地を開いた。
アン女王の幼馴染として女王の心と絶大な権力を掌握するレディ・サラを、オスカー女優のレイチェル・ワイズが演じた。

   この映画では、アビゲイルが、サラをアン女王の側近から追放したと言うことになっているのだが、実際には、サラは、夫の代弁者となり、ホイッグ党を支持して戦争の遂行を女王に説いていたのだが、次第に女王は和平推進派に傾き始めて、サラを疎むようになって、サラの従妹アビゲイルを重用しトーリー党に近付いていった。 と言うことのようであり、The Favourite争いの結果ではないと言うことである。
   1710年、アンはついにサラを宮廷から追放して、選挙の結果、和平推進派のトーリー党が政権を取って指導者ロバート・ハーレーが政権の頂点に立ち和平が成立したと言う。
   この映画で、アン女王は、17匹のウサギを飼っていたが、6回の死産、6回の流産を含め生涯に17回妊娠したが、一人の子も成人しなかったとかで、その追悼の思いであったのであろう。
   この映画は、モールバラ公の軍資金横領疑惑の問題なども含めて、かなり史実に忠実のようで、興味深い映画であった。
   
   The Favourite競争で興味深いのは、アン女王とサラ、そして、アビゲイルは、レズ関係にあること。
   従妹でありながら、権力者のサラが、侍女から成りあがったアビゲイルを徹頭徹尾苛め抜き、辛く当たるのだが、アビゲイルにとっては、いずれにしても、女王の寵愛を受けて権力を掌握して、生家復興するのが至上命令であって、あらゆる努力をして女王に取り入り、女王はアビゲイルが「口でしてくれた」ことを理由に、寝室付の女官に任命したので、サラがアビゲイル追放を進言しても時既に遅しであった。
   このサラとアビゲイルの間で女王の寵愛をめぐる激しい闘争の凄まじさは、この映画のメインテーマである。
   
   アビゲイルの冷たさを暗示させるのは、生家復興、貴族への回帰の切り札となった貴族のジョー・アルウィンと結婚だった筈なのだが、初夜の床で、ベッドの背もたれに体を預けて座っている、待ちきれないと言う夫に、背を向けて、手を伸ばして手淫でいかせる非情さ。
   先の劇評で、「貴族への返り咲きを狙う侍女アビゲイルに、『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーン。従順で愛らしい侍女が野心に目覚めていく姿で新境地を開いた。」と書いてあるのだが、録画した「ラ・ラ・ランド」を観ようと思う。

   アン女王のオリヴィア・コールマン
   録画で、アカデミー賞のスピーチを観たが、映画とは桁違いに若くて美人、
   45歳だと言うから、
   ウィキペディアよると、アン女王は、
   教養があまりなく、読書や芸術よりスポーツや乗馬を好んだ。・・・肥満体質(ブランデーの飲み過ぎが原因だったと伝えられている)で、どこへ行くにも輿に乗っていたが、晩年は全く歩くことができないほど肥満が進み、宮殿内を移動するにも車椅子を使っていた。崩御後の棺桶は正方形に近いものだったという。なので、イメージに近づこう努力したのであろう。

  レディ・サラを演じたレイチェル・ワイズの理知的でシャープな演技も秀逸。
  ケンブリッジ大学で英文学を学び、劇団「Talking Tongues」を結成して、エディンバラ・フェスティバルで公演し、ガーディアン賞を受賞したと言うから、大変な逸材でもあり、流石にイギリスの女優である。
  
  とにかく、興味深い映画であった。
コメント
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