ハーバード大学のジェイソン・ファーマン教授が、プロジェクト・シンジケートに「The Economic Consequences of the Ukraine War」を投稿した。
先に紹介したルービニ教授とは、一寸違った切り口から論じているので、興味深い。
ロシアのウクライナ侵攻は、急激であり劇的であったが、グローバル経済へのその帰結は、実際の影響は、より緩やかで、明確ではない。しかし、ウクライナよりも、この攻撃によって、はるかに、最大かつ長期に亘って被害を被るのは、ロシア自身である。と結論づけている。
省略形だが、経済的帰結の要旨は、ほぼ、次の通りである。
世界の金融市場は敏感に反応して、一時株価が暴落した。ロシアの株価も攻撃後一気に暴落したが、西側の経済制裁は、即時に劇的な効果を与えたようには見えない。
むしろ、ロシアは、他国と違って制裁には強い対抗力がある。ロシアは、巨大な当座勘定の増額を重ねており、現在、$630 billion の外貨準備を保有しており、殆ど2年間の貿易をカバーできる。ロシアはヨーロッパへの輸出収入に頼っており、ヨーロッパはロシアの石油と天然ガスに頼っていて、短期での代替は難しい。
しかし、長期的には、ロシアが、この紛争からの最大の経済的敗北者になる。ロシアの経済およびロシア人の生活安寧は、2014年のクリミア併合以来、米欧の経済制裁によって停滞し続けている。今回の更に大規模な攻撃によって生じる崩落は、かってなかった程の打撃となろう。経済制裁が、徐々に効き始めて、ロシアが世界から孤立し、投資家の信用を落とし、貿易や経済的連携を弱めていく。同時に、ヨーロッパが、ロシアへの化石燃料への依存を削減することが期待出来る。
(他の情報によるると、ロシアの国家債務率は、高々20%代位のようで、財政的には恵まれていても、今回の経済制裁のように、SWIFTからの追放や中銀との取引中止等国際金融部門の関係を絶たれてしまったら、殆ど役に立たないし、まず、ルーブルの暴落と輸入禁止が国民生活を直撃するであろう。中国やブラジルなど、プロロシアの国が、どれだけ、サポートするかによるが、今回のロシアの戦争で、一気にロシアの信用が地に落ちて、特に、米日欧など民主主義先進国は、ロシア抜きの経済体制を築いて行き、結果的にロシアの窮乏化をさらに進めていくであろう。)
ロシア以外の世界の国の長期的な帰結は、ロシアほど深刻ではないが、為政者には、更に対応が迫られるであろう。更に激しい短期的なインフレーションが、インフレ期待を呼び覚ますであろうリスクがあり、これが起こると、既に困難な問題に直面している中央銀行に更なる過重を課すことになる。
加えて、軍事予算が、ヨーロッパやアメリカ、そして、他国で増額されて、グローバル環境を一層危険な状態に追い込む。GDP成長が鈍化し、人々の生活安寧を害し、防衛に多くの資源が投入されるので、消費や教育、変更、インフラ等への投資へ振り向ける原資が枯渇する。
ウクライナに対するロシアの戦争に関する中長期的な影響は、選択次第である。ロシアは侵略を選び、米欧や他国は、経済制裁を選択した。しかし、ロシアがどのように反応するのか、他国が更なるペナルティを課すのかは未定である。米欧等の経済制裁とロシアの反応がエスカレートする程度に応じて、まず、最初にロシアに対して、そして、グローバル経済の他国に対して、コストが増大して行く。
グローバル経済は、ポジティブ・サムである。ロシアの隔離は、ポジティブ・サムの小さな削減である。もっと悪いことには、不確定は経済にとって決して良くないと言うことである。
しかし、世界が、ロシアの侵略に関わり続けて行けば、GDP懸念は、比較的マイナーな問題となる。世界中の人々にとってもっと重要になるのは、平和で安全であると感じることである。世界のリーダー達が目指すべきはこの問題以上の使命はない。
以上が、ファーマソン教授の論旨だが、経済的帰結よりも、平和が問題だと言うことには異存はない。
第二次世界大戦以降、紛争地帯での小競り合いや代理戦争などは、結構各地で頻発していたが、グローバルベースの平和は、維持されてきた。
超大国アメリカが、ヴェトナムとイラク、そして、アフガニスタンで、直接手を下して戦争を行ってきたが、まだ、覇権国家として超大国としての国際的影響力を維持していたので、グローバルベースで深刻な問題を引き起こすまでには至っていなかったが、今回のロシアは、軍事大国であったとしても、国力と国際的影響力は、弱体な経済力同様に、陰りを見せていて、そのインパクトは桁違いに低い。
今回のウクライナ戦争で、ロシアは、ハードパワーを使い尽くして、築き上げてきたソフトパワーも犠牲にして、ジョセフ・ナイ教授が説く国力の根幹であるスマート・パワーを、総べて棒に振ろうとしている。
国際法を完全に無視して、グローバル秩序をズタズタに破壊して、世界平和を窮地に追い込んだロシアの暴挙を、世界の良識は許すはずがない。いかなる状況になろうとも、ウクライナの戦争が、米欧が何らかの形で加担して介入したり、あるいは、ゲリラ戦争化したりして、長期化する可能性は非常に高い。
アメリカのGDPの14分の1(2020年)しかない経済弱小国のロシアの国力が、それに、堪えられるはずがなく、まして、米欧日の先進国に対峙できる能力など更々なく、ロシアのプーチニズムの実現前に、ロシアの落日が訪れる。ソ連が崩壊したのは、軍事に入れ込みすぎて、過大な軍事支出に圧殺されたと言う単純明快な教訓さえ失念した愚かさを笑うには、あまりにも代償が大きすぎる。
先に紹介したルービニ教授とは、一寸違った切り口から論じているので、興味深い。
ロシアのウクライナ侵攻は、急激であり劇的であったが、グローバル経済へのその帰結は、実際の影響は、より緩やかで、明確ではない。しかし、ウクライナよりも、この攻撃によって、はるかに、最大かつ長期に亘って被害を被るのは、ロシア自身である。と結論づけている。
省略形だが、経済的帰結の要旨は、ほぼ、次の通りである。
世界の金融市場は敏感に反応して、一時株価が暴落した。ロシアの株価も攻撃後一気に暴落したが、西側の経済制裁は、即時に劇的な効果を与えたようには見えない。
むしろ、ロシアは、他国と違って制裁には強い対抗力がある。ロシアは、巨大な当座勘定の増額を重ねており、現在、$630 billion の外貨準備を保有しており、殆ど2年間の貿易をカバーできる。ロシアはヨーロッパへの輸出収入に頼っており、ヨーロッパはロシアの石油と天然ガスに頼っていて、短期での代替は難しい。
しかし、長期的には、ロシアが、この紛争からの最大の経済的敗北者になる。ロシアの経済およびロシア人の生活安寧は、2014年のクリミア併合以来、米欧の経済制裁によって停滞し続けている。今回の更に大規模な攻撃によって生じる崩落は、かってなかった程の打撃となろう。経済制裁が、徐々に効き始めて、ロシアが世界から孤立し、投資家の信用を落とし、貿易や経済的連携を弱めていく。同時に、ヨーロッパが、ロシアへの化石燃料への依存を削減することが期待出来る。
(他の情報によるると、ロシアの国家債務率は、高々20%代位のようで、財政的には恵まれていても、今回の経済制裁のように、SWIFTからの追放や中銀との取引中止等国際金融部門の関係を絶たれてしまったら、殆ど役に立たないし、まず、ルーブルの暴落と輸入禁止が国民生活を直撃するであろう。中国やブラジルなど、プロロシアの国が、どれだけ、サポートするかによるが、今回のロシアの戦争で、一気にロシアの信用が地に落ちて、特に、米日欧など民主主義先進国は、ロシア抜きの経済体制を築いて行き、結果的にロシアの窮乏化をさらに進めていくであろう。)
ロシア以外の世界の国の長期的な帰結は、ロシアほど深刻ではないが、為政者には、更に対応が迫られるであろう。更に激しい短期的なインフレーションが、インフレ期待を呼び覚ますであろうリスクがあり、これが起こると、既に困難な問題に直面している中央銀行に更なる過重を課すことになる。
加えて、軍事予算が、ヨーロッパやアメリカ、そして、他国で増額されて、グローバル環境を一層危険な状態に追い込む。GDP成長が鈍化し、人々の生活安寧を害し、防衛に多くの資源が投入されるので、消費や教育、変更、インフラ等への投資へ振り向ける原資が枯渇する。
ウクライナに対するロシアの戦争に関する中長期的な影響は、選択次第である。ロシアは侵略を選び、米欧や他国は、経済制裁を選択した。しかし、ロシアがどのように反応するのか、他国が更なるペナルティを課すのかは未定である。米欧等の経済制裁とロシアの反応がエスカレートする程度に応じて、まず、最初にロシアに対して、そして、グローバル経済の他国に対して、コストが増大して行く。
グローバル経済は、ポジティブ・サムである。ロシアの隔離は、ポジティブ・サムの小さな削減である。もっと悪いことには、不確定は経済にとって決して良くないと言うことである。
しかし、世界が、ロシアの侵略に関わり続けて行けば、GDP懸念は、比較的マイナーな問題となる。世界中の人々にとってもっと重要になるのは、平和で安全であると感じることである。世界のリーダー達が目指すべきはこの問題以上の使命はない。
以上が、ファーマソン教授の論旨だが、経済的帰結よりも、平和が問題だと言うことには異存はない。
第二次世界大戦以降、紛争地帯での小競り合いや代理戦争などは、結構各地で頻発していたが、グローバルベースの平和は、維持されてきた。
超大国アメリカが、ヴェトナムとイラク、そして、アフガニスタンで、直接手を下して戦争を行ってきたが、まだ、覇権国家として超大国としての国際的影響力を維持していたので、グローバルベースで深刻な問題を引き起こすまでには至っていなかったが、今回のロシアは、軍事大国であったとしても、国力と国際的影響力は、弱体な経済力同様に、陰りを見せていて、そのインパクトは桁違いに低い。
今回のウクライナ戦争で、ロシアは、ハードパワーを使い尽くして、築き上げてきたソフトパワーも犠牲にして、ジョセフ・ナイ教授が説く国力の根幹であるスマート・パワーを、総べて棒に振ろうとしている。
国際法を完全に無視して、グローバル秩序をズタズタに破壊して、世界平和を窮地に追い込んだロシアの暴挙を、世界の良識は許すはずがない。いかなる状況になろうとも、ウクライナの戦争が、米欧が何らかの形で加担して介入したり、あるいは、ゲリラ戦争化したりして、長期化する可能性は非常に高い。
アメリカのGDPの14分の1(2020年)しかない経済弱小国のロシアの国力が、それに、堪えられるはずがなく、まして、米欧日の先進国に対峙できる能力など更々なく、ロシアのプーチニズムの実現前に、ロシアの落日が訪れる。ソ連が崩壊したのは、軍事に入れ込みすぎて、過大な軍事支出に圧殺されたと言う単純明快な教訓さえ失念した愚かさを笑うには、あまりにも代償が大きすぎる。