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ミステリ感想-『折れた竜骨』米澤穂信

2011年12月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
北海に浮かぶソロン諸島。その領主の娘・アミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、彼に従う少年ニコラに出会う。
ファルクはアミーナの父に、あなたは暗殺騎士に命を狙われている、と告げた。
自然の要塞であったはずの島で暗殺騎士の魔術に斃れた父、“走狗”候補の八人の容疑者、いずれ劣らぬ怪しげな傭兵たち、そして、甦りし「呪われたデーン人」が襲来し……。
魔術や呪いが跋扈する世界で、論理の刃は真相にたどり着くことができるのか?


~感想~
作者曰く西澤保彦のSFミステリや山口雅也『生ける屍の死』を念頭において描かれた、剣と魔法が横溢する中世ファンタジーの世界に本格ミステリを溶けこませた特殊設定もの。
超傑作漫画『うしおととら』や『からくりサーカス』で知られる藤田和日郎を誰かが「漫画力が高い」と評していたが、それを拝借すれば米澤穂信は実に「小説力が高い」作家である。
アマチュア時代に描いていたとはいえ、中世ファンタジーの世界観、文体、人物像を見事に表出しながら、一歩間違えればなんでもありに陥ってしまう魔法にうまいこと制限を設け、ド本格な論理で貫く。これはとんでもない離れ業である。
捜査や合戦のさなかに豊富な伏線をばらまき、本格ミステリらしい一堂に会した解決編で、それを回収しつつ一人また一人と消去法で真犯人を追い詰め、最後の最後には――と、ファンタジーと本格をこれ以上ないほどの高水準で融合してみせた、大変な労作であり、かつてない傑作である。
なにぶんファンタジーを読みなれないもので、ずいぶんと読了するのに骨が折れたが、今年のこのミスや本ミスの1位になっても、全く驚かない。
肝心の(?)ファンタジー興趣あふれる合戦があまり描かれないのは拍子抜けも、それでも年度代表作と呼ぶにふさわしい本格物、でしょう。


11.12.9
評価:★★★★☆ 9
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