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ミステリ感想-『俺が俺に殺されて』蒼井上鷹

2007年06月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
別所に殺された俺は、目覚めたとき別所になっていた。さらに俺が殺された同時刻、兄が転落死していた。
別所にはその時、俺を殺していたというアリバイがある。しかし別所になった俺はそれを明かすことはできない!
犯行を疑われた俺(別所)は不本意ながら、俺と俺を殺した別所を守るために真相を追うことに……。


~感想~
設定は面白いし、終局で明かされる趣向も意欲にあふれている。が、それが設定の勝利につながっていない。
まず事件そのものと比較して設定の練り込みが浅い。全盛期の西澤保彦のSFミステリを見ていれば、この設定自体になんらかの仕掛けがあると考えてしまいがち。しかも「なぜ魂が入れ替わったのか」「別所の魂はどこへ行ったのか」という大きな2つの謎があるのだから期待してしまうのも当然だろう。しかしそこにはなんの真相も仕掛けもありゃしない。「なぜか入れ替わりました」「別所の魂はどっかに行きました」ではがっかりだ。
また事件の真相もしごく当然のところに落ちついてしまった。設定の突飛さと比べて真相はあまりにおとなしい。さんざん書かれてきた「魂入れ替わりもの」だから、いまさら「入れ替わったことにより起こる騒動」を細かく描かなくともいいとは思うが、あまりに騒動も起こらなさすぎる。別所が沈黙を強いられているという設定も、騒動を起こさないために作ったのだろうと思えてしまう。せっかく入れ替わったのに周囲の人間は勝手にべらべら情報提供する、家庭は帰って寝るだけの場所と、都合が良すぎはしないか。
ラストのブラックなオチだけが蒼井上鷹の本領発揮といったところ。長編は3作つづけて(個人的に)大ハズレでした。


07.6.9
評価:★☆ 3
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