小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『後悔と真実の色』貫井徳郎

2022年04月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
若い女性が殺され、指を切り取られる連続殺人事件が発生し、犯人は「指蒐集家」と呼ばれる。
「名探偵」とあだ名される捜査一課の西條輝司は、事件解決だけを考え他者の目を気にしないあまりに、周囲から恨みを買い窮地に陥る。

2009年山本周五郎賞、本ミス9位

~感想~
作者は本作で山本周五郎賞に輝いた際の受賞の言葉で「長い間ミステリーを書いてきましたが、キャリアを重ねるにつれ、ミステリーを書く際に必要な稚気や遊び心が薄れてきていました。その分、人物の心理や運命の変転の描写、テーマの深化などに力を注ぐようになりました。自分の故郷がミステリーであるからには、トリックやどんでん返しを骨格とした小説も書かなければならないとも考えました。それが本書でした」と述べており、その言葉通りに本ミス9位にも入り本格ミステリとしても高く評価された。
異名付きの連続殺人鬼を個性豊かな刑事たちが足を使った捜査で追い、所轄と一課がいがみ合い、抜け駆けや足の引っ張り合いをする実にオーソドックスな刑事小説の側面と、若い女性以外の共通点が見当たらない被害者をつなぐミッシングリンクや歪んだ動機、狡猾な犯人との駆け引きなどのミステリ的側面が絡み合う。
のみならず、読者を最も驚かせるのは中盤に急転直下で起こる、ある意外な展開だろう。
これこそ「人物の心理や運命の変転の描写、テーマの深化などに力を注ぐ」であり、ある人物がどん底に叩き込まれ、さらに底の底へと際限なく沈んでいく様は、事件やトリックよりもむしろ続きが気になり引き込まれてしまう。
それでいて事件は「トリックやどんでん返しを骨格とした小説」としてきっちり意表を突いてきて、物語としてもミステリとしても満足行く。こんなことが言えるほど作者の本を読んではいないが、貫井徳郎の集大成と呼ぶべき渾身の一作だろう。

余談だが「その時間はネトゲをしていた」というアリバイを主張され、一緒に遊んでいた相手をプロバイダに身元確認し全員の証言を当日中に得ていて吹いた。ネトゲの遊び相手が全員近所に住んでるのか? いくら時代設定が2000年代前半としてもおかしい。


22.3.29
評価:★★★☆ 7
コメント