フリードマンの「フラット化した世界」に対して、本当に世界はフラット化したのかと言う問題意識で、「グローバル金融はなぜ破綻したのか」を、非常に興味深く分析したのが、この「THE WORLD IS CURVED」。
示唆に富んだ面白い本だが、スミックは、恐慌であろうと何であろうと、資本主義経済においては、何よりも自由市場が重要な役割を果たすと言う信念
を持っている。
したがって、自由市場経済に大きく箍を嵌めようとする風潮には反対で、ここでは、「世界経済のトラブルメーカー」と言う章で、プライベート・エクイティ・ファームとヘッジファンドの役割を高く評価していることについて考えてみたい。
記憶に間違いがなければ、バフェットが、ジャンクボンドの帝王として罪に問われたマイケル・ミルケンを、屑に過ぎなかった業績不振企業のジャンクボンドを活用して大量の資金に流動性を与え、これらの企業を復興させ、今を時めく多くのベンチャー企業に資金を提供してアメリカ経済に企業家精神を蘇らせたと高く評価していたし、
また、英国ポンドを崩壊寸前にまで追い込んで大儲けしたジョージ・ソロスが、当時は大非難を浴びたが、このドラスティックなポンドの期せずした暴落とその適正化が、英国経済のその後の活性化と経済成長に大いに貢献したと言うのが、今日では広く認められている評価であることのを考えれば、あながち間違っているとばかりは言えない。
さて、スミックは、PEFやヘッジファンドに対して、これらのトラブルメーカーである金融機関は、謂わば、国際経済の真実を引き出す”自白薬”であって、時代に合わない政府の政策や見解にたえず挑戦し、しばしば、大企業のCEOが犯す自社についての偽りの説明に疑いの目を向けて、これらにアタックするところが社会の浄化剤としての貢献だと言うことになる。
ヘッジファンドは、偉大なグローバリゼーション劇の最初に登場した役者で、全世界の経済を広くマクロ経済的に分析・評価して、様々な投資方法を駆使して、多数の国際市場の動きを反映するポートフォリオを組み立ててると言うことを始めた。新グローバル金融をしっかり利用して最高の裁定取引をやる方法を考え出したイノベーターだと言うのである。
グリーンスパンが、ヘッジファンドを「花粉を広めるミツバチ」だと表現したとかで、ヘッジファンドなかりせば、金融市場は更に厳しい苦難に直面した筈だと言い切る。
昔はクローニー資本主義で、自由に動く市場がなくインサイダーのコネクションが跋扈していた。しかし、今では、ヘッジファンドの投資家が総出で、市場の中の不条理や非効率や、また、未来へのビジョンを欠き、事業の効率化と競争力強化に意欲も勇気もない無能CEOなどを鵜の目鷹の目で探しており、長期にわたって市場の非効率化を排除するなど、市場の収束と安定のために大いに貢献しており、市場のシステムが突如として深刻な打撃を受けることから救っているのだと言う。
面白いのは、ヘッジファンドなどの金融機関を、強欲者・悪魔の化身と蔑んでいたドイツが、彼らの跋扈・活躍が、ドイツ企業と金融機関の再編と現代化を促して、ドイツの生産性を大いに高めて、他のヨーロッパ諸国よりもグローバル市場での競争力をつけたと言っていることである。
先に、ドイツ取引所の元CEOであったW.G.ザイフェルトの「もの言う株主」の書評で、乗っ取りを策して暗躍した英国のTCIとの攻防について書いたが、ハゲタカファンドなどと外資を毛嫌いする日本と良く似たドイツの企業経営を、ハゲタカ側から見るとどうなるか、社会浄化だと言うのだが、改めて考えてみるのも面白いかも知れないと思っている。
更に興味深いのは、ヨーロッパを筆頭に、ヘッジファンドに規制の拘束衣を着せようと言う規制強化案が勢いを増しているが、これには、大手ヘッジファンドは、競争相手となる新規企業への参入ハードルを高くして排除することになるので、大いに歓迎していると言う指摘である。
政府などの規制について、強化か緩和かで議論が絶えないが、何か起こると規制強化の風潮が強くなり、それが既得利権者を優遇することになると言った例であろう。
問題は、経済社会を改革し発展を策するイノベーターたる新規参入者を排除することで、アメリカでは、SOX法の制定によって起業が大きく減少したと言われており、起業家の活躍こそアメリカ経済のダイナミズムであり活力の源泉だと主張するスミックは、政府の規制強化には強力に反対している。
アメリカ政府が、税率アップや規制強化でヘッジファンドなどに対しようとしているが、愚の骨頂で、世界中がヘッジファンドなどイノベーター争奪戦に鎬を削っており、資本が安全性を考慮して最高収益を求めて世界中を動き回るように、グローバル起業家もまた、規制・法制の状態や”対リスク収益率”を判断材料として基地を選ぶのだと警鐘を鳴らしている。
イギリスで殆ど生まれているスポーツ競技のように、よりスポーツを高度化して楽しませてくれるフェアーなルールを、このグローバルな経済社会に構築できないものなのかどうか、アメリカではなく、イギリスの知恵が生かせないかと考えることがある。
もののイノベーションについては、黒白がはっきり付き易いが、法制やルール、社会制度の規制や規範など社会のソフトについては、その判定が非常に難しい。
例えば、知財の強化としての特許法などは必要だが、イノベーションを抑制するなど問題があるし、殆どのルールは、経済社会の固定化を招き、斬新なイノベーターが活躍するターボ資本主義の足を引っ張っている。
話が横道にそれてしまったが、このスミックの本は、非常に起業家とその経済社会の牽引車としての役割使命等について熱っぽく語っていて、非常に示唆に富んでいる。この点については、項を改めて書いてみたいと思っている。
示唆に富んだ面白い本だが、スミックは、恐慌であろうと何であろうと、資本主義経済においては、何よりも自由市場が重要な役割を果たすと言う信念
を持っている。
したがって、自由市場経済に大きく箍を嵌めようとする風潮には反対で、ここでは、「世界経済のトラブルメーカー」と言う章で、プライベート・エクイティ・ファームとヘッジファンドの役割を高く評価していることについて考えてみたい。
記憶に間違いがなければ、バフェットが、ジャンクボンドの帝王として罪に問われたマイケル・ミルケンを、屑に過ぎなかった業績不振企業のジャンクボンドを活用して大量の資金に流動性を与え、これらの企業を復興させ、今を時めく多くのベンチャー企業に資金を提供してアメリカ経済に企業家精神を蘇らせたと高く評価していたし、
また、英国ポンドを崩壊寸前にまで追い込んで大儲けしたジョージ・ソロスが、当時は大非難を浴びたが、このドラスティックなポンドの期せずした暴落とその適正化が、英国経済のその後の活性化と経済成長に大いに貢献したと言うのが、今日では広く認められている評価であることのを考えれば、あながち間違っているとばかりは言えない。
さて、スミックは、PEFやヘッジファンドに対して、これらのトラブルメーカーである金融機関は、謂わば、国際経済の真実を引き出す”自白薬”であって、時代に合わない政府の政策や見解にたえず挑戦し、しばしば、大企業のCEOが犯す自社についての偽りの説明に疑いの目を向けて、これらにアタックするところが社会の浄化剤としての貢献だと言うことになる。
ヘッジファンドは、偉大なグローバリゼーション劇の最初に登場した役者で、全世界の経済を広くマクロ経済的に分析・評価して、様々な投資方法を駆使して、多数の国際市場の動きを反映するポートフォリオを組み立ててると言うことを始めた。新グローバル金融をしっかり利用して最高の裁定取引をやる方法を考え出したイノベーターだと言うのである。
グリーンスパンが、ヘッジファンドを「花粉を広めるミツバチ」だと表現したとかで、ヘッジファンドなかりせば、金融市場は更に厳しい苦難に直面した筈だと言い切る。
昔はクローニー資本主義で、自由に動く市場がなくインサイダーのコネクションが跋扈していた。しかし、今では、ヘッジファンドの投資家が総出で、市場の中の不条理や非効率や、また、未来へのビジョンを欠き、事業の効率化と競争力強化に意欲も勇気もない無能CEOなどを鵜の目鷹の目で探しており、長期にわたって市場の非効率化を排除するなど、市場の収束と安定のために大いに貢献しており、市場のシステムが突如として深刻な打撃を受けることから救っているのだと言う。
面白いのは、ヘッジファンドなどの金融機関を、強欲者・悪魔の化身と蔑んでいたドイツが、彼らの跋扈・活躍が、ドイツ企業と金融機関の再編と現代化を促して、ドイツの生産性を大いに高めて、他のヨーロッパ諸国よりもグローバル市場での競争力をつけたと言っていることである。
先に、ドイツ取引所の元CEOであったW.G.ザイフェルトの「もの言う株主」の書評で、乗っ取りを策して暗躍した英国のTCIとの攻防について書いたが、ハゲタカファンドなどと外資を毛嫌いする日本と良く似たドイツの企業経営を、ハゲタカ側から見るとどうなるか、社会浄化だと言うのだが、改めて考えてみるのも面白いかも知れないと思っている。
更に興味深いのは、ヨーロッパを筆頭に、ヘッジファンドに規制の拘束衣を着せようと言う規制強化案が勢いを増しているが、これには、大手ヘッジファンドは、競争相手となる新規企業への参入ハードルを高くして排除することになるので、大いに歓迎していると言う指摘である。
政府などの規制について、強化か緩和かで議論が絶えないが、何か起こると規制強化の風潮が強くなり、それが既得利権者を優遇することになると言った例であろう。
問題は、経済社会を改革し発展を策するイノベーターたる新規参入者を排除することで、アメリカでは、SOX法の制定によって起業が大きく減少したと言われており、起業家の活躍こそアメリカ経済のダイナミズムであり活力の源泉だと主張するスミックは、政府の規制強化には強力に反対している。
アメリカ政府が、税率アップや規制強化でヘッジファンドなどに対しようとしているが、愚の骨頂で、世界中がヘッジファンドなどイノベーター争奪戦に鎬を削っており、資本が安全性を考慮して最高収益を求めて世界中を動き回るように、グローバル起業家もまた、規制・法制の状態や”対リスク収益率”を判断材料として基地を選ぶのだと警鐘を鳴らしている。
イギリスで殆ど生まれているスポーツ競技のように、よりスポーツを高度化して楽しませてくれるフェアーなルールを、このグローバルな経済社会に構築できないものなのかどうか、アメリカではなく、イギリスの知恵が生かせないかと考えることがある。
もののイノベーションについては、黒白がはっきり付き易いが、法制やルール、社会制度の規制や規範など社会のソフトについては、その判定が非常に難しい。
例えば、知財の強化としての特許法などは必要だが、イノベーションを抑制するなど問題があるし、殆どのルールは、経済社会の固定化を招き、斬新なイノベーターが活躍するターボ資本主義の足を引っ張っている。
話が横道にそれてしまったが、このスミックの本は、非常に起業家とその経済社会の牽引車としての役割使命等について熱っぽく語っていて、非常に示唆に富んでいる。この点については、項を改めて書いてみたいと思っている。