熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ポール・クルーグマン:ウクライナ戦争、中国は何故ロシア経済を救済できないのか?Why China Can’t Bail Out Putin’s Economy

2022年03月08日 | 政治・経済・社会
   ニューヨークタイムズのコラムで、ポール・クルーグマンが、「Why China Can’t Bail Out Putin’s Economy プーチンの経済を中国が救済できない理由」と言う興味深い見解を示した。
   ウクライナ侵攻で、追い詰められたロシア経済を、中国が救済可能かと言う問いに対して、「No」と応えて解説しているのである。
   ロシアに、どのような形で中国が関わるのか知りたかったんで、興味を感じた。

   まず、その前に、
   ウラジーミル・プーチンは、ウクライナへの侵攻を決定するにあたり、明らかにすべてを誤解した。彼は自国の軍事力について過大評価した。(ロシアは、経済力においても弱小の張り子の虎で、)さらに、彼はウクライナの士気と軍事力を大幅に過小評価し、民主主義政府の決議を予測することができなかった。特に、バイデン政権が、ウクライナの武装から経済制裁をめぐって西側を結集することなどまで上手くなし得たことに気づいていない。
   と、戦争の帰趨は明確だと言わんばかりである。
   クルーグマンは、この論文の前に、「Russia Is a Potemkin Superpower 」を書いていて、ロシアが見かけ倒しの弱小国であると説いていて、これは、私が、これまでに何度も書いていた見解と同じである。ロシア経済の弱小規模と脆弱性、一国では自立不可能な経済体制を理解しない限り、経済制裁の強力なブロー効果は理解できない。ロシアの石油と天然ガスばかりに脚光が当たっているが、この輸出で得た利益で、工業製品や原材料を輸入して、負んぶに抱っこで米欧に依存していたロシア経済のアキレス腱は実に脆いのである。
   いずれにしろ、誇大妄想に取り憑かれたプーチンの夢が、ロシアの命運を危機に陥れていて、どんどん首を絞めていると言うことである。
   2~3日で決着がつくと思われていた戦争でありながら、世界屈指の軍事大国であったはずのロシアが、開戦10日を経ても苦戦続きで、暗殺を恐れたプーチンが雲隠れしたと言う珍情報まで飛び交う戦局、
   早く戦争を止めてウクライナを解放して欲しい、その一念である。

   さて、問題の、中国は、代替貿易相手国として自らを提供することによって、プーチンの経済を救済することができるか?との問いに、出来ないと応えて、その理由を説明している。

   まず、経済制裁の影響だが、ロシア産原油輸入禁止については、アメリカにとっては5%なので影響は少ない。
   しかし、西側諸国はロシアの世界銀行システムへのアクセスを大幅に遮断しており、これは非常に大きな問題である。ロシアの輸出業者は、商品を海外に持ち出せても、支払いを受けるのは難しいうえに、おそらくもっと重要なのは、ロシアが輸入品の代金を支払うのは難しいことである。実際、法的に許可されたままのロシアの貿易でさえ、さらなる制限と政治的反発を恐れる欧米の企業が「自己制裁」に従事しているため、枯渇してくる。
   ロシアの貿易で、消費財はロシアの輸入の約3分の1にすぎないが、残りは資本財、中間財、つまり他の財の生産に使用される部品、そして原材料である。これらはロシアが経済を動かし続けるために必要なものであり、それらの欠如は重要なセクターを停止させる。たとえば、スペアパーツのカットオフとサービスは、ロシアの国内航空をすぐに台無しにする可能性がある。

   それでは、中国はプーチンに経済的なライフラインを提供することができるかという問題だが、クルーグマンは4つの理由をあげてNOと言う。
   第一に、中国は経済大国であるにもかかわらず、欧米製の飛行機のスペアパーツやハイエンドの半導体チップなど、ロシアが必要とするものを供給する立場にはない。
   (これと関連して、今日の日経が、「航空リース、ロシア撤退 民間半数、運行困難に」という記事を掲載した。いずれにしろ、米欧のハイテク製品の輸出禁止の影響は、ロシアの軍需産業にも壊滅的な打撃を与えるであろう。)
   第二に、中国自体は制裁に参加してはいないが、世界経済に深く統合されているので、中国の銀行や欧米企業のような他の企業が自己制裁に従事する可能性があることを意味する。つまり、より重要な市場の消費者や規制当局からの反発を恐れて、ロシアとの取引に消極的になる。
   第三に、中国とロシアは地理的に非常に離れている。ロシアの経済のほとんどはウラル山脈の西にあり、中国の経済のほとんどはその東海岸の近くにあり、北京はモスクワから3,500マイルの距離にあり、その広大な範囲を横切って物を移動する唯一の実用的な方法は、すでに過大なストレスがかかっている少数の列車を経由するしかない。
   最後に、ロシアと中国の経済力の極端な違いである。プーチンはソビエト時代の偉大さを取り戻すことを夢見ているかもしれないが、30年前のロシアとほぼ同じ大きさだった中国の経済は現在ロシアの10倍の大きさである。今や、ロシアはジュニアパートナーに過ぎず、実際には中国の従属国に非常に近い国であり、おそらくそれは、プーチンが夢見る彼の帝国ではない。
   したがって、中国はウクライナの侵略の結果からロシアを隔離することはできない。中国が、侵略を罰するために民主主義側の世界に加わった場合には、ロシアの経済的圧迫はさらに厳しくなる。しかし、ロシア経済危機への圧迫は、中国の参加がなくても非常に深刻となろう。
   プーチンの誇大妄想のために、血だけでなく経済的にも非常に高い代償を払うことになる。
   と、クルーグマンは結論づけている。

   さて、今回のウクライナ戦争では、中国は、態度を明確にせず傍観者の立場に終止しているが、戦争に反対する自由主義陣営からは、プロロシアと見做されて距離を置かれており、特に、経済協力のみならず経済支配を目論んで推進していた一帯一路戦略で、終点を意図していた西欧の反発離反は明白であり、苦しい立場に立たされるであろう。
   グローバル経済から距離を置いて孤立化するのか、GDP10分の1経済のロシアに擦り寄って恩を売って経済従属国に取り込むのか、どっちつかずの中途半端な対応をしてお茶を濁すのか、それとも、方向転換して西側に協力するのか、中国の誠意が問われている。
   バイデン大統領は、民主主義陣営と専制国家主義陣営との戦いだと言っており、近年では、民主主義陣営の退潮傾向にあったが、平和という視点が重要性を増してきたので、逆転する良い機会になりそうでもある。
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