小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『左90度に黒の三角』矢野龍王

2007年11月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「館で演じられた殺人劇を、証言者と話せるモニターとPCが設置された監禁部屋で推理せよ。正解ならば最大2人を解放、不正解ならば殺害」大富豪の老女に監禁された男女10人が繰り広げる推理ゲーム。狂気を孕む老女の言動、薬物中毒少女の奇妙な証言、PCにあった「左90度に黒の三角」という言葉から真相を見抜けるのか!?究極のデスゲームミステリー開幕。
※コピペ


~感想~
『極コロ』・『絶マン』・『箱テン』とミステリ界にサバイバル馬鹿ミステリを放ってきた龍王による第四弾!
読めば読むほどよくできているミステリはざらにあるが、読むほどに雑な造りが明らかになるものはあまりない。無論、本書はそのまれな例である。
冒頭に出てくる男からして一人称が「おいら」で口癖が「じゃん」という感情移入を断固拒否するキャラだが、こいつは主人公じゃないので立ち読みされた方は安心して読み進めてほしい。
もっとも内容も序盤から超能力→落とし穴→推理ゲームと問答無用の龍王ワールドで他の追随を許さず、物語は半分ほど進んでもまだ推理するべき謎すら明かされず、明かされたら明かされたで具体的になにを解けばいいやら解らないという読者置き去りの展開。
いつもどおり見当たらない緊張感や推理味にくじけず読み進めても、待ち構える真相はいまいち釈然としない。ひょっとして龍王、設定だけ考えてミステリ部分は後付けしたんじゃあと疑いたくなるが、最後の最後に意外だけれどあまり機能していないトリックが明らかになるので、それだけを楽しみに読みとおしていただければ幸いである。
なお伏線っぽい意味深だったセリフ(ヒドリ様など)は意味深なだけで投げっぱなしなので気にしないでいただきたい。細かいことを気にしていたら龍王作品は読めません。ちなみに最大の見どころは表紙絵で、読了後に見返すと「お前らそんな美形キャラじゃないだろ!」とつっこみたくなること請け合い。
それにしても伏線(というかトリックを成立させる理由)が「語り手がヤク中だから」という潔さはただことではない。さすが龍王!
文章が多少こなれてしまったのか、前作までのように「ガッデム!」「猪口才な!」のような名言はなくなってしまったが、中身はあいかわらずの龍王ミステリだから安心していただきたい。
最後に龍王自身によるコメントを紹介し、感想を終えよう。


 いよいよ本日のメインイベントです。大変長らくお待たせしました。メフィスト賞の良心こと矢野龍王です。
 メフィスト賞作家と言うと、キワモノ揃いで有名です。おかげで私のように、ヒューマニズムに溢れる日常の謎に迫った甘酸っぱくてハートウォーミングな作風の作家にとって、お世辞にも居心地のいい環境とは言えません。郷に入れば郷に従えとでも言いましょうか。ここはひとつ自分の殻を破って、ちょっぴりアグレッシブで前衛的なミステリーに挑戦してみようと思い立ちました。『左90度に黒の三角』です。
 どうせまた地雷じゃないのかって? 私の作品がいつも素敵だからって、そんなにおだてないでください。ここだけの話ですが、今回のは世紀の大傑作です。作者本人が言うのですから、間違いありません! ……たぶん。
 さて話は変わりますが、このたびサイン会を行なう運びとなりました。私は恥ずかしがり屋さんなので、人前に出るのが苦手です。ところが編集担当のP氏にごり押し……いやいや、読者の皆様に少しでも恩返しを、とこのような場を企画してもらうことになった次第です。『左90度に黒の三角』を読んで、万が一ちょっとでもつまらないと感じた方がいらっしゃれば……そんなことはあり得ないのですが、私をハリセンで殴る絶好のチャンスです。都合のつく方はマイハリセンをご用意の上、お越しください。グーで殴るのは禁止です。



やはり龍王は偉大である。
ところで「矢野龍王は本名」という情報を仕入れたのだが本当だろうか?


07.11.12
評価:★ 2
コメント