~あらすじ~
大富豪にして絶倫の西門慶を取り巻く、李瓶児、潘金蓮ら多くの妾たちと、愛憎渦巻く邸内で起こるいくつもの陰謀、殺人、暴虐の数々。
ある時、二人の妾が足を切られた上で殺害され、西門慶の親友にして幇間の応伯爵は真相を見抜くが、なぜか口をつぐみ……。
中国四大奇書に数えられる「金瓶梅」を作者が魔改造した空前絶後の連作短編集。
東西ベスト(2012)30位
~感想~
これはなんという麻耶雄嵩案件……ッ!!(逆です)
「山田風太郎はすごい。特に妖異金瓶梅はものすごい」という噂は届いていたが、噂以上の代物であった。
1話目で予感を覚え、2話目で確信し、3話目以降は恍惚に至る驚愕の仕掛けが施される。発表から60年を経た現在でもほとんど類を見ない、というか真似をすれば即座に「ああ、山風のアレね」と片付けられてしまう、他の追随を許さない前代未聞にして空前絶後のプロットで、作者は「探偵小説の仲間に入れてくれない(´・ω・`)ショボーン」と述懐しているが、60年前にこんなオーバーテクノロジーを見せられた探偵小説界の方こそ( ゚д゚)ポカーンだったことは想像に難くない。
また恐るべきプロットにばかり目が行くものの、各編の質も実に高く、密室、毒殺、首切りといった本格ミステリの要素をこれでもかとぶち込み、それぞれが「金瓶梅」という舞台ならではのトリックと、何より「妖異金瓶梅」という設定でなければ成立しない動機で彩られていることも驚異的である。
終盤には大きく物語が動き、破局を迎えるのも見どころで、それこそ「水滸伝」や「西遊記」といった他の四大奇書に列せられる大河小説を読み終えたような充足感すら覚えることだろう。
今さら読んだ身でこんなことを言うのも赤面の至りというものだが、それでもあえて言わせてもらえば、まさにミステリマニア必読の歴史的傑作である。
↓以下ネタバレ↓
角川文庫版の日下三蔵の解説が秀逸なため引用する。
「ミステリの意外性の要素として、フーダニット、ハウダニット、ホワイダニットの三つがよく挙げられるが、『妖異金瓶梅』の恐ろしい点は、途中からこのうちの二つを完全に捨て去って、それでもなおかつ意外性抜群の推理小説になっているところだ」
そうなのである。フーダニットとホワイダニットを完全に放棄しても本格ミステリは成立するのである。
読者は2話目から犯人も動機も丸分かりなのに、興味を失わずに読み続け、そして驚かされ続ける。こんな超絶技巧にお目にかかったのは久しぶりである。
そしてなんといっても特筆すべきは潘金蓮という稀代の名犯人にして名ヒロインである。本作の知名度がもっと高ければ、ミステリ界名犯人・名ヒロインランキングで1位を争うに違いないが、ヒロインはともかく彼女が犯人であることを明かせば、それだけで致命的なネタバレになってしまうのが残念。実のところ本作において「犯人は誰か」ということはきわめてどうでもいい話なのだが、事前にその情報を得ているかどうかで、初読時の驚きが多少なりとも薄れてしまうのは間違いない。
きっとこの潘金蓮をめぐるジレンマはミステリ界において未来永劫にわたり続いていくのだろう。
なおネタバレといえば角川文庫版は、中島河太郎御大は当然として日下三蔵の解説も、本作の魅力を語るためにやむを得ず大いにネタバレしているため、くれぐれも先に読まないよう注意を。
17.6.5
評価:★★★★★ 10
大富豪にして絶倫の西門慶を取り巻く、李瓶児、潘金蓮ら多くの妾たちと、愛憎渦巻く邸内で起こるいくつもの陰謀、殺人、暴虐の数々。
ある時、二人の妾が足を切られた上で殺害され、西門慶の親友にして幇間の応伯爵は真相を見抜くが、なぜか口をつぐみ……。
中国四大奇書に数えられる「金瓶梅」を作者が魔改造した空前絶後の連作短編集。
東西ベスト(2012)30位
~感想~
これはなんという麻耶雄嵩案件……ッ!!(逆です)
「山田風太郎はすごい。特に妖異金瓶梅はものすごい」という噂は届いていたが、噂以上の代物であった。
1話目で予感を覚え、2話目で確信し、3話目以降は恍惚に至る驚愕の仕掛けが施される。発表から60年を経た現在でもほとんど類を見ない、というか真似をすれば即座に「ああ、山風のアレね」と片付けられてしまう、他の追随を許さない前代未聞にして空前絶後のプロットで、作者は「探偵小説の仲間に入れてくれない(´・ω・`)ショボーン」と述懐しているが、60年前にこんなオーバーテクノロジーを見せられた探偵小説界の方こそ( ゚д゚)ポカーンだったことは想像に難くない。
また恐るべきプロットにばかり目が行くものの、各編の質も実に高く、密室、毒殺、首切りといった本格ミステリの要素をこれでもかとぶち込み、それぞれが「金瓶梅」という舞台ならではのトリックと、何より「妖異金瓶梅」という設定でなければ成立しない動機で彩られていることも驚異的である。
終盤には大きく物語が動き、破局を迎えるのも見どころで、それこそ「水滸伝」や「西遊記」といった他の四大奇書に列せられる大河小説を読み終えたような充足感すら覚えることだろう。
今さら読んだ身でこんなことを言うのも赤面の至りというものだが、それでもあえて言わせてもらえば、まさにミステリマニア必読の歴史的傑作である。
↓以下ネタバレ↓
角川文庫版の日下三蔵の解説が秀逸なため引用する。
「ミステリの意外性の要素として、フーダニット、ハウダニット、ホワイダニットの三つがよく挙げられるが、『妖異金瓶梅』の恐ろしい点は、途中からこのうちの二つを完全に捨て去って、それでもなおかつ意外性抜群の推理小説になっているところだ」
そうなのである。フーダニットとホワイダニットを完全に放棄しても本格ミステリは成立するのである。
読者は2話目から犯人も動機も丸分かりなのに、興味を失わずに読み続け、そして驚かされ続ける。こんな超絶技巧にお目にかかったのは久しぶりである。
そしてなんといっても特筆すべきは潘金蓮という稀代の名犯人にして名ヒロインである。本作の知名度がもっと高ければ、ミステリ界名犯人・名ヒロインランキングで1位を争うに違いないが、ヒロインはともかく彼女が犯人であることを明かせば、それだけで致命的なネタバレになってしまうのが残念。実のところ本作において「犯人は誰か」ということはきわめてどうでもいい話なのだが、事前にその情報を得ているかどうかで、初読時の驚きが多少なりとも薄れてしまうのは間違いない。
きっとこの潘金蓮をめぐるジレンマはミステリ界において未来永劫にわたり続いていくのだろう。
なおネタバレといえば角川文庫版は、中島河太郎御大は当然として日下三蔵の解説も、本作の魅力を語るためにやむを得ず大いにネタバレしているため、くれぐれも先に読まないよう注意を。
17.6.5
評価:★★★★★ 10