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ミステリ感想-『Wの悲劇』夏樹静子

2016年05月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
一条春生は家庭教師をしている女子大生の和辻摩子に卒論の手伝いを頼まれ、別荘に招待される。
ところが大企業の会長である摩子の祖父・与兵衛を筆頭に一癖も二癖もある親族らが集まる中、摩子が与兵衛を刺殺してしまう。
一族の名誉と摩子を守るため、居合わせた人々は一致団結し強盗による犯行を偽装するが……。

82年文春4位、東西ベスト(1985)75位


~感想~
倒叙形式で犯行が描かれ、名刑事の捜査により1つ2つとミスが露見していき……という流れから、後半は一気に物語が引っくり返る。
そのまま行けば中編程度でまとまるところ、意外な展開から事件が反転していく様は実に巧みで、エラリイ・クイーンのX・Y・Zの悲劇を向こうに取り第四の「Wの悲劇」と銘打っただけはある、いわゆるプロット型本格(…でいいんだよな?)の秀作である。

ここからは余談だが、薬師丸ひろ子が主演し出世作となった映画版の詳細をwikiで調べ唖然とした。
作品の根幹をなすある部分を「封建社会じゃあるまいし」と一刀両断し、本編を単なる劇中作に押し込んで、薬師丸ひろ子演じる若手女優の青春物語に仕上げた……ってこれWの悲劇でもなんでもないですやん。
映画自体の出来は相当に良かったようだが、原作者の夏樹静子も「劇中劇になっていてあぜんとした」と後年に述懐するほどの暴挙で、2012年に武井咲の主演でドラマ化された際にもなぜか摩子には瓜二つのそっくりさんがいて春生はアラフォーという謎の改変がなされ、今も昔も映画・ドラマ・アニメ等の映像媒体の原作に対する扱いの悪さ、愛と敬意の無さは酷いものだと、改めて思った次第。


16.5.12
評価:★★★ 6
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