熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

大前研一 著「世界の潮流2020~21」

2020年12月13日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   久しぶりに大前研一の本、手っ取り早く現今の世界の潮流を摑みたくてページを繰った。
   著者の本は、これまで随分読んできているので、それ以降の理論展開に注意を向けて読み進んだのだが、ほぼ既知の常識的な展開で、安倍批判にしても、はっきりと直言しており、殆ど異論を感じなかった。
   出版が20年6月なので、少しは、コロナについて触れているが、トランプ敗退の米国大統領選挙には言及していないので、多少、理論展開に違いが出てくるであろうが、ほぼ、カレントトピックス的展開である。
   ここでは、著者の予測に鑑み、トランプ後のアメリカにつて、考えてみたい。

   まず、トランプ現象だが、僅か、三年でアメリカの民主主義の基盤をすっかり破壊してしまった。と説く。
   メキシコ国境の壁の建設、TPP、NAFTA,パリ協定、NATOからの離脱発表、米朝首脳会談の決定、中国に対する制裁関税など、重要な政策を議会に諮らず、自分の判断で「大統領令」としてツィッターで勝手に配信し、自分の意見に反対する有能な閣僚たちを片っ端からクビにして、まともで優秀な人材がどんどんいなくなり、気がつけば、政府内にはトランプファミリーしか残っていない。
   三権分立の司法に関しても、躊躇なく保守派の裁判官を指名し、トランプ有利となり、異常事態を糾弾して正しい方向を示す第四の権力であるメディアに攻撃されても、自分に都合の悪いことはすべて「フェイクニュース」と糾弾して葬り去る。
   経済政策に対しても、クルーグマンが論理的にその欠陥を説明しても、一切聞く耳を持たず、独立性を担保されている筈の中央銀行の政策にも、躊躇なく介入し、FRB議長に圧力を掛けて利下げを強要する。
   トランプ・ベノム(毒蛇ややサソリなどが分泌する毒液)が、アメリカの三権分立、マスコミのチェック機能、中央銀行の独立を壊し、官僚、議会、軍のシステムもこれにやられ、トランプの思いつき外交の毒で、国際協調と世界秩序の枠組みも破壊され、さらにこの毒が、米中関係の緊張もエスカレートさせた。
   更に、トランプ・ベノムには、民主党、マスコミ、識者などから発せられる意見や批判をたちまち無力化する解毒効果もあるので厄介だ。と言う。
   このあたりの、トランプが、確たる世界観も政治哲学も持ち合わさず、如何に無知無能であり、心理的精神的にも大統領不適格者であるかは、これまでのメディアの報道や、ジョン・ボルトンなどの多くのトランプ暴露本を読めば、話半分にして聞いても、分ることかも知れない。

   今回の大統領選挙の展開について、著者は、直接触れていないが、興味深い指摘をしている。
   トランプの命運もこれまでで、まともな人物が大統領に選ばれても、アメリカは元のような状態に戻ることはないだろう。そう簡単に治らないほど、トランプの毒は、米国国民の精神を蝕んでしまったのだ。
   たとえば、オバマのような理性的な人物が選ばれ、議会と上手く折り合いをつけながら国を運営しようとしても、トランプ劇場を見慣れた国民にとっては、物足りなく感じてしまうはずである。そのため、次期大統領は「やっと正常化した」と最初のうちは歓迎されても、すぐに、「建前を言うな」「トランプのように自分の考えを直接発信しろ」とブーイングが起きるのは必至だろう。
   今後のアメリカは国民は長期にわたり、トランプを大統領に選出したツケを払い続けることになるに違いない。

   この見解には、異存はなく、的確にアメリカの民主主義の現状を述べている。
   トランプ党と化してしまった保守党の無法ぶりや、保守党支持者の90%が、まだ、トランプが選挙に敗退したことを認めておらず、一部には熱狂的にトランプ支持デモを行っており過激化していることの異常さには恐怖さえ覚えており、何故、アメリカが、これほどまでに、良識を失い民主主義を否定して貶めるような状態になってしまったのか、信じられないのである。

   さて、世界経済の動向については、米中対立をはじめとする地政学的緊張の高まりから世界経済が、同時減速する中で、欧米経済は停滞が続くジャパニフィケイションに陥るとして、その要因となる世界的に高まるリスクとして、
   1.米中覇権争い 2.香港問題 3.不安定化する中東情勢 4.英国のEU離脱問題 5.拡大するポピュリズム を挙げている。
   さて、これらは、トランプ後の米国では、どう変るのか。
   対中問題については、やはり、バイデンでも強硬路線が継承されるようだが、もう少し、貿易面では対話の余地があるであろうが、人権問題や香港問題では強硬となろう。
   ポピュリズムについては、今や殆どの国が、「ミー・ファースト」のポピュリストの独裁国家の様相を呈し始めた感じであるが、バイデン外交で変るであろうか。

   また、二一世紀のあるべき姿では、機能不全に陥っている国際会議と国際機関について論じているが、この点では、トランプがやりたい放題をやっていた、TPP離脱、パリ協定離脱、イラン核合意離脱、WTOやWHOや国連などへの横やりなど、バイデンは、旧へ復する政策のようであるから、「分断」から「連帯」への移行が進むかも知れない。
   著者は、これからの人類にとって最も重要な課題は、「人権」と「環境」だと指摘しているが、少なくとも、「環境」の問題については、国際的な協調体制の進展が期待されるであろう。

   間違いなく、10年以内に、中国が、総GDPで、アメリカを凌駕して、世界一の経済大国になると思われるGゼロの世界で、アメリカがどう対応するのか、その第一歩が、トランプの陰を背負ったバイデンに託されている。
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