熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

6・ハンプトン・コートのホセ・カレーラス(その1)

2020年12月20日 | 欧米クラシック漫歩
   ロンドン郊外のハンプトン・コート宮殿で、夏の夜に野外コンサートが開かれていて、ホセ・カレーラスのリサイタルがあったので、聴きに行った。
   当時、それ程遠くないキュー・ガーデンに住んでいたので、ロンドンのオペラ・ハウスやコンサート・ホールに行くよりは近くて、格好の野外コンサートであった。
   地球温暖化の今は分らないが、当時は、エアコンが欲しいと思うような日は、年に数日程度しかなくて、一般家庭には冷房装置はなかったし、高級ホテルでも、米系ホテル以外なかったほどで、それ程、ヨーロッパの夏の気候は快適で、天気の良い夏の夜長は、野外での芸術鑑賞には最高の時期であった。

   このハンプトン・コート宮殿でも、常設のコンサートではなく、オペラや室内楽などのリサイタルが開かれていたようであるが、この日は、宮殿の中庭に舞台と客席を設えての仮設舞台であったが、宮殿は開放されていて古風な衣装を身につけた楽団員が小部屋で楽を奏していたり接客をしたりしていて、タイムスリップした王宮にいる感じであり、回りの古い煉瓦づくりの建物がカラフルに照明で輝き、音楽フェスティバルの雰囲気抜群であった。
   それに、イギリスの夏の日暮れは遅くて、広大な美しい庭園が開放されていて、屋台も出ているので、コンサート前と休憩時に、ピクニックや散策を楽しんでいる着飾った客も多い。
   このハンプトン・コート宮殿へは、テームズ川沿いにキューガーデンのあるリッチモンド・パークを経て、英国王室の狩り場であった広大な公園と緑地が広がっていて、野生の鹿が放し飼いで、小動物や鳥の天国である。
   エリザベートプランテーションの大シャクナゲは、初夏には豪華絢爛と咲き乱れて美しく、また、近くの高台の瀟洒なホテルの庭から、夕日を浴びて金色に輝きながら蛇行するテームズ川を遙かに見下ろしながら味わうハイティのおいしさなど、公園での散策やスポーツ以外にも楽しみが多い。
   今日はパリ、明日はベルリンと、ヨーロッパ人と切った張ったの激務に明け暮れていたので、寸暇を惜しんで、ロンドン郊外の緑野を散策するのが楽しみであった。

   ハンプトン・コート宮殿は、16世紀にカーディナル・ウォルセイが建てたチューダー様式の王宮で、あまりの壮大さにヘンリー8世を怒らせて取り上げられた曰く付きの宮殿で、その後、ヘンリー8世が手を加えて今日の豪壮な規模に仕上げた。シェイクスピア時代の少し以前のことである。
   当時、ウインザー城が火災に遭って、紅蓮の炎をあげて炎上しているのをテレビで観て驚いたのであるが、同じく、このハンプトン・コート宮殿も火災で燃え上がっていたのを知っていたので、行きそびれていたので、この日が最初の訪問であった。
   当時の女王陛下の居城は、バッキンガム宮殿とウィンザー城であったが、かっては、ロンドンのビッグ・ベンのある国会議事堂の側の船着き場から、王族は、ハンプトン・コートへは、舟で行き来していて、ここから、ウインザー城へも、レガッタで有名なヘンリーを経て、テームズ川を上って船で行けるのである。

    さて、コンサート当日は、夕方6時から王宮の門が開かれて、フェスティバル客に王宮全体が開放された。
    ピクニック形式の夕食もウエルカムで、王宮の広いグリーンに、それぞれ思い思いにカーペットや敷物を敷き、シャンペンやワインを飲みながらサンドイッチを食べたりゆっくりとディナーを楽しんでいる。
   グリーンの中央の円形舞台では、ブラスバンドが軽快な音楽を奏しており、あっちこっちでは、高い高下駄を履いた道化が客と戯れ、大道芸人が思い思いの芸を披露している。
   ベルサイユ宮殿を模したという幾何学紋様にレイアアウトされた大噴水公演のグリーンも客に開放されていて、ピクニックを楽しむ客で賑わっている。

   王宮の建物も客に開放されていて、自由に内部を出入りできる。
   日頃あっちこっちにいる番人たちは、この日は、当時の歴史的な古風な衣装を身につけていて、まさに、英国版時代劇の世界が再現されて感動である。
   大広間の片隅では、ストリング・カルテットが音楽を奏しており、中央の女王の客間では、エレガントで古風なドレスを身につけた若い女性奏者がハープを奏でている。
   この王宮は、英国でも有数な歴史的建造物で、おのおのの部屋も、それぞれ豪華で優雅な雰囲気を持っており、散策するだけでも楽しい。
   別の広いカーツーン・ギャラリーでは、芸人たちが中世劇を演じている。ヴァイオリンと古いピアノを伴奏に、何組かの男女が優雅にメヌエットを踊っており、後方で、女王が、家来を従えて鑑賞しているという趣向であろうか。
   当時のシェイクスピア時代の面影の再現か、エリザベス女王は、屈指の踊り手であったと言うから、この宮殿でステップを踏んだ事もあったかも知れないと思うと面白い。
   踊りがたけなわになってくると、一般客も、踊りの輪に加わって、輪が広がる。
   普通の男女が、古いコスチュームを着て楽を奏し踊っているだけなのだが、近づいてきて話しかけられると、何となくドギマギしてしまうのが不思議である。

   さて、ホセ・カレーラスのリサイタルだが、明日の記事としたい。
   
   
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