ケンウッドのロイヤル・オペラの野外公演は、都合、4年間鑑賞したが、先回のドミンゴの「トスカ」と比べて、第3回目の「サムソンとデリラ」と第4回目の「トスカ」は、天候の悪化のために、途中で席を立たざるを得ない苦い経験をした。
この二回とも、グラス席ではなく、かなり良い位置の椅子席だったので、私一人だったら最後まで居たかも知れないのだが、小学生の次女と一緒であったので諦めた。
「サムソンとデリラ」は、決して出来の悪い公演ではなかったが、その前に、同じ舞台を、コベント・ガーデンのロイヤル・オペラ・ハウスで、プラシッド・ドミンゴのサムソンで観ており、他のキャストは全く同じで、デリラのオルガ・ボロディーナには感嘆しきりではあったが、サムソンがロシアのテナー・アンドレイ・ポポフに代わっていて、如何せん、その落差が激し過ぎた。
ポポフの端正な美声も、野外のオープン・エアーのために声も飛び、味気なくて何の飾り気もないコンサート形式であり、比較するのも無理だが、こんなにもスーパー・スターのドミンゴが偉大なのかを思い知った。それに、あまりの素晴らしさに度肝を抜かれたロシアのメゾ・ソプラノのボロディーナの迫力に対抗できるテナーは、ホセ・カレーラスでもダメで、ドミンゴしかないと感じた。
ところで、その夜は、尋常の寒さではなく、用意していったセーターやバーバリーのコートを着込んでも寒くて堪らず、まず真っ先に娘が音を上げたので、じっと座っておれなくなって、第3幕をギブアップして帰ってしまった。
第4回目(1993年)の「オテロ」は、ヴラディーミル・アトラントフのオテロ、カーティア・リッチャレッリのデズデモーナ、フスティーノ・ディアスのイア―ゴ、それに、指揮はクリストフ・フォン・ドホナーニ、と言う豪華版で、大いに期待して出かけた。
その前に、このロイヤル・オペラで、ゲオルグ・ショルティ指揮、ドミンゴのオテロ、キリ・テ・カナワのデズデモーナ、セルゲイ・ライフェルカスのイアーゴと言う伝説的な舞台を観て感動し、ムーティ指揮のミラノ・スカラ座の舞台を二回、少し前に、ルネ・フレミングのロイヤルの舞台など、結構観ているのだが、このケンウッドの異色な舞台は非常に魅力を感じていた。
ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーのシェイクスピアの舞台も素晴らしいが、シェイクスピアに触発されて作曲したヴェルディのオペラの素晴らしさは、二人の偉大な芸術家の魂の爆発のような気がして深い感慨を覚える。
ところが、この日は、あいにく雨で、悲しいかな、ずぶ濡れの椅子には、座っておれなくて、それに、寒い。
我慢できなくなって、最初は一人二人だったが、多くの観客が、席を立ち始めて、グリーン席の客は、直接地面に座っているのであるから、斜面の雨水が流れてきて堪らない。
結局、第1幕の終わり近くになって、妻と娘が席を立った。二人とも私ほどオペラに対して執着がないので、さっさと帰ろうとするが、こっちには未練が残る。
今回は、望遠レンズをつけた一眼レフの他に、8ミリビデオまで持ってきたので、せめても、デズデモーナとオテロの二重唱だけでも撮って帰ろうと思って、横殴りの激しい雨に傘を差して待って、途中で諦めて、木陰に駆け込んだ。
雨の中を、広いケンウッドの公園を小走りに横断し、ハムステッド・ヒースの高級住宅街を通り抜けて車に向かう。
一寸小降りになったかと思って歩いていると、第1幕が終ったのか拍手の音がして、続いて、マイクで、天候のコンディションが悪いので、寒くて歌手が堪えられないので、第2幕を省略して続行すると報じている。
マイクは使用しているが、吹きさらしのオープンな舞台で、雨がザァザァ降りしきり、気温がどんどん下がっており、それに、観客が浮き足立って前で右往左往しているような状態で、歌手も正常な状態で歌えるはずがない。
カーティア・リッチャレッリのデズデモーナの歌う「柳の歌」を、どれほど聴きたかったか。
キリ・テ・カナワの、そして、ルネ・フレミングの「柳の歌」にも、どれほど、感激したか、
ヴェルディの「レクイエム」で一度だけしか、リッチャレッリの生を聴いたことがないのだが、その儚い期待もパーになってしまった残念な思い出である。
良く晴れた爽やかな日の夜のロンドンの野外コンサートは、本当に気持ちよく至福のひとときを楽しめるのだが、この日のように、横殴りの激しい雨に打たれて寒さに震え上がるような巡り合わせになると、まさに天国と地獄のような激しい落差。
翌年、イングリッシュ・ヘリティッジから、ケンウッドの野外オペラの案内状が、帰国していたので、イギリスから転送されてきたのだが、オテロの第2幕キャンセルのお詫びとして5ポンドのバウチャーが同封されていた。
ロンドンで、夏の夜、各地で、野外コンサートが開かれて人気を博しているのは、気持ちの良い広々とした公園で、気楽なピクニック気分で飲食に興じながら、オペラなりクラシック音楽なり、ジャズなりを楽しめるからであろう。
夏には、英国のみならず、ヨーロッパ各地で、公園や、ローマ時代のアリーナや、古城や宮殿、古い教会や、歴史的遺産や遺跡・廃墟などで、カラフルな照明にライトアップされて、野外コンサートやイヴェントが開かれる。
イタリアのヴェローナの巨大なローマ時代の野外劇場での、「アイーダ」と「トゥーランドット」が最も印象にのこっているが、他の印象記についても、追々書いてみたいと思っている。
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この二回とも、グラス席ではなく、かなり良い位置の椅子席だったので、私一人だったら最後まで居たかも知れないのだが、小学生の次女と一緒であったので諦めた。
「サムソンとデリラ」は、決して出来の悪い公演ではなかったが、その前に、同じ舞台を、コベント・ガーデンのロイヤル・オペラ・ハウスで、プラシッド・ドミンゴのサムソンで観ており、他のキャストは全く同じで、デリラのオルガ・ボロディーナには感嘆しきりではあったが、サムソンがロシアのテナー・アンドレイ・ポポフに代わっていて、如何せん、その落差が激し過ぎた。
ポポフの端正な美声も、野外のオープン・エアーのために声も飛び、味気なくて何の飾り気もないコンサート形式であり、比較するのも無理だが、こんなにもスーパー・スターのドミンゴが偉大なのかを思い知った。それに、あまりの素晴らしさに度肝を抜かれたロシアのメゾ・ソプラノのボロディーナの迫力に対抗できるテナーは、ホセ・カレーラスでもダメで、ドミンゴしかないと感じた。
ところで、その夜は、尋常の寒さではなく、用意していったセーターやバーバリーのコートを着込んでも寒くて堪らず、まず真っ先に娘が音を上げたので、じっと座っておれなくなって、第3幕をギブアップして帰ってしまった。
第4回目(1993年)の「オテロ」は、ヴラディーミル・アトラントフのオテロ、カーティア・リッチャレッリのデズデモーナ、フスティーノ・ディアスのイア―ゴ、それに、指揮はクリストフ・フォン・ドホナーニ、と言う豪華版で、大いに期待して出かけた。
その前に、このロイヤル・オペラで、ゲオルグ・ショルティ指揮、ドミンゴのオテロ、キリ・テ・カナワのデズデモーナ、セルゲイ・ライフェルカスのイアーゴと言う伝説的な舞台を観て感動し、ムーティ指揮のミラノ・スカラ座の舞台を二回、少し前に、ルネ・フレミングのロイヤルの舞台など、結構観ているのだが、このケンウッドの異色な舞台は非常に魅力を感じていた。
ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーのシェイクスピアの舞台も素晴らしいが、シェイクスピアに触発されて作曲したヴェルディのオペラの素晴らしさは、二人の偉大な芸術家の魂の爆発のような気がして深い感慨を覚える。
ところが、この日は、あいにく雨で、悲しいかな、ずぶ濡れの椅子には、座っておれなくて、それに、寒い。
我慢できなくなって、最初は一人二人だったが、多くの観客が、席を立ち始めて、グリーン席の客は、直接地面に座っているのであるから、斜面の雨水が流れてきて堪らない。
結局、第1幕の終わり近くになって、妻と娘が席を立った。二人とも私ほどオペラに対して執着がないので、さっさと帰ろうとするが、こっちには未練が残る。
今回は、望遠レンズをつけた一眼レフの他に、8ミリビデオまで持ってきたので、せめても、デズデモーナとオテロの二重唱だけでも撮って帰ろうと思って、横殴りの激しい雨に傘を差して待って、途中で諦めて、木陰に駆け込んだ。
雨の中を、広いケンウッドの公園を小走りに横断し、ハムステッド・ヒースの高級住宅街を通り抜けて車に向かう。
一寸小降りになったかと思って歩いていると、第1幕が終ったのか拍手の音がして、続いて、マイクで、天候のコンディションが悪いので、寒くて歌手が堪えられないので、第2幕を省略して続行すると報じている。
マイクは使用しているが、吹きさらしのオープンな舞台で、雨がザァザァ降りしきり、気温がどんどん下がっており、それに、観客が浮き足立って前で右往左往しているような状態で、歌手も正常な状態で歌えるはずがない。
カーティア・リッチャレッリのデズデモーナの歌う「柳の歌」を、どれほど聴きたかったか。
キリ・テ・カナワの、そして、ルネ・フレミングの「柳の歌」にも、どれほど、感激したか、
ヴェルディの「レクイエム」で一度だけしか、リッチャレッリの生を聴いたことがないのだが、その儚い期待もパーになってしまった残念な思い出である。
良く晴れた爽やかな日の夜のロンドンの野外コンサートは、本当に気持ちよく至福のひとときを楽しめるのだが、この日のように、横殴りの激しい雨に打たれて寒さに震え上がるような巡り合わせになると、まさに天国と地獄のような激しい落差。
翌年、イングリッシュ・ヘリティッジから、ケンウッドの野外オペラの案内状が、帰国していたので、イギリスから転送されてきたのだが、オテロの第2幕キャンセルのお詫びとして5ポンドのバウチャーが同封されていた。
ロンドンで、夏の夜、各地で、野外コンサートが開かれて人気を博しているのは、気持ちの良い広々とした公園で、気楽なピクニック気分で飲食に興じながら、オペラなりクラシック音楽なり、ジャズなりを楽しめるからであろう。
夏には、英国のみならず、ヨーロッパ各地で、公園や、ローマ時代のアリーナや、古城や宮殿、古い教会や、歴史的遺産や遺跡・廃墟などで、カラフルな照明にライトアップされて、野外コンサートやイヴェントが開かれる。
イタリアのヴェローナの巨大なローマ時代の野外劇場での、「アイーダ」と「トゥーランドット」が最も印象にのこっているが、他の印象記についても、追々書いてみたいと思っている。
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