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ミステリ感想-『ヴィオロンのため息の』五十嵐均

2022年04月16日 | ミステリ感想
~あらすじ~
1994年、軽井沢。法務大臣の妻の久世敦子は、50年前に別れたハンスを待ちわびていた。
1944年、軽井沢。外交官の娘の敦子は、ピアノ教室の生徒のハンスに淡い恋心を抱く。
だがハンスはDデイ、後にノルマンディー上陸作戦と呼ばれる諜報をめぐり暗躍するスパイだった。

1994年横溝正史ミステリ大賞、文春9位

~感想~
作者は本作で横溝賞を射止めたが、数々の事業を立ち上げ出版・映像畑で長年働き、エラリイ・クイーンとも親交を結んだ末の60歳でのデビューであり、しかもレジェンド夏樹静子の実兄で、若き日の夏樹御大にミステリの手ほどきをした人物で、単に新人作家と呼ぶのがはばかられる。
本作も実に達者な出来栄えで、歴史if物というか、歴史の裏に有り得た事実を描くロマンにあふれる。誰もが簡単な概要は知っているノルマンディー上陸作戦を題材に採ったのも上手く、歴史に詳しくない読者でも、容易にその重要性や戦争の駆け引きが理解できるだろう。
ちなみにタイトルの「ヴィオロンのため息の」もノルマンディー上陸作戦で実際に暗号として使われたものである。
そして何よりも上手いのはこの設定・題材で恋愛譚に仕立て上げたことで、歴史ロマンを恋愛物にこう絡める方法があったのかと驚かされた。
後半には物語がほぼ終わり、これ以上何を描くのかと戸惑う場面から一気にミステリに舵を切り、それは流石に意外性こそさほど無いものの、恋愛物としてはこれ以上ないところに落ち着いて行くし、50年の月日が流れたことを、やはり上手く活かしている。
歴史ロマン・恋愛・ミステリが溶け合った実に達者な物語である。


22.4.15
評価:★★★ 6
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