熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ロシアにとってウクライナは生命線か

2019年05月21日 | 政治・経済・社会
   ロシアが、ウクライナ問題で、欧米の制裁を受け続けている。
   欧米のメディア情報に慣れている我々には、独立国家の国土クリミアを併合したり東部に侵略するのは、どうしても国際法違反であって、ロシアが悪玉に見えるのだが、事情は、結構、複雑なようである。

   T・マーシャルの「恐怖の地政学」を読んでいて、叙述の相当部分は、ウクライナ関係であり、丁度、座右にあったピーター・ゼイハンの「地政学で読む 世界覇権 2030」の中の「ロシア:近づく黄昏」を読んで見てもそうで、最近、地政学が気になっているので、ロシアの地政学的位置づけが、どのように、ロシアの政治に関わっているのか、考えてみた。
   日本では、北方四島の返還が最大の関心事だが、何の記述もなく、要するに、ロシアにとっては、地政学的には問題意識が低いと言うことであろうか。

   まず、ゼイハンだが、ロシアの人口減少が致命的で、数世代後には、ロシアの国家としての存続、ロシア人が民族として生き延びるのは不可能になってくると言わざるを得ない、と、信じられないようなことを言っているのだが、これは、これとしても、
   ロシアにとって唯一かつ最大の不安要素、それはウクライナだとして、独立したウクライナは、どのような形を取ろうと、ロシアにとって脅威となり、2020年までに対応すべき一つ目の脅威だ。と述べている。
   ウクライナは、
   小麦生産地帯としては唯一最も生産性の高い最も低投資・高収益の土地
   モルドバと共にベッサラビアの開口部で対トルコの重要拠点
   国外で最大のロシア民族の居住地
   ウクライナ東部の産業基盤を統合すれば国力増強
   ヨーロッパへの石油およびガスパイプラインの政治的利用
   緩衝地帯として重要
   不凍港セヴァストポリのロシア軍港の存在
   それに、ロシア立国の故地でもある

   ロシアにとって、ドニエプル川の河口に位置するクリミア半島にある、ロシアの唯一の不凍港セヴァストポリの完全確保支配は死活問題であって、クリミアの統合は、必然だと言うわけで、まして、ウクライナを南下する旧ソ連の唯一の航行可能なドニエプル川は、黒海、マルマラ海、その先の世界と経済的に統合されていて、ウクライナは、最も資本が豊かな国であって、完全に独立して運命を切り開ける国であり、安々と、ロシアを袖にして、西欧側に加担するなど、絶対に許すわけには行かない。と言うことである。

   マーシャルによると、プーチンは、ロシアの防衛力が弱まったのは、ゴルバチョフの責任だとして毛嫌いしており、1990年のソ連の崩壊は、「今世紀最大の地政学的惨事」だと呼んでいると言う。
   本来、ロシアの一部であったクリミア半島を、1954年に、ウクライナに譲渡したのは、フルシチョフなのだが、当時は、ソ連が健在で、モスクワの永遠管理だ考えられていたので問題はなかったのだが、ソ連が崩壊して、ウクライナがロシア寄りでなくなった以上、プーチンは、これを看過するわけには行かなくなった。

   プーチンは、この状況を変えなければならないとして、「初心者のための外交述」における基本ルール、「国の存続にかかわる脅威に直面した時、大国は武力行使をする」を実行しただけだと言う。マーシャルの指摘が興味深い。
   このことを、西側の外交官は知っていたのかどうか。
   気づいていたのなら、ウクライナを現代のヨーロッパと西洋勢力の影響下に組み入れるのなら、プーチンのクリミア併合を価値ある代償としたに違いない。と指摘しているのは、興味深い。
   ロシアの軍港が、クリミア半島の不凍港セヴァストポリに存在し続ければ、ロシアとウクライナの利害衝突は永遠であって、ウクライナのままクリミアが西欧世界に組み入れられれば、戦争の導火線となるのは必然的であって、既成事実が成立してしまった以上、両陣営とも国際紛争を避けるためにも、実行支配が継続するのであろう。

   さて、ロシアだが、人口は、1億4680人 (日本 1億2667万人)
            GDPは、1,630,659百万US$ (日本 4,971,929百万US$〉
   人口は、ロシアの方が、少し、多いようだが、経済力は、購買力平価で表示すれば、もう少し、差が縮小するであろうが、ほぼ、日本の3分の1、
   産業と言えば、宇宙・航空・情報通信産業等の軍需産業は突出しているとしても、さしたる工業大国でもなく、輸出の6割以上を原油や天然ガスなどの鉱物資源に頼る資源依存の経済構造であり、BRICSの一角と言われながらも、経済成長は停滞している。
   外観を展望しただけだが、このブログのロシア紀行で書いたように、モスクワもサンクトペテルブルクも、古色蒼然たる町並みで、殆ど振興の近代ビルの姿はなく、近代建築が林立する中国やアセアンの大都市などと比べて、ビックリした。
   さすれば、あの世界に冠たる強大な軍事力と国威の発揚とそのプレゼンスは、どこから来るのか。
   GDPが、アメリカの1100分の1の某国の驚異的な軍事力と同様に、私には、驚異なのである。

   チャーチルが、「ロシア人がもっとも礼賛するのは、強さである。そして、弱さ、中でも軍事的弱さを忌み嫌う。」と言っている。
   民主主義のマントを纏っていても、本質的には専制政治のままで、その根底には国益があるから、現代のロシアの指導者にも当てはまる。

   ロシアの永遠の悲願は、「凍らない港」。
   シリア政府をサポートして必死になってシリアの地中海沿岸のタルトゥースの小さなロシアの海軍駐留軍を守るのも、クリミアを併合して不凍港セヴァストポリのロシア軍港を完全に掌握するのも、すべて、このため。

   次にロシアにとって大きな問題は、北ヨーロッパの国境地帯に位置するポーランド、ベラルーシ、エストニア・ラトビア・エストニアのバルト三国で、中立でいてくれれば良いが、それは不可能であり、プロロシアのベラルーシとの同盟なり統合があり得るであろうが、解決すべき脅威だと言う。
   ロシアが崩壊して、一気に、ソ連の構成国が分離独立し、多くの東欧諸国は、EUに加盟し、NATOの構成員となり、今や、隣国からミサイルが飛んで来ようとしている。
   
   四面楚歌で、経済制裁下にあるロシアが、どのようにして、活路を見出そうとするのか。
   窮鼠猫を嚙むと言う状態に、陥らなければ良いのに、と願っている。
   
コメント
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