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ミステリ感想-『狂乱廿四孝』北森鴻

2011年05月11日 | ミステリ感想
~あらすじ~
明治三年。脱疽のため両足を切断した名女形、澤村田之助の復帰舞台に江戸は沸いた。
ところが、その公演中に主治医が惨殺され、さらには、狂画師・河鍋狂斎が描いた一枚の幽霊画が新たな殺人を引き起こす。
戯作者河竹新七の弟子・峯は捜査に乗りだすが、事件の裏には歌舞伎界の根底をゆるがす呪われた秘密が隠されていた。
第六回鮎川哲也賞。


~感想~
鮎川賞を受賞したデビュー作。
幽霊画の謎を軸に猟奇殺人をちりばめ定番トリックで落とした、一見して本格ミステリらしい構成だが、澤村田之助という実在の歌舞伎役者の悲劇を描くことが主眼であり、ミステリとして期待しすぎるのはよろしくない。
本名と屋号と愛称が入り混じる人名や専門用語を、由次郎――田之助のこと――、などと注釈を入れ、人物には極端なキャラ付けをすることで書き分けているのはいいが、その注釈がセリフの中にまで「寺島――菊五郎の本名――の、これはいったいどういう了見だ」のように入り込むのは明らかに失敗。( )付けで注を入れるなら気にならないのだが、セリフ内の――付けは注に限らず実際のセリフでも取られる手段のため、非常にまぎらわしく、また明治初期という舞台を描く上で、雰囲気をいちじるしく損ねてしまっている。これは改稿してもよかったろうに。
だが作者は意外なほど江戸情緒をかもし出すことに興味がなく(それともかもし出せず?)その筆は田之助とその周囲の人物像を浮き彫りにすることと、事件を追うことだけに集中しているので、雰囲気やら何やらを気にするのは余計なことだろうか。

ともあれデビュー作らしい力作なのは間違いないが、事件も物語自体も雑然としすぎた印象であり、併録された原型となった短編のほうがまとまりは良い。しかし芦辺拓もそうだが、氏の時代がかった大仰な文章は、時代を古く設定したほうがやはりしっくり来る。個人的には全く合わない作家なのだが、読むなら今後はこういう著書を選ぶべきだろう。


11.5.9
評価:★☆ 3
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